ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●2-2変わる調達購買の機能
グローバル化の進展による国内外の競争激化に代表される、われわれバイヤーを取り巻くさまざまな環境変化は、調達購買部門にも大きな変化を強いています。たとえば、調達購買部門にもっとも期待されているとされる「コスト削減」も、引き続き重要性は疑う余地がありません。しかし、他にも重要とされる業務が次々と登場し、相対的にコスト削減の重要性が下がっている、そう感じるほどです。そんな周囲に変化に対処するためには、調達購買部門自体、バイヤー自身が変化しなければなりません。今調達購買部門に求められる変化とはなんなのか、そして、今後どのような取り組みが必要か、実務担当者一人ひとりが認識しておく必要があります。
☆顧客の立場に甘んじてはならない
調達購買部門は、企業内で唯一「顧客」であることが仕事です。社内的なポジショニングは関連部門となんら変わりありません。しかし外部からは、明らかに顧客として扱われます。サプライヤーから発信される顧客満足度を測るアンケートの回答した経験を持つバイヤーも多いでしょう。そして、日本で「顧客」とはあがめ奉られる存在です。とても残念ですが、そんな考え方を「顧客の立場であればサプライヤーに何を言っても許される」と受け止め、傲慢(ごうまん)な態度で仕事をするバイヤーもいます。
バイヤーがみずからをどんな「顧客」と認識しているか。バイヤーが自分を「顧客」と自負する方法によって、調達購買部門が有効に機能しているかが決まります。顧客の立場に安住してはなりません。社内の人事管理の中で、たまたま調達購買部門に配属されたに過ぎない、それが歴然とした事実です。日本の商習慣としての顧客の立場は、業績の向上に徹底活用すべきであって、バイヤー個人への貢献に振り向けられてはならないのです。そのためには、次の3点を強く意識し、業務を進めなければなりません。「“購入する”権限は、業務上与えられたものに過ぎない」。これからの調達購買部門の姿を考える上で、そのような前提で考えることが必要です。
☆広がるサプライチェーンへの対応
グローバル化によって、海外サプライヤーからの購入も増加し、企業の材料調達から販売までを示すサプライチェーンは、直接購入するサプライヤーの先で、バイヤーの意識がおよばずに、国境を越えて広がっています。従来では地元、遠くても国内サプライヤーから購入していたものが、現在では、海外のサプライヤーから直接購入する機会も増えています。海外サプライヤーからの購入は、「安かろう、悪かろう」という時代もありました。しかしここ数年では、正しく取捨選択をおこなうことで、海外サプライヤーから十分満足できる購入も可能です。広がりとは、文字通りサプライチェーンが地理的に拡大し、世界へ向け広がっていることを意味します。その結果、購入した物資の輸送を、どのように効率的に行うかも重要なテーマとなっています。輸送する距離が長くなれば、納期に支障を来すようなさまざまな障害が発生する可能性も高まります。近年では、より早く、より確実に物資を届けるさまざまな物流サービスが存在します。サプライヤーからの購入品を受け取るために、どのように確実に運ぶのかも、調達購買の新たなテーマです。
☆高まるサプライチェーンへの期待
2011年国内外で発生した大きな災害は、サプライチェーンを寸断し、その影響は、全世界へと拡大しました。結果、どんな状況下でもサプライチェーンを寸断しないためのさまざまな試みがおこなわれています。サプライチェーンへの期待の高まりとは、その根幹を担う調達購買への期待の高まりでもあります。調達購買部門に対しては、次のような期待が高まっています。
① 調達購買コストの削減と確かな品質の確保の両立
コスト削減は、調達購買部門のもっとも重要なテーマです。近年では、新興国の追い上げによって、従来の品質をさらに向上させつつコストも下げるといった、二律背反的な期待が高まっています。私は、適性品質を見極める「目利き」が必要だと考えます。私の勤務先では、お客様のニーズを正しく理解して、スペック(仕様)を下げられたケースが最近数件発生しています。品質の維持や向上もコスト次第です。品質保証部門は、機能や品質が維持できないような、コスト削減への取り組みはゆるさないはずです。調達購買部門は、だったらどこまでが許容されるのかを、要求部門と品質管理部門に問い続けるのです。「問い続ける」とは、品質とコストのバランスは、もっとも難しいと考えるためです。私は何度も「そんなもの、わからない」といった回答を受けています。しかし、わからないから高コストが許容されるのでしょうか。コストの品質のバランス、適正品質の見極め(過剰品質の防止)を社内に向かって発言できるのは調達購買部門しかいないのです。
② サプライチェーン全体での環境への配慮
従来先進国のみで語られていた環境配慮の動きが、新興国まで含めた地球規模での取り組みへと進化しています。グローバル化によって広がったサプライチェーン全体で、環境の持続可能性を確保する取り組みが必要です。具体的には、
・有害物質を使用しない、有害物質を用いた製品を市場に流通させない
・二酸化炭素の排出量を管理し、減少させる取り組み
が求められています。これから始めるその瞬間に、もっとも業務負荷が高くなります。二度と同じような負荷を、サプライヤーや社内関連部門にも強いないために、対応方法を社内とサプライヤーと共同で仕組み化して、日常化まで進めなければなりません。こういった対応を、やっつけ仕事でおこなうのは、もっとも効率的でないと同時に、アウトプットの信頼性にも影響します。こういった取り組みの不備は、企業ブランドに影響する可能性の認識が重要なのです。
<つづく>