連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)

25回にわたる連載です。調達・購買戦略の肝要を順に説明しています。

・サプライヤ市場、自社内分析

次にサプライヤーを調べていきたいと思います。まずは、自分たちがサプライヤーにどれくらい依存しているか、そしてサプライヤーが自分たちにどれくらい依存しているかを調べましょう。

ここで紹介したいのが「ハーフィンダールインデックス」です。これは市場における独占度、寡占度を示したものです。計算方法は、サプライヤのシェアを自乗(2乗)して、それぞれ合計したものです。仮にある市場で独占的なシェアを持っているサプライヤがいたとします。その場合、シェアは100%です。したがって100の自乗で10,000と計算できます。例えば50%ずつシェアを2社を持っていたとしましょう。そうすると50の自乗で2,500です。もう一つ、50の自乗で2,500で、合計が5,000になります。

この簡単な計算で分かるとおり、独占が緩やかになるほど、このハーフィンダールインデックスは小さくなることがわかります。理屈的にはゼロに近づくわけです。

このハーフィンダールインデックスを自ら計算するのはなかなか困難がつきまといます。しかしながら既に、公正取引委員会が調べてくれていますので、それを見てみましょう。リンクはここです(累積生産集中度)。累積生産集中度です。

日本には独禁法がありますので、特定の会社が市場を独占してしまうと自由な競争が困難になってしまい、その状況はふさわしくありません。公正取引委員会は職業的な使命感を持っています。したがってハーフィンダールインデックスが10.000に近づくのは独禁法上はよくない状況といえます。

したがって彼らは各業界のハーフィンダールインデックスを調べています。私たちは調達とか購買の人間ですから、その独禁法うんぬんよりも、サプライヤ検索、あるいは特定サプライヤがどれくらいの力を持っているのかを考えるために、そのハーフィンダールインデックスを活用できます。

当然ですがハーフィンダールインデックスが大きい領域は、なかなか競争でコスト削減が難しいかもしれません。ただしハーフィンダールインデックスが極めて小さな数字であれば、その領域に関しては新規のサプライヤを検索する戦略があり得るかもしれません。

・自社内ハーフィンダールインデックスの作成

このハーフィンダールインデックスの自社版を作ることも有効です。すなわち様々な調達品を担当していると思いますが、自社の中でミニ版のハーフィンダールインデックスを計算してみるのです。ある調達品は、サプライヤを複数用意できており、自社版ハーフィンダールインデックスが極めて小さいかもしれません。それに対して特定領域はほぼ10,000に近いような値を示しているケースがあります。このような場合は競争が阻害されているのは自明です。新規のサプライヤを探すことが有効な手段となり得るでしょう。

またこれを先ほどご紹介した公正取引委員会が作っている日本産業全体版のハーフィンダールインデックスと照らし合わせることも有効です。すなわち、日本全体ではハーフィンダールインデックスが低いにもかかわらず、自社では値が10,000になっているケースがあります。もちろん自社版のハーフィンダールインデックスが高くて、同時に日本全体で見たとしてもほぼ数社の独占であるケースはあり得ます。それならば、それを前提として、限られたサプライヤと目標値を設定するなど、これまでとは違ったコスト削減案を推進できるかもしれません。

何にしてもまずは事実を見つめることが大事です。

・サプライヤ依存度

次にサプライヤが自社にどれくらい依存しているかを見てみましょう。このケースで使われるのは、その名も「依存度」です。依存度の尺度は次の計算式を見てください。

すなわち、金額でズバリ、どれくらい自社をあてにしているのか計算します。考えるまでもなく、依存度が100%であれば、皆さんの会社が注文を止めた瞬間に、その会社は倒産してしまうでしょう。あるいは少なくとも、依存度が高くなると、自社の意向を聞いてもらいやすくなるといった傾向は出やすくなるでしょう。

また同時に、依存度があまりにも低ければ、協力を引き出すのがなかなか難しくなりますし、そのサプライヤにとっても皆さんの会社からの発注がなくても「存在」できるわけですから、なかなか注力しづらくなるかもしれません。

では、どれくらいの依存度がちょうど良いのでしょうか。1つの仮説では10%で、私もそれを採用しています。なぜ10%かと言うと、上場企業に課せられた1つの基準があるのです。これを「適時開示」と呼びます。株主の立場からすると、会社に重大な変化が起きているとき、投資し続けるか止めるか、決算タイミングのみではなく、適時で知りたいと考えます。

●売上高基準:当該事実により、売上高が10%以上増減する場合など。
●資産基準:当該事実により、純資産が3%以上増減する場合など。(30%以上増減もある。)
●利益基準:当該事実により、経常利益または当期純利益が30%以上増減する場合など。

ここで、注目いただきたいのは、一番上の「売上高基準」です。

上場企業は予定売り上げの10%以上が減ってしまった場合、企業価値が大きく減じてしまうため、株主に報告する義務を負っています(これは正確な記述ではありません。実際は複雑な条件によります。ただ、ここでは趣旨を損なわないレベルで説明をしています)。これを、多くの場合、非上場のサプライヤにからめて考えると、皆さんはサプライヤの売り上げの10%を握っているわけですから、皆さんがその気になればその10%を減らすことができるわけです。

したがってそれによってサプライヤ企業の企業価値を大幅に減らすことができる、上場企業であれば即時報告レベルだ、といえるわけです。

なおこれは2社の取締役を経た私の経験からもさほど遠い数字ではありません。何故かと言うと、売り上げの10%以上をある特定の会社のみで上げるわけで、なかなかその会社を無下にはできないですし、古臭い表現でいえば、足を向けて寝られない気持ちにはなるのです。

ただし現実はどうでしょうか。依存度が7割あるいは8割のサプライヤは少なくないはずです。私から見るとそれはかなり危な経営に見えてしまいます。とはいえ、自動車産業のようなところは、依存度が特徴となっており、それが故に「すり合わせ生産」等が可能となっています。あくまでも業界によってバラバラであるとは言え、10%が一つの基準として認識ください。

・サプライヤ経営戦略分析

そしてその上でサプライヤの経営戦略を分析する必要があります。これは、すなわち自分たちが向いている方向と軌を一にするのかを確認するべきだからです。そのためには対外発表の資料はもとより、やはり自社に対して情報を公開していただくべきです。

具体的にはサプライヤミーティングなどを開催します。これは半年あるいは1年間に1回など区切りをつけて、サプライヤの営業戦略とこちらの調達戦略をすり合わせるものです。

フォーマット上げておきます。

これは、主要課題項目にたいして、サプライヤがどのような手段(アプローチ)をとっているのか。彼らの問題認識を明らかにしていただくものです。そして中長期的には、サプライヤはどこに向かっていこうとしているのか、そしてその方向性は自社と近いところにあるのか。開発しようとしている領域は、自社のニーズとマッチしているか。それらを確認していきましょう。

そして今年度あるいは次年度は、どのような取り組みを事業活動として行っていこうとしているのかを、自由記述と言う形で報告してもらいます。あるいは逆に自社に協力してほしいと内容を発表していただいても構わないでしょう。なんにせよ協力体制を築かなければバイヤー企業は生産ができません。そこでこのような場を使って相互理解を深めるように試みてみましょう。

最後は、どのような売上高でどのような利益計画を立てているのか、そしてそれら収益の課題を記載してもらいます。

本来はサプライヤミーティングでは様々なことを聞く必要がありますがこれでもかなりの情報量を得ることができます。その上でサプライヤ戦略につなげていくのです。

 <つづく>

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