ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

「工場見学の方法」

・工程の「価値」分析

前回に引き続き、工場の見方を続けていこう。

前号で見たのは、それぞれの工程のスピードから生産性を確認し、そのうえでボトルネックを明らかにし、その付加価値を比較するものだった(有料会員の方はバックナンバーを見ていただけるとありがたい)。

さて、ここから実際、バイヤーとしてその工程が「いくらの価値があるか」を確認する方法を見ていこう。つまり、「見積り」と「実際の工程」を比較するときに、高いのか安いのかを確認する方法である。

バイヤーが見積りとして、「加工費=90円」というものを受け取っていたとする。ここでは簡易的に、加工費とは労働者が何かを組み立てる工程としてほしい。つまり、機械は関与しておらず、何らかの部品を投入し、それを組み付ける(アッセンブリーする)製品を想定してほしい。機械が動く工程(成形等)の価格分析はまた別途書く。

さて、このような工程があるとする。

<図をクリックいただくと大きく表示することができます>

何かの部品が投入され、それを第1~6工程までで組み付ける工程だ。それぞれの工程には何でもよいから想定してほしい。たとえば、シールを貼り付けるとか、動作確認をするとか。それらの作業を6つの工程でやるのだ。

さて、ここで一般的な計算としては、この工程の「価格」を査定するには、次の式がある。

<図をクリックいただくと大きく表示することができます>

「作業者時間レート」「監督者時間レート」とは、もちろんその工場が彼らにかけているコストである。作業者が時間あたり3000円のコストがかかっていて、監督者が5000円のコストがかかっているとする。

作業者5人に、監督者が一人いるとすれば、

  • 3000円×5+5000円=20,000円

がこの工程の時間コストだ。ここで、作業者+監督者=6人だから、

  • 20,000円÷6人=3333円/人

が一人あたりの平均時間コストとなる。

上記の計算式では、これをさらに60×60=3600で割っている。これは秒あたりコスト(加工賃率)を求めるためだ。すなわち、一人あたり3333円の時間コストがかかっている工程であれば、秒あたりコスト(加工賃率)は次のように求められる。

  • 3333円÷3600秒=0.93円/秒

つまり、作業者が1秒作業するごとに、0.93円のコストがかかっているのである。しかし、この計算をしたときに、さまざまな困難が立ちはだかる。まず、監督者が作業者何人に対して一人存在するのかばらつきがある。また、作業者の時間あたりコストや監督者の時間あたりコストを把握するのは難しい。工場やサプライヤーによっても違うし、しかもそれを聞き出すことができない。

では、どうするか。

私が勧めているのは、「工場作業者1秒あたり1円」で計算することである。

これは統計上のデータで示すことができない種類のものなので、それは「私の経験上からだ」としかいえない。しかし、これで実務的な支障はないのではないかと思う。

これをさっそく使ってみよう。

<図をクリックいただくと大きく表示することができます>

このような工程があるとする。ここで、面倒な計算はやめておいて、さきほどの「工場作業者1秒あたり1円」を使うのである。すると、このようにあっさりとこの工程を計算できる。

<図をクリックいただくと大きく表示することができます>

1秒あたり1円だから、単に作業秒数を足していくだけのことだ。すると、この工程の妥当価格は71円だとわかる。

冒頭で、バイヤーが「加工費=90円」という見積りを受け取っているといった。しかし、この計算上は71円なので、20円ほどの「過剰請求」だということができるのである。

工場作業者1秒あたり1円」という単純な指標は、簡易的なれどさまざまなことを教えてくれる。この過剰請求はどうすべきものだろうか。

ここから話はまだ続いていく。

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