連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2035年①>

「2035年 空のビジネスが拡大、約150万名のパイロットと技術者が必要」
空の需要急増のなか日本は”飛躍”できるか

P・Politics(政治):空の自由化を進め、さらに官民でパイロット、技術者確保を推進。
E・Economy(経済):今後も航空事業は成長の見込み。20年でほぼ倍増か。
S・Society(社会):グローバル化による移動回数の増加。
T・Technology(技術):サービス業者としてはLCCがさらに数を増す。機体生産として、小型機を中心とし、ボーイング・エアバス以外の新規参入が盛んに。

世界じゅうの移動が盛んになるにつれ、航空産業も順調に成長していく。いっぽうで、その需要にたいする、パイロットや技術者の不足が深刻化していく。また日本では、航空産業が戦後の時期に中断し、先進国から一歩後退してきた歴史をもつ。そのなかで、空のサービスを世界に訴求できるか、ならびに機体生産で新たなビジネスチャンスを創造できるかが問われる。

・人類が空を飛ぶということ

人類が空を飛べるようになったのは、バンド・レッドツェッペリンの由来ともなったドイツのツェッペリン伯爵の飛行船が嚆矢となる。初飛行は1900年だった。ツェッペリン伯爵は莫大な私財を投入し、飛ぶ夢に賭けた。飛行船から飛行機へのシフトも予期し開発を進め、その航空技術は、ドイツの飛行機技術者を輩出する礎となった。

ただし飛行機の成功事例としては、ライト兄弟による1903年にノースカロライナ州での飛行実験が有名だ。技術を盗まれないように、自宅から800キロメートルも離れた場所での実権だった。ライト兄弟は機体の重要性だけではなく、機体はそもそも不安定なものだとしたうえで、パイロットの技術的操縦能力を向上することで飛行を実現した。

その後、航空事業は軍事技術として脚光をあびた。空から他国を監視、あるいは爆撃できるツールとなった。先の大戦後、人びとを運ぶ意味での航空事業が花開くことになる。米国でも新興企業が勃興したのにくわえ、ヨーロッパでもスカンジナビア航空などの多くの航空会社が生まれた。

日本では1922年に日本航空輸送研究所が運行を開始していた。大戦後は、GHQによる非軍事化政策によって、日本製の航空機は飛べなくなった。宮﨑駿さんの名作『風立ちぬ』でモデルになった堀越二郎が三菱の零戦を設計したのは有名な話だが、彼も戦後はリヤカーや冷凍庫の製作に従業することとなった。日本人の手による航空事業が潰え、長い期間、影響を及ぼすことになる。

その後、1952年にやっと航空法が制定され航空事業の参入が再開する。以降に生まれた航空会社は半官半民と揶揄されるが、それは当然で、無力化されたあと諸外国の勢力に民間企業一社で対峙できるはずがなかった。国家事業として立ち向かうこととなった。

ANAは1952年に日本ヘリコプター輸送として誕生し、1957年に全日空となった。JALの誕生は1951年とANAより1年若く、半官半民の形態を経て、1987年に民営化した。2010年に経営破綻しながらも、稲盛和夫さんらを経営陣に迎え復活したのは周知のとおりだ。

・空の需要の急増と、供給の伸び悩み

ボーイングは、2035年までに約150万名のパイロットと技術者が必要と予測した(https://goo.gl/HqALqG)。おなじくボーイングによると、2016年時点では、25,722機の大型ジェット機があるが(http://www.boeing.com/resources/boeingdotcom/company/about_bca/pdf/statsum.pdf)、これは20年でほぼ倍になっている。これ以降も増加が予想される。2016年の飛行時間も飛行回数2910万回で、おなじような倍率だ。
エアバスは2035年までに、3万3070機の航空機が必要になると予想している(https://company.airbus.com/dam/assets/airbusgroup/int/en/investor-relations/documents/2016/Publication/Investor-Presentations/Bernstein/GMF.pdf)。ボーイングの予想は3万9600機だから違いはある(http://www.boeing.com/resources/boeingdotcom/commercial/about-our-market/assets/downloads/cmo_print_2016_final_updated.pdf)ものの、増加するに違いない。

航空旅客事業も(http://www.jadc.jp/files/topics/118_ext_01_0.pdf)、2017年から2036 年までの20年間に、2016年の7兆1,194億人キロメートルから2036年には約2.4倍の 17兆4,267億人キロメートルに至るとしている。

・オープンスカイ

そもそも空の自由化は、米国からはじまった。米国では1978年に州外運行が認める法律から開始し、それ以降も自由化を進めてきた。カーター政権のころで、米国の都市から国債出航を認め、米国航空産業の競争力を高めようとした。

