ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・日本一カンタンなサプライヤー収益管理

前回まで、サプライヤーの利益管理の話をした(お忘れの方はバックナンバーをご確認のほど。また、無料期間のみなさまは、しばしお待ちいただければ)。その続きは、日本一簡単なサプライヤー収益管理の話をしたい。

先輩バイヤーや上司は、「サプライヤーの決算書を確認せよ」という。そして、「確認したうえで、適切な指導を行え」という。しかし、具体的に何を見て、何を改善指導すれば良いかについて教えてくれる人は少ない。

世の中にあふれる書籍は、ほとんどの場合は「上場企業」の決算書の見方を教えるものだ。実際に自分がつきあっているような小規模のサプライヤーの収益をいかに管理すればいいのか、そして決算書をもらったって何を確認すればいいのか。そんなことについて悩んでいる調達・購買担当者は多い。

特に、「サプライヤーに指導せよ」といわれたって上司も方法論がわかっていなければ、部下や後輩がわかるはずはない。ただ、いっぽうで、「これからは限られたサプライヤーと選択と集中によって取引を行うために、サプライヤーの収益管理が必要になる」ともいわれる。つまり、やり方がわからないなかで、お題目だけが一人歩きしているのだ。

そこで話を戻すと、今回のテーマは、「日本一簡単なサプライヤー収益管理の話」だ。サプライヤーの収益管理に携わっていない人であっても、ご一読をお勧めしたい。というのは、一つの企業と付き合うときの管理スキルだからだ。将来、いつ役に立つかもわからない。

・調べるべき4つの指標

実は、お伝えしたいのは、各サプライヤー(各協力会社)の3年分の決算書を集めましょう、ということだけだ。そのなかから、数値を拾い、「見える化」を実施する。それだけで、次々と指導すべき項目がわかってくる。

1.趨勢分析(3年増減指標)

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まずは「趨勢分析」だ。これは、「売上高」「粗利益」「販管費」「借入金」 上記4つの指標を基準年度(前々前期)を起点とし、それ以降の変化を表示したものだ。売上高の伸び(あるいは減少)にたいして、販管費が上がりすぎていないか、あるいは借入金が上がりすぎていないか等々を図示化して見ることができる指標だ。

(1)を見ていただきたい。3年分の決算書を集めて、「売上高」「粗利益」「販管費」「借入金」それぞれが、絶対額としてどのように変化するかをグラフにしてみる(3年前の値がいずれも100と設定しよう)。

そうすると、面白いほど傾向がわかってくる。上記のサプライヤー(協力会社)であれば、売上高が下がっているのに、販管費(費用)が伸びているのがわかる。これは、売上高に占める比率ではなく、絶対額というところがミソだ。売上高がたとえ下がっても(それがバイヤーの責任であっても)、費用が上がっている点はいただけない。あっという間に、対サプライヤーの指導の切り口ができた。

(2)の見方だが、次のようになる。

要するに、傾向によって、サプライヤーの順位をつけましょう、そして、色を塗ってみましょう、ということになる。上に「A」と書いている「増収費減」をもっともよいサプライヤーとして、「D」と書いている「減収費増」までを印つけてゆく。同じく、借入金(借金)に関しても、「A」の「増収借増」から、「D」の「減収借増」までをマークアップしていこう。

すると、一目でサプライヤーの特徴がわかる。上記のサプライヤーでいえば、売上高が減って、かつ費用も借入金も増えている。もし時間がない場合は、借入金はこのグラフに省略したとしても、おおまかな傾向を見て取れるだろう。

すぐれたサプライヤーであれば、次のような傾向となる。

2.キャッシュフローおよび真性利益推移

<クリックすると図を大きくすることができます>

次に、キャッシュフローおよび真性利益を調べよう。「キャッシュフロー」も「真性利益」も難しく考えなくて大丈夫。これは、乱暴にいえば、サプライヤーの経営がちゃんとなされているかを確認するものだ。

(1)を見ていただきたい。このキャッシュフローおよび真性利益推移は、「キャッシュフロー」「真性利益」の2つの指標を基準年度(前々前期)を起点とし、それ以降の変化を表示したものだ。

・キャッシュフロー=営業利益+減価償却費
・真性利益=経常利益+役員報酬

で定義される(これもサプライヤーの決算書を見ればすぐに拾うことができる)。キャッシュフローは本業で稼いだ現金の多寡(近似値)を表現しており、真性利益は経営者が操作できる利益の額を表現している。

たとえば、キャッシュフローが減少しても真性利益が増加している場合は、経営者の報酬比率が上がった可能性がある。逆に、キャッシュフローが増加しても、真性利益が減少している場合は、役員報酬を減らし、その他コスト増のつじつまをあわせている可能性がある。この二つが妙な動きをしていないかを確認するのだ。

(2)の見方は次の通りだ。

要するに、ちゃんと利益を確保できる体質かどうかを確認しようというものだ。真性利益がちゃんと一定水準あるか(役員報酬でごまかして、実は危険な状態にないかどうか)を確認しよう。

すぐれたサプライヤー(協力会社)は上記のような右肩上がりの線を描く。

私は4つの指標でサプライヤーの管理ができるといった。まず紹介したのは、2つだ。重要なこの2つをおさえて、各サプライヤーの状況を見える化するだけで、さまざまな観点からサプライヤー管理ができるようになる。それに、部門内でサプライヤーを評価するときに有力な情報となる。

次回以降、また残り二つの指標を明らかにしていこう。

<つづく>

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