ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・サプライヤーの適正利益の話をしよう

前回から、サプライヤーに与える適正利益の話を取り上げている(バックナンバーを参照のこと)。サプライヤーに利益を与えないのもマズいし、かといって、利益を与えすぎるのも良くない。これは誰だって賛同するだろう。

では、その適正値とはいくらくらいだろうか。これがテーマだ。そこで、前回は、まず全国平均の調査から始めた。

使用ブラウザがインターネットエクスプローラーに限定されるが、「法人企業統計」から統計を取ることができた(以下、復習を兼ねているので、飛ばしていただいてもかまわない)。

下にある「時系列データ検索メニュー」を選択する。さらに「金融業、保険業以外の業種」のところから、データを抽出する。前回の例では、

(1) 調査項目→列1に「売上高(当期末)」、列2には「売上原価(当期末)」
(2) 業種→列1に「製造業」、列2にも「製造業」
(3) 規模→列1に「1億円未満」、列2にも「1億円未満」

と入力することで、csvファイルを抽出した。

<図をクリックすると大きくすることもできます>

ここで、売上総利益が20%を超えている「驚き」を紹介した。だって、バイヤーは見積りを査定するときに、工場原価の5%程度の利益(=売上総利益)しか認めていないはずだ。それなのに、実際の統計上は20%超にもなるのだ。これはどう考えればよいのだろうか。

ここまでが前回のおさらいだ。

・サプライヤーはどこで「つじつま」をあわせているのだろうか

では、サプライヤーは儲けすぎているのだろうか。バイヤーを騙すことで、高利益を確保しているのだろうか。ここで、注意しなければいけないのは、上記の調査が「売上総利益(粗利益)」ということだ。

同じく、「法人企業統計」から、こんどは建設業のデータを抽出してみた。製造業よりも、こっちのほうが特徴的だからだ。

資本金が1,000万円~2,000万円の建設業を調べてみたところ、1996年から、2009年までの平均値は、次の通りだった。

・売上総利益率:22.19%
・営業利益率:0.54%
・経常利益率:0.66%
・純利益率:▲0.09%

私は建設業のバイヤーをよく知っている。見積もり査定をやっているところであっても、工事原価の10%~15%を与えていることがほとんどだ。ただ、実際は、22.19%とバイヤーが査定した利益率以上のものを確保している。しかし、最終的な利益率はプラスどころか、マイナスに至っているのだ。

つまりこういうことだ。バイヤーは、売上総利益率を抑えているように思っているが、実際は、サプライヤーはもっと儲けている(あくまで売上総利益の段階では)。しかし、それ以上に営業コストや経常コストがかかり、利益はほとんど残っていない。

ちなみに、日本の法人の7割は赤字決算企業だ。これは節税の観点からも論じる必要があるため、それだけで「日本の法人は儲かっていない」と断言することはできない。ただ、マクロ的に言えば、サプライヤーは

・バイヤーに対しては(売上総)利益を低く抑えているように見せながら
・実際は、(売上総)利益を確保し
・しかしながら、せっかく確保した(売上総)利益を使い果たし、純利益としてはほとんど残らない。

図として表現すると、こうなる。バイヤーはこのような見積りを入手しているかもしれない。材料費から、利益までを合算した見積りだ。

<クリックすると図を大きくすることができます>

これを、分類すると、次のようになる。

<クリックすると図を大きくすることができます>

ここで、「変動費」「固定費」と「売上総利益(粗利益)」「営業利益」の関係はこうなる。説明を簡略化するために、ここでは「営業利益」を利用したが、「経常利益」でも「純利益」でも、論に大きな変化はない。

繰り返しになるが、バイヤーが見積りを入手するときには、変動費と工場の固定費に一定率をかけたものを、売上総利益率(粗利益率)として認めてあげているはずだ。概念的には、次のことが明らかになった。

<クリックすると図を大きくすることができます>

「見積り上」では過剰に見せている「工場固定費」が、実は意外に少ない。ただ、逆に本社の固定費がたくさんかかっているのだ。

これはサプライヤーを責めるべきか迷うかもしれない。なぜなら、なんだかんだいって、最終的には利益をさほど確保できていないわけだから。「見積りを正しく書かせたところで、結局、価格が変わらなかったら意味ないよね」と言われればその通りだ。「企業の決算実態から、利益率を求めても、結局は意味がない」のである。

むしろ、見積書の妥当性を検証するのではなく、決算書の全国平均値によらずに、サプライヤー個々にふさわしい利益率を設定するべきなのだ。「サプライヤーA社は、利益率XX%を与えるのがふさわしい」、「サプライヤーB社は、利益率△△%を与えるのがふさわしい」と、バイヤーが能動的に決めるべきなのだ。

しかし、そんなことは可能なのだろうか。「利益を○○%与えれば大丈夫だ」と言い切ることができるのだろうか。

理論的に答えはある。それは次回にお話ししたい(ちなみに、次回の説明は読む価値がある、と私は思う)。

<つづく>

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