この自由化の動きをオープンスカイと呼ぶ。航空事業の強化を狙い、そして規模の拡大を志向した。EU、そして、世界もこの流れに同調した。日本も長年、慎重だったものの、東京オリンピックの開催2020年を前に柔軟化し、多くの国のLCCが運航しはじめた。

LCCはアジア間の移動が盛んになったことから誕生した必然だった。アジアにおける座席シェアが伸び、さらにインターネットやスマホアプリなどでの予約が容易になった。アジアのLCCが勃興していく素地となった。

2017年のIATA(http://www.iata.org/docx/wats-2017-infographics-2.pdf)が発表する世界ランキングによれば、1位がアメリカン、2位デルタ、3位ユナイテッド、4位エミレーツ、5位中国南方……と続く。JAL、ANAはトップ集団からは離れ、1位アメリカンにくらべて5~6分の1ていどの規模にすぎない。

前述の通り、戦後、航空産業が中断してしまったことを、いまだに日本が世界に飛翔しない理由と見る向きも多い。また、1985年に御巣鷹山(おすたかやま)でJAL機(ボーイング747型機)が墜落した。80年代に起きたこの痛ましい事件が、その後の日本における航空産業の尾を引いたと指摘する向きもある。

日本の内需むけのサービスから脱却できず、国外へまだ訴求できていない。もちろん、それは歴史的な経緯もあるし、また料金設定の問題もある。

日本で、こういったら失礼だが、お金のない若者が長距離移動しようとしたらどうするか。LCCではなく、深夜バスや、青春18切符などのJR移動を選ぶだろう。また、東京から大阪間などの移動ではさまざまな選択肢があるものの、ちょっとの価格差なら、空港に行く時間や、前後の待ち時間も考えて、新幹線でいったほうが早いと考えるだろう。くわえて、空港使用料が高い日本においては、料金を安く設定できない。

しかし急増する旅客需要に対応するためにはやはり空の移動手段の充実を考えねばならない。それは、パイロット増加という意味もそうだし、機体開発・生産という意味においてもそうだ。

・パイロット増加施策、機体開発

パイロットへの道は、「航空大学校による養成」「民間の養成機関(私大等)」「大手航空会社の自社養成」「防衛省からの再就職」がある(http://www.mlit.go.jp/common/001141511.pdf)。しかし、民間の養成といっても、飛行学校や私立大学ともに1000万円以上の費用がかかる。奨学金などでも、なかなか急増は見込めない。国土交通省は「供給」と表現している、パイロットの育成はいまいち騅逝かない。

航空大学校は独立行政法人だが、そもそも受験資格として四年制大学の2年を経なければならない。さらには、入学しても、パイロットとして就職が約束されるわけでもない。

私立大学でも、東海大学、法政大学等、いくつかの大学で養成コースを設立している。

さらにパイロットになって働き始めても、日々の健康が大切だ。パイロットに必要なのは、操縦士技能証明だけではなく、航空身体検査証明だ。航空身体検査証明は、全身の厳しいチェックを定期的に行い、それを更新する。さらに旅客機は、機種限定の資格が必要だ。もちろん空の安全のためには、必要な制度だとは思う。

ただ、どの業界も人手不足は深刻で、航空産業も例外ではない。将来、世界が狭くなり、旅行・ビジネスともに移動が増えるのは必須であり、対応が急務だ。

外国人操縦士の活用も検討され、在留の飛行経歴を1000時間以上から250時間にしたり、試験を一部免除したりしているが、世界的にパイロット不足で逼迫しているため容易ではない。パイロットの上限年齢を引き上げたり、視力について裸眼制限をなくしたりしている。

日本では1990年代から、格安航空会社が登場してきた。そしてLCCと呼ばれるようになった。訪日外国人の急増からも、パイロット不足は加速している。絶対的な方法はないものの、対策が急務だ。

また一歩遅れをとってきた機体開発でも動きが出てきた。なかでもMRJが有名だ。MRJは三菱重工を中心とした国産機生産の事業だ。中型機の生産で、JALと組んで愛知県で試験を行い、同社は海外からも受注に成功した。MRJは開発の遅れなど、さまざまなトラブルに見舞われている。しかし、個別事例はここの趣旨ではない。現在では日本離発着の国際線はほぼボーイングとエアバスで占められている。製造業において大量生産の時代が終焉したように、移動においても、小刻みなそして少人数単位での移動需要が高まるなか、ボーイングとエアバスだけではない選択肢もあっていい。本田技研工業も小型ジェットの開発に取り組むなど、異分野からの参入もある。

各社とも紆余曲折はあるものの、拡大する空の需要に対応する方向性は間違っていないだろう。

<つづく>

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