連載7・やる気のない社員の辞めさせ方~ほんとうは部下に仕事に立ち向かってもらうための(坂口孝則)
マネージャーの方々や、あるいは将来のリーダーに向けて過激なタイトルの連載を続けています。
ところで不良社員にはこれまで「指導書」「警告書」といったたぐいのものを提示するよう勧めてきました。さらに、それに対する回答書(どのように改善するかの書類)を社員から提示いただくようにも勧めました。これはもちろん、本人の更生をねらったものですが、同時に訴訟対応の意味もあります。というのも、反省の弁をたくさん集めると、逆に訴訟では不利になります。「本人はこんなに反省しているのに解雇してしまうのか」と思われるわけです。そこで、なぜ「どのように改善するかの書類」かというと、事実をひたすら集めるためです。本人も自分の非を認め、改善計画まで出している、しかし、改善できていない、という事実です。
弁護士に訊いてみると、具体的には「1時間会議室を貸すから、この場で書いてくれ」と命じるのはOKのようです。しかし、それが脅迫口調であってはいけない。弁護士によっては、窓のある部屋がいいというひともいます(窓がないと圧迫的で脅迫とも捉えられうるからです)。
文章の出し方ですが、
●1回目:課長
●2回目:部長
●3回目:本部長
といったように、徐々にレベルが高くなるようにし、さらに途中からは人事部のような中立な立場の方々が出るべきです。そこで、会社としても社員の更生を心から願っているとポーズする必要もあるからです。
最後に考えなければいけないのは、このだいぶ前にも書いたとおり「能力不足」の定義です。性格問題でも、素質不足でもかまわないのですが、何を持って能力不足と断言できるかを考えねばなりません。実際にそれは、上司の思い込みかもしれません。
なお、最近の裁判事例を見ると、「メモを取れない社員」という面白い例があります。話を聞きながらメモを取れない。だから、その社員は物事を覚えられずに失敗ばかりする。だからまったく成績があがらない。だから解雇したい、という場合です。しかし、この裁判では、社員がアスペルガーと認定され、アスペルガーは同時に二つの作業(聞いて、書く)ができないために解雇無効とされました。
さらに解雇ではなく、降格でいいではないか、とされた例もあります。このケースでは、きわめて厳しいことですが、降格ではなんら解決せずに、解雇しかないと説明する必要があります。あるいは解雇しか無いと、周囲が納得する証拠を作る必要があります。
最後に、こう考えておきましょう。会社内でのトラブルとは多くの場合、社員と社員のあいだでおきます。もちろん、社長や取締役が関わるケースもあるでしょうが、大半は執行役員以下の社員間でおきます(ちなみに執行役員は社員のトップであり、取締役会とは無縁です)。と考えれば、不良社員の対処とは、すなわち社員にたいする環境整備といえなくもないでしょう。