「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 3(牧野直哉)

今回から「持続可能な調達」について、考え方の理解を進め調達購買の現場に活用できる具体的なアクションつなげるために、まず「持続可能な調達」の前提について述べたいと思います。

皆さんはこの写真を見てどんな印象をお持ちでしょうか。


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写真の少年が持っているのは、収穫されたコーヒーの豆です。皆さんが家庭やオフィス、外出時に飲んでいるコーヒーです。写真の少年は、収穫したコーヒー豆をカゴいっぱいに抱え、これからまとめて出荷へと至る、そんな瞬間でしょう。

コーヒー農家が今、苦境に立たされています。地球環境の変動により、従来よりも収穫は減少し、中国やベトナムに代表される新興コーヒー豆の産地の登場により、従来の産地が疲弊していると言われています。さらにコーヒー豆のグローバルなサプライチェーンは、欧米の大企業に支配されています。

最近は日本でコンビニエンスストアがおいしいコーヒーを100円で提供しています。100円コーヒーでわれわれが支払う金額のうちに、コーヒー豆の代金としてコーヒー豆生産農家が手にする金額は、1円に満たない金額です。確かに焙煎費用や輸送費用、コーヒーを入れる機器のメンテナンスや、販売する店員の給与といったコストも含まれます。「1円に満たない金額」が、果たして高いのか安いのか。非常に難しい問題です。ただ「持続可能な調達」の前提条件としては、先に提示した写真を見て、どのように考えるかが非常に重要なポイントです。

もう一度、写真を見てください。少年の顔からは、悲壮感や厳しい労働といった印象は得られないかもしれません。しかし着ているTシャツは汚れ、一部は破れています。少年の年齢は定かではありませんが、こんな子供にコーヒー豆の収穫をやらせるなんてかわいそうだ、とお感じになった方がおられると思います。しかし「かわいそう」と考えるのは「持続可能な調達」の視点では、残念ながら正しくありません。

読者の中には、コーヒーは苦手で飲まない方もおられるでしょう。しかし、私の日常生活を踏まえて考えると、こだわりの大小はあるにせよ、コーヒーを飲む方が半数を超えています。この写真を見て「持続可能な調達」に立脚した正しい考え方は

「自分たちが飲んでいるコーヒーが、この少年の状況を作っているかもしれない」

です。この少年の置かれた状況を生み出す原因に、自分たちの立ち振る舞いが関わっているかもしれない可能性へ想像と、それが好ましい状況でなければ、事態の改善へ具体的な取り組みが必要です。

こういった考え方を日本で起こった事象にも当てはめて考えてみます。国内の労働市場における人手不足を背景にして、24時間営業する牛丼チェーン店の1人の従業員による店舗運営、いわゆる「ワンオペ」が「ブラックバイト」として、2011年に大きな問題になりました。当時の報道を振り返ると、次のような話が伝えられていました。

アルバイトの約68%が「45分以上の休息をとれることはほとんどない」と回答しており、10時間以上休憩をとれず、トイレにも行けないというケースも報告されている。また、清掃作業がおろそかになることで店舗が不衛生になり、顧客を待たせることでクレームや暴言を吐かれるケースも相次いでいる

こういった報道を受け、店舗を運営する企業は「ワンオペ解消」を2011年に宣言しましたが、2014年になっても半分近い店舗で1人勤務体制が続いていました。こういった事実に対して、当時は牛丼チェーンを運営する企業に対する批判が高まりました。一方店舗では、食事どきには活況を呈していました。

安くてうまくて便利な牛丼チェーンだから利用しているのであって、そこで働く従業員の過酷な労働条件は、店舗を運営する企業の問題と考えるのは、明らかな間違いではありません。しかし、安くてうまくて便利さといった消費者ニーズを追求と人手不足に重なってワンオペが発生したのであれば、直接的な責任はないにしろ、間接的に「ニーズ」をもつ消費者として責任の一端があると考えるのが「持続可能な調達」では欠かせない視点です。

こういった事象に対する1つの解決策として、購入価格を値上げする対応があります。スターバックスでは「倫理的な調達」と称して、生産者が搾取されないレベルの価格でコーヒー豆を調達しています。「持続可能な調達」を実現する1つの方法論です。しかし、多くのバイヤーにとって価格を上げるのは抵抗感があるのではないでしょうか。価格アップの効果が十分に自社に還元されるのか、コーヒー豆の場合はある程度判明しても、複雑なサプライチェーンで構成される製品では、なかなか難しいのが実情です。

そして「持続可能な調達」の実践は、直接的に購入価格をアップするだけが方法論ではありません。次回以降、具体的な実践方法を述べてゆきます。

(つづく)

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