サプライヤー戦略的関係構築論(牧野直哉)
今回から、これまでこのメールマガジンでもできたサプライヤーマネジメントの進化形として、サプライヤーとの戦略的関係構築論について述べます。最近このメルマガでも扱いの多い戦略について、サプライヤーとの関係性の中でどのように活用するのかを考えます。
●戦略と戦術
調達・購買部門におけるサプライヤーへの戦略と戦術についてまとめたイメージです。旧日本軍では、戦略を「見えざるモノ」。戦術を「見えるモノ」と定義していました。戦争において戦略とは「兵器生産力、兵器補給力、兵站基地力」の3つに集約されます。第二次世界大戦で日本を空襲したアメリカの飛行機が、戦略爆撃機B29と呼ばれています。B29が戦略爆撃機である由縁は、日本の「兵器生産力、兵器補給力、兵站基地力」を攻撃するために開発された武器だからです。こういった考え方を、調達・購買の現場に当てはめると、どうなるでしょうか。
サプライヤーの営業パーソンもバイヤーもそれぞれの企業戦略にもとづいた戦術によって日々業務を進めています。バイヤーは、QCDに代表される評価基準で、サプライヤーからの購入品を評価します。QCDとは、戦術を駆使された「結果」です。結果が良好なサプライヤーと、良好な関係を構築するのが、果たして本当に重要なのでしょうか。
今回述べる「戦略的関係」とは、結果を踏まえつつも、サプライヤーの戦略と、バイヤー企業の戦略の「適合性」によって展開します。戦略には、これからどのようにマーケットを、顧客を攻略していくかの視点が盛り込まれています。したがって戦略的関係構築とは、将来的なビジネスの発展を協力して目指す、未来志向型の取り組みです。
●戦略的関係構築の定義と目的
戦略的関係の定義です。
調達・購買戦略に沿った適切なサプライヤーとの関係を構築し発展すること。調達・購買戦略にフィットするサプライヤーのカテゴライズ、採用方針を決定すること
戦略的関係構築の目的は、それぞれのサプライヤーとの関係を定義して、定義に即した社内関連部門と一体となって運用し、バーゲニングパワー(交渉力)発揮の環境整備すること。また、調達・購買戦略を策定するスピードアップが挙げられます。
「サプライヤーとの関係の定義」とは、これまでサプライヤーを「区別する」と述べていたサプライヤーマネジメントの考え方と同じです。読者の皆さんは、調達・購買の現場で、たくさんのサプライヤー、営業パーソンとお仕事をされているはずです。例えば、たくさんのサプライヤーの中でも、やりやすいサプライヤーもいれば、やりにくい、極論すると会いたくない営業パーソンはいませんか?人間なので、営業パーソンの好き嫌いの全部は排除できません。
でも、発注するサプライヤーの選定を、バイヤーの個人的な営業パーソンの好き嫌いで決めるのは問題です。こういった傾向が顕著に表れるのは、バイヤーと営業パーソンのいずれが交代した瞬間に生じるメリットであり、リスクです。ただ、人間が行うので、好き嫌いを100%排除するのは難しいでしょう。しかしバイヤーは、営業パーソンの先にあるサプライヤーのリソースが、自社にとって有効なのか、魅力的なのかどうかを見極める必要があります。サプライヤーのリソースは、日々刻々と変化します。好ましい、そうありたいと思う変化が「戦略」には濃縮されています。「営業パーソンの先にあるサプライヤーのリソース」の見極めには、自社がどんなリソースをサプライヤーに求めるのか。まず、自社内のニーズの確認が必要です。続いて、自社に必要なリソースが、どこのサプライヤーにあるのかを捜します。対象が明確になったら、サプライヤーと戦略を共有できるかどうかを見極め、具体的な対応に入ります。
●なぜ、日本企業に今、サプライヤーとの戦略的関係構築が必要か?
これは、バイヤー企業とサプライヤーの関係だけではなく、多くの日本企業にとって必要だと考える観点で述べます。坂口さんと一緒に連載している日経ビジネスオンラインに投稿した「日本コンビニ連合対アマゾン、決済省力化で勝負」では、購入代金の自動決済方法について書きました。日本の大手コンビニ5社が採用するRFIDタグを使用した方法と、アマゾンが「Amazon Go」で採用する画像認識技術とAI(人工知能)を活用する技術を紹介しました。
ここで重要なのは、日本のコンビニ大手5社の売り上げを合計しても、アマゾン1社に及ばない現実です。これから技術的どちらが優れているのかは、市場が判断すると思います。しかし日本のコンビニ大手5社は、売り上げ規模がアマゾン1社に及ばない厳しい現実を直視して、協力して望まなければ、自動決済方式に関しても、アマゾンが採用する方法がグローバルマーケットで優勢になる可能性が高いと想定して対処する必要があります。
アマゾン1社であれば、当然意思決定も早くなります。日本のコンビニ大手5社は、2025年までに自動決済方式を実用化させると言っています。しかし8年後です。ちょっとスピード感にかけるとは思いませんか。日本企業は、より「企業間の連携を密接」にして、「スピード感」をもって事業運営と新規技術やサービスの開発を行わないと、グローバルマーケットで勝てないし、国内市場も侵食される危機にひんしているのです。したがって、そういった規模の経済に対抗するためには企業間の戦略的関係が不可欠といえるのです。
<つづく>