調達・購買部門が不況に備える方法(牧野直哉)

●不況の影響

不況になると、私たちの生活や企業にはどのような影響があるでしょう。シンプルに考えれば、個人にしても企業にしても経済活動の規模の縮小を意味します。規模縮小の根拠は需要が不足している場合です。

まず企業として定時間の操業で100の供給能力を有しているとします。しかしお客様からの需要が供給能力を下回った場合、その度合いによって企業活動にもマイナス影響を及ぼします。顕著な例が従業員へ支払う給与への影響です。100の供給能力に対して実際に90しか供給しなかった場合、いわゆる「定時割れ」です。企業としては、固定費の負担割合が増加します。こういった影響が継続すれば、企業の損益動向によっては、給与を払い続けられません。結果的に個人の収入も減少し節約、倹約して生活を維持しますね。不要不急の支出をできるだけ減らして、財務的に生活防衛を行います。

多くの企業が需要減退を見越して投資活動をちゅうちょしたり、消費者が支出を抑制したりすれば、需要減退がさらなる需要減退を呼びます。これが不況の要因です。

●調達・購買部門への影響と対応策

一方調達・購買部門にとって需要減退によって引き起こされる不況はチャンスでもあります。サプライヤーとの関係性の在り方を、より鮮明に打ち出すまたとない機会です。不況になったからと従来の経済規模がすぐには縮小しません。したがって売り手の数や量は引き続き維持されるはずです。しかし買い手の購入量が減少してしまえば、おのずと売り手の間に競争が発生します。景気が良い時期は、どうしても買い手側が競争してより良い条件を売り手に掲示するような競争が生まれてしまいます。そういった状況が打開できるという面だけを見れば、調達・購買部門にとって景気悪化はマイナス面ばかりではありません。

私はサプライヤーマネージメントに代表されるセミナーやトレーニングの場を通じて、ここ数年の景気の良い時期に苦しむ調達・購買部門の姿を見てきました。営業部門からは数量の確保を厳命され、サプライヤーからはなかなか要求納期通りに納入が完了せず、社内とサプライヤーの間で板挟みになるバイヤーの現実をひしひしと感じていたのです。多くのバイヤーが納期フォローに奔走する中、納期の達成度合いに一喜一憂するだけではなく、今こそサプライヤーの見極めを行うべき時期であるとお話をしてきました。

不況期に突入したときには、多くの企業で需要が減退します。販売量が減少すれば、当然のことながら調達・購買部門の購入量も減少するでしょう。しかし特に複数社購買を実践している場合、複数社→1社購買へと変更すれば、需要の落ち込みを発注側面ではカバーできます。もちろん1社購買によって生じるリスクもあるでしょうから、発注量を維持するためだけに1社集中購買を行うのは短絡的かもしれません。しかしそういった方法論は、不況期にこそ効果的です。需要拡大期や、供給量がひっ迫しているような時期に「集中購買」といった手法を持ち出しても得られる効果は限定的です。

今、高止まりする需要を満たすために奔走しているバイヤーの皆さんも、現在の状況が未来永ごう続くことはあり得ません。歴史が証明しています。またサプライヤーとの信頼関係は、景気がよかろうと悪かろうと状況に応じて双方にベストな対応を行ってこそ確立されるといえます。したがって好況期だからといってぞんざいな顧客対応を行うサプライヤーは、決してその対応の事実を忘れてはなりません。そういったサプライヤーは、不況期になり需要が減退すればまた擦り寄ってくる可能性もあるでしょう。それよりも簡単には拡大できない供給能力の中で、何とか顧客企業のニーズに応えようとしたサプライヤーを今こそ見極めるべきなのです。

そのためには現在進行形で調達購買部門がサプライヤーへ提示する購入見通しの情報の精度が大きなカギです。ただ営業部門の要求数量を垂れ流すだけの情報提供になっていませんか?要求数量の決定は、調達・購買部門ではなく生産管理部門が行っている場合でも、景気の先行きが不透明になる中、より精度の高い情報提供を要求する時期に来ています。需要超過状態で思うようにサプライヤーから納入されない時期には、購入見通しは正確性よりも、「どうせ納入されないから」という理由で数量をプラスする方向に調整されてしまいます。もちろんそういった傾向が全くないのであれば問題ありません。お客様からの数量要求に、昨年対比でも大きな変動がない場合は、具体的な根拠があるのかどうか確認すべきです。

具体的にはお客様に対して購入見通しそのものではなく、プラス傾向やマイナス傾向、現状維持傾向を含め、お客様の更にお客様からどのような購入見通し情報を得ているのかについて営業部門を通じて確認を行ってください。もし現在、営業部門が提示する購入見通しを満足できていない場合は、そんなことの確認の前に今の注文を何とかしろっ!といったお叱りを受けるかもしれません。しかし今の状態を打開するためにも、精巧な購入見通し情報は欠かせない情報です。すぐには、そういった情報は入手できないかもしれません。しかし今は特に先々の見通しに関する情報が重要です。昨年と対比してひっかかりを感じたら、転換点を示すサインかもしれません。注意深く、情報の真偽を見極めましょう。

(了)

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