2-(6)-2 調達・購買力はどのようにして発揮するのか「私の経験」
「調達・購買部門は相手にしません。設計者や生産部門に向かい営業します」
そこまではっきりと言ってしまう営業マンを見たことがあります。この発言には、次のような思惑があるようです。
・ バイヤーは何を買うかを決定しない(できない)
・ バイヤーの社内での力は弱いから、設計者や生産部門が「買いたい」といったら、バイヤーは注文書を発行するだけだろう
・ つまりバイヤーに売り込む意味はない
これはその営業マンへの批判ではありません。少なからぬ調達・購買部門を見るにつけ、「ここには売り込んでもしかたないな」と思うことが多いからです。自ら「ああ、そういうことは設計に電話して」とか。
だからこそバイヤーは変わらなければいけないわけですが、それにしても気概くらい持っていないのかよ、とは思います。これでは誰もバイヤーを信用しませんし、調達・購買部門が力を発揮できるはずもありません。
ただし、調達・購買力を発揮している頼もしいバイヤーもいます。以前、知り合ったシンガポール人のバイヤーです。
ある日、日系サプライヤーの営業のトップがそのバイヤーのオフィスに訪問したことがあります。そのとき、その営業トップはシンガポールのバイヤー連中が日本語を解さないと思ったらしく、こうつぶやきます。
「現地人はいいから、日本人のマネージャーに会わせて」
その発言が彼の怒りを買ったのです。彼は日本語を理解できました。自分たちの存在を無視された――、これは「そのまま放っておけばマズい」と思ったそうです。翌日から、彼は全身全霊でそのサプライヤーへの発注金額をゼロにすべく、「サプライヤー外し」に奮起しました。2ヵ月後、シンガポールでそのサプライヤーから購入する金額はゼロになりました。慌てて、その営業トップは謝罪にきたそうです。彼は、「俺たちの力をみくびるな」とだけ言いました。
「カッコいい」
私は彼からこの話を聞いたときにそう感じました。サプライヤーをいじめることがカッコいいわけではありません。自尊を守っているところがカッコいいと感じたのです。自らの仕事にプライドを持ち、地位確立に情熱を燃やし、自己の存在意義を「これでもか」というくらい見せつけるこの姿。私は、やる気も覇気もなく、ぼんやり漂うだけのバイヤーを見るたびに彼のことを思い出します。
獲得した調達・購買力を発揮するには、冒頭に書いたように競合の徹底やペナルティー制度やコスト低減実績のフィードバックなどを徹底しましょう。それに加えて、必要なのはシンガポール人バイヤーがやったような信賞必罰です。サプライヤーがバイヤーに対してある意味「恐れ」を持ってもらわねば、究極的には調達・購買力など行使できません。
「ナメられたら、おしまいだ」。こう簡単に言ってしまってもいいでしょう。
バイヤーもサプライヤーも馴れ合いで仕事をしていてはプロではないはずです。時に厳しく、芯を持って。当然のことを徹底し、調達・購買力を存分に発揮して下さい。