ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・25のスキルと知識がバイヤーを変える

もうおなじみになった(はずの)「調達・購買担当者として必要な25の知識・スキル領域」をとりあげたい。

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この25個のうち、前回までで4つが終わった。今回は「生産・ものづくり・工場の見方」のAである「工場・生産分類」だ。

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今回のテーマは、やや逡巡してしまう。というのも、調達・購買担当者が、どこまで生産の仕組みを知る必要があるか。それは、業界や会社によってさまざまだからだ。しかし、ここでは調達・購買担当者として、「私が考える」生産知識について紹介していきたい。

・そもそも日本の工場はどうなっているのか

まず日本の工場の概要を見ていこう。意外に思われるかもしれないが、日本にある工場のほとんどは零細・小工場であり、みなさんが見学するような大きな工場はむしろ例外的なものといえる。

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コメントで「身内で経営している小規模工場がほとんど」と書いている。ご覧になればおわかりになるとおり、この1~4人工場が半数を占め、5~9人、10~19人とつづく。10人を超えた工場は、中くらいと表現できるほどだ。日本の工場は中小企業が支えているといわれている。なるほど、統計的にはそのとおりだ

・調達・購買担当者が知っておくべき生産分類

私は「文系」という言い方が好きではない。「事務系」という言葉も嫌だ。しかし、ここでは、あえて「文系」という単語を使う。

バイヤーは生産管理担当者でもなく、品質管理担当者でもない。よって、調達・購買担当者が必要とする知識領域は限られている。そこで、まずは生産の分類について、表を作っておいた。

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ここで、順に説明しておこう。これ以降、大雑把な日本語をご容赦いただきたい。

1.「加工プロセス」:お客に提供する商品をどのように生産するかで分類したもの。たとえば、ペットボトルがあったとしよう。ペットボトルの完成品を生産している工場は「組立型生産」であり、そのPET(ポリエチレンテレフタレート)を生産している工場は、PETを原材料であるエチレングリコールの化学反応によって作るから「プロセス生産」といわれる。

2.「種類と生産量」:少量ずつ多品種のものを生産するか、あるいは、少品種を多量に生産するかで分類したもの。前者が「少量多品種生産」であり、後者が「多量少品種生産」となる。

3.「機械の配置」:これは製品が完成するまでの流れにおいて、製品を主とするか、技能者を主とするかによって分類したもの。「フローショップ」では、フローの日本語訳どおり(「流れ」)、製品の加工順に機械を配置する。「ジョブショップ」では、これも日本語約どおり(「作業」)、各専任の技術者や機械が在するところに、製品が運ばれる。

4.「組立の方法」:作業者が多人数で分業するか、一人(あるいは少数)で全組立プロセスを負うかによって分類したもの。「ライン生産」では、ベルトコンベヤーなどに製品が流され、各作業者は役目をおった1~3程度の組立を施し、次の作業者に送る。「セル生産」では、一人(あるいは少数)が作業台で製品の全組立プロセスを行う。一般的に、「ライン生産」では品質が安定するといわれ、かつそれぞれ分業されたプロセスの時間が短縮できるといわれる。また、「セル生産」では、作業者一人ひとりのレベル差が明確になり、作業者の意識が高まるといわれる(他の作業者に比べ、生産量が勝っていれば、その結果がダイレクトに反映される)。

5.「生産指示の方法」:前工程引き取りと、後工程引き取りで分類したもの。「プッシュ生産」は、「プッシュ(「押す」)」が意味する通り、前工程が生産したものを後工程に送り、そして後工程が次の加工を施す。「プル生産」は「プル(「引く)」の意味通り、後工程が必要な数量分を、前工程に取りに行く方式。もちろん、「プッシュ生産」でも「プル生産」でも、製品が前工程から後工程に流れるのは変わらない。ただし、「プッシュ生産」は、あくまで生産都合が前工程にあるのにたいして、「プル生産」は後工程にある。「プル生産」はトヨタ生産方式の「かんばん」方式で有名になった(後工程が前工程に製品を取りに行く際に「かんばん」を利用する。この説明はのちほど)

なお、これらは「いろいろな分類方法が世の中にはある」ということであって、当然ながら重複している。たとえば、自動車部品メーカーの工場であれば、「組立型生産」で「多量少品種生産」で「フローショップ」で「ライン生産」で「プル生産」ということになるだろう。

・生産の流れによる分類

また、加えて、生産の流れによる分類もできる。

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1.「生産指示単位」:連続して生産するか、ロット数を規定して生産するかで分類したもの。これは上図の補足にあるとおり、「連続生産・流れ生産」とは、継続して作りつづけること。「ロット・バッチ生産」は、100個とか1000個とかの生産単位をあらかじめ規定しておき、その固定数分を生産するものだ。一般的には、「連続生産・流れ生産」が良いとされるが、とはいっても、業種によってはどうしても「連続生産・流れ生産」できない企業もある。よって優劣があるわけではない(先生のなかには、さも、「連続生産・流れ生産」のみが正しい生産方式というひともいるが)。

2.「在庫のポイント」:生産数を、客先販売数量の見込みにするものと、受注した数量のみにするかで分類したもの。BtoC(一般消費者向け製品を生産する企業)であれば、販売予想数によって「見込み生産方式」を採用する。また、BtoB(企業向け製品を生産する企業)であれば「受注生産方式」によってお客からの注文数量のみを生産する。「受注生産方式」は段取り時間が多大となり、一つの製品コストを最小化するためには「見込み生産方式」が優れている。ただし、BtoB(企業向け製品を生産する企業)であれば、特定顧客のカスタム品を余らせるわけにもいかないため、これも優劣があるわけではない。

また、ひとによっては、この「見込み生産方式」と「受注生産方式」をさらに分類することもある。これはご参考までにご覧いただきたい。

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・工場の分類のあとに

また、工場分類のあとには具体的に「バイヤーが工場のなにを見れば良いのか」について解説していく予定だ。

工場には「コストという雨が降っている」と表現したひとがいる(林總さん「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」)。言い得て妙だ。工場を漠然と見ると、それ以上のものはない。しかし、工場というのは、稼働しているかぎり、無数のコストの雨が降っている。労働者、電気・水道、通信費、そして設備減価償却費……。一つの製品を100秒でつくるということは、100秒分のコストがかかっている。10秒に短縮出来れば、それは10秒分の雨にしか濡れなかったということだ。

それら、見えない「コスト」をいかにとらえるか。そして、バイヤーの立場から、サプライヤにいかに短時間での生産を指導するか。

ぜひ、次回以降も25のスキルと知識をご紹介したい。

 <つづく>

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