生き残るバイヤーの失敗論(牧野直哉)
「かわいい子には旅をさせよ」なんて言葉がありますよね。この言葉を、会社での日々の業務に適用すれば「若い人には失敗をさせろ」となります。しかし、最近はなかなか失敗 しずらい風潮がありますね。内部統制(J-Sox)は、そもそも業務処理の不適合を事前に防止する活動です。バイヤーには「下請法」があって、企業人としては「CSR」も!と、なかなか失敗しずら く、させずらくなっています。
私は、ある新聞・テレビ等マスコミでも大きく取り上げられた事件に関連して、そして海外子会社との取引に関する「移転価格」の問題で、当時勤務していた会社内でもダントツで「取り調べ」的な対応を受けてきました(笑)。そりゃ、たまらないですよ。業務の一環として苦労してやったことで、社外から調べられる……ただ、そんな中で、学んだことも多いんです。
例えば「××に関連する書類を見せろ」という指示を受けたときです。
通常の業務で、上司からこのような指示を受けた場合、
・わかりやすく
・理解して頂く
為に、書類をサマリーしたり、抜粋したりってやりますよね。当然、よかれと思ってです。しかし、そういったことを監査対応や取り調べで行なうとダメなんです。相手は納得しない。結果、実際に職場の私の机から、書類や自分の過去の手帳なんかが入った引き出しを丸ごと押収されたこともあるんです。パソコンからはメールの一覧から、抜粋したメールのハードコピーを提出するように言われました。そのメールの一覧の画面なんて、いったいどうやったらそんな画面が表示されるんだろう?といった、今までに見たことがない画面でした。 よかれと思ってやることが「隠蔽」と捉えられるんですね。なので、どんなに不親切であろうと、関連書類をすべて渡した方が良いんです。ここは、不親切に徹するわけです。
そして、実際に話を聞かれる場面での話です。
移転価格に関しては、10年近く問い詰められ続けました(笑)。実際に海外子会社との売買のスキームを作ったのも私だったので、対応すること自体は、自分の仕事と思っていました。 一方、同席していた上司は、時の経過ととも何人も替わっています。中にはいましたね、逃げる人(笑)。そんな中で、逃げなかった上司が、私と担当官のやり取りを横で冷静に 見て、そして聞いていました。後にこうアドバイスしてくれました。
「あんまり先回りとか、配慮しないほうが良いんじゃないか」
その上司はこんなアドバイスをくれました。元々聞く方にもあるストーリーがあって、こちらがよかれと思って言ったことも、聞く方に良いように解釈されてしまう。私はなるほど~と、以降回答方法を 変更しました。単純にはい、いいえでなるべく応えようとしたんです。そして、わからないときは「×××ということですか?」ではなく、「わからない」と質問するようにしたんです。
翌年、アドバイスをくれた上司と、そんな場に臨みました。すると、劇的に説明時間が短くなりました。長時間にしていたのは、自分自身であったことに気づいたのです。以降、別の部門でも、
・はい、いいえで応える
・わかりませんと聞き返す
が、行なわれるようになったのです。
J-Sox,下請法の遵守、CSRという意識の高まりは、失敗するとサラリーパーソンとしては致命的になるケースが多くなっています。こんなご時世だからこそ、そんな境遇からは逃げたい。でも、致命的な失敗になる前のギリギリで逃げない事が、今必要なんだと改めて考えるんです。