緊急提案「新たな災害マネジメント」(坂口孝則)
このところずっと日本に大震災が、ふたたび襲うかもしれない、という懸念が報じられています。なるほど、今後30年で震度6弱以上が日本を襲う可能性は、ほとんど100%です。それは地震予知の各種団体が、総じて予想しています。将来の30年というとなかなかわかりにくい。だから、5年で1~2割と考えたらどうでしょうか。それならば、相当な確率だとわかるはずです。
現在、リスクマネジメントは、大きく舵を切る状況です、つまり、リスクマネジメントからクライシス・マネジメントへの転換です。リスクマネジメントが、事前にリスクをへらすものだとすれば、クライシスマネジメントは「起きてしまった災害を前提に、いかに早急に復旧できるかを考える」ものです。これまで日本企業はゼロリスクを志向してきました。しかし、ぶっちゃけ、事前にリスクをすべてつぶすなんて無理なわけです。だから、起きたあとの、復旧を考えるほうがいい、というのは合理的です。
そこで、さまざまな案が講じられてきました。まずは、さきほど述べた、リスクマネジメントの例です。調達・購買のリスクマネジメントとして方法論は次の通りです。
回避、軽減、転嫁、受容、です。中身の説明は上記のとおりです。
そこで、近年、「転嫁」が注目されています。つまり、災害はもしかしたらどうしようもないけれど、せめて、その後に企業経営に問題がないようにしようというものです。そこで、みなさんにご紹介したいのですが、キャプティブっていう方法をご存知ですか? これは欧米企業を中心に、企業活動に支障がある災害をいかにカバーするかの手法です。おそらく日本企業にはほとんど知られていないのではないかと思います。
ちょっと驚く仕組みで、私は最初にこの方法を聞いたときには、驚愕してしまいました。どんな方法か。それは、自社工場が被災したときに「むしろ儲かる」方法です。
そのためには、まず保険の仕組みを知る必要があります。自社が被災したときの保険を、日本国内の保険会社にかけるとします。たとえば、1億円の災害保証のために、1000万円を国内保険会社にかけます。そのとき、再保険という仕組みがあります。保険会社も一社では背負えないので、そのうち半分を国内の他の保険会社にリスクヘッジするのです。これは特別に変な方法ではなく、一般的に行われています。
これにたいして、キャプティブという方法はどうするかというと、この再保険を活用します。
自社の総務部門か調達・購買部門が、海外に、保険子会社を設立するのです。これをキャプティブと呼びます。なぜ、保険を取り扱う子会社を海外に設立する必要があるのか。それは、日本では考えられないような保険商品に再保険をかけるためです。たとえば、アメリカ経由では、日本より格安に災害保険をかけることができます。そうすると、日本では1億円の災害補償に1000万円が必要だとしても、たとえば100万円くらいで保険をかけることができるわけです。
そして保険のカバー範囲を、アメリカの保険子会社だけではなく、日本の本社(日本にある工場とかもろもろ)に設定することによって、このスキームが完了します。あとは、皮肉にいえば、日本で大災害が起きれば、その海外保険の適用によって大金が転がり込む仕組みです。
キャプティブについては、「企業のリスクマネジメントとキャプティブの役割 (関西学院大学研究叢書 第 164編)」など、わずか数冊の専門書しか出ていません。そのすべてを読みました。驚愕することに、穴がありません。すごい方法です。しかし、国税などが見逃すとは思えません。この手法が成り立つならば、企業のあらたなリスクヘッジ、クライシスマネジメント手法になるはずです。
一回、キャプティブを作ってみようか、と思案中です。
(つづく)