「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 6(牧野直哉)

前回はH&Mとキャップが製品を生産しているアジア各地の工場における性的虐待の問題を御紹介しました。「持続可能な調達」の実現に際して、日本企業が現在直面している問題である「外国人技能実習制度」の誤った運用が、大きなリスクになっており、顕在的に多くの日本企業にとって顕在化が懸念される実情をお伝えしました。今回は、どのような考え方に基づいて、調達・購買部門における「持続可能な調達」が失われるリスクを回避すればいいのかについて述べます。

・調達の5大リスク
「持続可能な調達」を実践するためには、直接取引を行っているサプライヤーだけではなく、サプライチェーン全体に対する目配り、管理が欠かせません。では、サプライチェーン全体への目配りが不十分な場合、企業としてどのような被害を受ける可能性があるのか。「持続可能な調達」から想定される「調達が5大リスク」は次の通りです。

(1)順法リスク
まず適切なサプライチェーンの管理を実践していないと、日本国内のみならず販売製造で進出している海外の法規制に対応できずコンプライアンス違反を引き起こす可能性が高まります。ここで重要な点は、何度もお伝えしますが、直接的に売買契約を締結したサプライヤーだけではなく、サプライヤーが原材料を購入したり、労働者を雇用したりといった行為にも、発注者として適切な管理の実践が必要となっている点です。

この部分が、従来の日本企業における慣習的な考え方と、もっとも適合しない部分であり、持続可能な調達実践に際して、考え方で大きなハードルとなってしまう部分です。万が一、持続可能な調達の観点で何らかの問題が発生した場合、仮にサプライヤーが発生させた問題であったとしても「サプライヤーの問題であり当社とは関係ない」といった考え方や姿勢は、さらなる持続可能な調達が失われるリスクの拡大へとつながります。したがって、何かサプライヤーで問題が発生した場合には、自社を守るために積極的にサプライヤーが起こした問題の事実関係を明らかにして、事態の改善に努めなければなりません。サプライヤーが起こしたとあずかり知らないのではなく、積極的な関与が求められていると考えなければならないのです。

例えば、EUのRoHS指令*(有害物質使用制限指令)に代表されるような化学物質規制は、直接取引を行っている一次サプライヤーはもちろん、二次以降のサプライヤーでも禁止物質の混入があれば、自分たちも違反問題の当事者となりえます。また強制労働や児童労働の観点では、イギリスの現代奴隷法やアメリカの金融規制改革法(ドット・フランク法)で情報開示義務を課せられている場合、自社に関係したサプライチェーンの情報が適切に開示されずに、おのおのの監督官庁から「情報開示不十分」と判断される可能性もあります。

これらの状況から、サプライヤーに対して関連する法規制を守って事業を行っているかどうかを確認するとともに、実態として法規制が順守されているかどうかを、サプライヤー管理の一貫として行う必要があるのです。

こういった考え方を前回ご紹介した「持続可能な調達」が失われた例に当てはめて考えてみます。自動車メーカーにおける外国人技能実習制度で規定された以外の業務に就かせていた問題は、制度上の規定に違反しています。「ガイアの夜明け」で紹介されたアパレル産業における絶望職場の問題は、日本の法律である労働基準法に代表される法令違反に該当します。さらにスバルのサプライヤーで発生した問題は、発注者であるスバルが適切な影響力をサプライヤーに行使しなかったと社会から受け止められる可能性があります。

「持続可能な調達」が失われる最初の例として「順法リスク」を挙げているのは、この点が失われた場合、さらに(3)販売リスクや(4)評判リスク、(5)株価リスクへとさらなるリスクの顕在化へ展開しているしまうのです。

・サプライヤーの順法確認
それでは、サプライヤーが法令や規制を順守しているかどうかをどのように確認するのでしょうか。ここでも、1つの考えが具体的なアクションの妨げになってしまいます。「法令や規制を順守して事業運営をするのは当たり前」といった、できているはずを前提にしてしまう考え方です。

もちろん、企業として事業を継続するためには、法令・規制に代表されるコンプライアンス経営は当たり前の話です。しかし、前回の記事でお伝えした通り、比較的順法意識が問われやすい大手企業であったとしても、直接的あるいは間接的に法令違反やルールに合致しない業務によって、「持続可能な調達」の観点でも問題が発生しています。したがって、サプライヤーに順法確認を行う場合は、まず、社内的にコンプライアンス経営をどのように推進しているかが、取り組みの起点になります。当然ながら、自分たちが行っていないのにサプライヤーに要求するのは、そもそもサプライヤーではなく自社内に「持続可能な調達」が失われるリスクが存在していると考えるべきなのです。。

ここで、具体的な順法経営・業務推進状況を確認するのに役立つ2つの資料をご紹介します。

法令等遵守体制のチェックリスト – 日本監査役協会
http://www.kansa.or.jp/support/el009_1300926_9.xls

04_企業コンプライアンスチェックリスト – さいたま市
http://www.city.saitama.jp/005/002/010/006/p040717_d/fil/04_tyekkurisuto.docx

それぞれ、エクセルとワードで入手可能です。この2つの資料を選定しているのは、どちらも簡易的な内容になっている点です。皆さんも「法令順守 チェックリスト」で検索してみてください。かなり分厚い資料が簡単に入手できます。しかしここでは、自社の順法状況のチェックと、自社と同じレベルのサプライヤーのチェックをまず開始する、実践して記録に残すのが目的です。したがって数ある資料の中から取り組みやすい2つの資料を選定しました。タグ

ご紹介の資料は編集も容易なので、まず2つの資料使って、自社の順法状況を確認する。その上で、サプライヤー確認用の順法チェックリストを、自社の実情に合わせて作成し、サプライヤーの新規採用時や、 取引継続審査時に、従来のサプライヤー評価項目に加えて行う体制を整えます。これまで生産能力や技術、経営状況や財務状況の確認は行われてきました。そういった内容に加えてサプライヤーの順法状況を確認し、確認内容を記録に残すところから「持続可能な調達」の実践のスタートとするのです。

*RoHS指令(Directive on the Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment)
電気・電子機器類に対する特定有害物質の使用を制限するEU指令。2006年7月施行、11年6月改正。WEEE指令のリサイクルの推進、使用後の製品の埋立て・焼却に際しての人体や環境への負荷低減、再生材への有害物質の混入防止が目的。鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニール(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)の6種類を含む電気・電子機器の販売を06年7月以降、原則禁止にした。

(つづく)

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