緊急提案「サプライヤの粉飾を見抜く」(坂口孝則)

先日より、「世界経済がいつ崩壊してもおかしくない」といったニュースをよく聞きます。なるほど確かにこれまで、いざなぎ景気越えと内閣府は言っていたものの、ほとんどたいした実感がないまま、形だけの景気浮揚が続いてきました。一方で、各国の中央銀行はお金を刷りまくり、国債や国内株式を買い支えることによって、景気を何とか維持してきましたその中央銀行バブルが終わるというのです

それが本当なのか私には確かめる術もありません。なぜ確かめる術がないかというと、バブルというのは、いつ崩壊するのかわからないからです。しかしながら私たちは実務家ですので、事前に備えることできるはずです。これまで「取引先の決算書を確認しながら健全性、安全性を確認しよう」という講義や執筆をたくさんしてきました。

しかしながら、問題は、実際のケースでは、サプライヤが決算書を粉飾しています。サプライヤから決算書取ることになっており、実際に決算書はとっていた。しかしながらその内容が嘘だったというわけです。

ところで、話は変わるようなのですが、このところ、企業の調達・購買部門ではなく、中小事業の経営者たちと触れ合う機会があります。その理由はおいておいて、いかに社員と経営者の考えることが違うか、肌身に感じます。例えば、銀行からの資金繰りや、あるいは取引先からの受注など……。もちろん社員が考えていないとはいいませんが、やはりそこには温度差がかなりあるはずです。特に銀行融資などは、決算書の出来栄えで、貸してくれる、貸してくれないが決まってしまいます。したがって、経営者としては「どうしてもお金を借りたい。取引先から安定した受注を得たい」と思っています。そんな時に、粉飾が起きてしまうのでしょう。

ところで、粉飾というのは、悪いものをよく見せることです。この逆に、「逆」粉飾というのがあり、これは出すぎてしまった利益を隠すために、少なく見せるものです。両方とも問題ですが、今回は、世界経済の崩壊とともに取引先がつぶれないようにする、あるいは潰れないように監視するのが目的ですから、後者はとりあえず置いておきましょう。

そこで私が経営者たちと触れ合っている話に戻します。話を聞く前、私は「粉飾なんて簡単だ」と思っていました。つまり売上を架空にあげればいいからです。

ご承知のとおり、決算書のうち、損益計算書は上記のようになっています。だから、単純に、「架空の売上高をでっち上げたらそれでおしましい!」と思ってしまいがちなのです。しかし、そうは簡単に粉飾できません。

なぜか、それは貸借対照表の存在があるからです。というのも、儲かったら、貸借対照表に利益剰余金として形状することが求められています。あっちを触ったら、こっちも触らないといけない。

通常、私たちには貸借対照表は下のように見えています。

これは正解です。しかし、経営者には次のように見えていると思っておかねばなりません。

この図はあくまでイメージにすぎません。ただし、売上高をあげると、貸借対照表が崩れてしまい、あちこちにほころびが出てしまうのです。考えると、売上をあげるか、あるいは、売上原価を下げるかの、どっちしかありません。ここで、みなさんが社長と思って考えてください。貸借対照表の詳細を見てみましょう。

ここでいうと、右側が伸びてしまいます。さて、バランスさせるために、左側のどこを伸ばしますか?

そう考えると、固定資産は難しいとわかります。「え、いきなり設備投資が伸びたの? 工場のどこに新しい設備が?」ってことになります。次に、現金及び預金はどうでしょうか? 決算書の作成時には、会計士に銀行通帳とセットで渡しますので「おいおい、あきらかに違うじゃないか」とバレてしまいます。

そうなると残るのは、受取手形や売掛金となります。つまり粉飾を見分けるには、ここを見ておくべきなのです。そこで、式を作成しました。

細かな数式の意味を読む前に、ここでは概要を伝えます。簡単にいうと、販売債権(=受取手形や売掛金)が異常に伸びていないかを見るわけです。しかし、考えるに、売上高が伸びていたら別に問題はありません。さらに、1億円の販売債権が伸びているといっても、売上高が1兆円あったとしたら、その伸びは小さなものです。しかし、1億円の売上しかなかったら大問題です。そこで、そのブレを、「支払余力額」という企業規模で割ってあげるのです。

上記をお読みになった上で、各単語は次の通りです。

(a)貸借対照表「受取手形+売掛金」の2期前からの増減
(b)損益計算書「売上高÷12」の2期前からの増減
(c)(販売債権ー仕入債務)÷月商 *仕入債務は貸借対照表「支払手形+買掛金」
(d)貸借対照表「総資本」ー「短期借入金」ー「社債」ー「短期借入金」ー「支払手形」ー「買掛金」

目安では、これを計算したうえで1.0を超えていたら粉飾の可能性が高いと見て良いでしょう。いちど、計算してみてください。

(つづく)

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