連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)
*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。
<2036年②>
「2036年 老年が三分の一、死者も最大数へ。この年に向かって終活ビジネスが絶”頂”となる」
生きるためのビジネスから、死ぬためのビジネスへ
P・Politics(政治):政府の「人生100年時代構想会議」も発足。行政の長生きと終期への関心が高まる。
E・Economy(経済):葬儀関連は1兆円超の市場規模へ。終活ビジネス総計でさらに規模が拡大する。
S・Society(社会):人口の1/3が老年へ。さらに年間死者数も160万人を突破する。
T・Technology(技術):―(なし)
2036年の日本は老年が1/3をしめ、そして死亡者数が最大になる。終活ビジネスがいままで以上に高まってくる。葬儀関連ビジネスも時好となる。
最後の住まいや、死後のトラブルを軽減するビジネスにくわえ、散骨も盛り上がる。未亡人ならぬ未亡ペットの対策など、その範囲は多岐にわたるようになる。
・最後の最後(最期)の人生を配偶者と暮らさない
ちょっとショックな言葉に「死後離婚」がある。配偶者と死別した場合、もしかすると、配偶者の親御さんは存命かもしれない。すると、残ったのが妻の場合、夫の両親からいじめられる可能性や、あるいは介護を行うべき可能性が残る。そこで、姻族関係終了届を提出し、関係を終了するのだ。この際、配偶者はすでに死んでいるから反対はされないし、姻族は反対もできない。
また、生前の離婚は財産分与・年金等を考えると、必ずしも妻側に有利ではなく、離婚という選択肢をとらずに卒婚をとるケースもある。この卒婚とは、子育てが一段落し仕事も辞めたあと夫婦が別々に暮らすケースも増えてきている。もっとも別居だけが選択肢ではなく、コレクティブハウスといって、同じ屋根の下に、基本的には別々に暮らしつつ、一部のみを共同化する方法もある。あるいは、そういった物件に入居することも考えられる。
最後の最後をどのように暮らすか。そこには多様なニーズがあり、それを満たすサービスが必要だ。
・終活~死んだ後「死後のトラブルに備えて」
たとえばあなたが会社を経営しているなら、保険金は会社が受け取って、それを死亡退職金扱いにしたほうが税金は安価になる。こういったさまざまなノウハウをワンストップで受けられるサービスが必要だ。会社、預貯金。株式、債権、仮想通貨に、国債……。どのように処理すれば税金や相続で有利なのか。そのためには、なにを備えるべきか。
昔のように銀行口座だけならまだしも、現在はお金が分散している。そのため、日本では毎年、口座所有者と連絡がつかない金額が800億円にも上る。おそらく死亡し、遺族も存在を知らないものが多々あるのだろう。せっかく口座を見つけても、相続人の全員から戸籍謄本、印鑑証明などが必要になる。
また負債についても、葬式の際に、とつぜん誰かから故人の借金を告白されるなどトラブルがある。さらに連帯保証人になっているケースなどは、本人すらも忘れている場合がありややこしい。
財産はほとんどないので、自身の親族は遺産相続争いと無縁だと考えるひともいるだろう。しかし、たとえば、裁判で見てみよう。遺産分割事件のうち認容・調停成立件数が裁判所のホームページに載っている(http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/137/008137.pdf)。それによると、
遺産価額ごとの比率がわかる。事件化しているのは何億円もの場合ではない。総数の8 664における、1000万円以下が、2 764となっている。32%が実に1000万円以下で起きている。
こういった死後問題を軽減するために、記録をつけるのが重要だろう。たとえば、こういった内容がある。
●各種デバイスのパスワード
●年金手帳、印鑑、パスポート等の保管場所
●加入保険
●預貯金口座リスト
●土地、有価証券、その他金融資産リスト
●借金、保証人、連帯保証人等リスト
●貸金庫や貸倉庫等リスト
●クレジットカード種類とそのパスワード
●遺産の希望処理(鑑定希望があればその業者も)
●葬儀の連絡帳
●相続人の家系図
●隠し子等の有無
●意識がなくなった際の医療、延命措置の希望
だから、まずエンディングノートなどに自身をありのままを吐露させ、そして、いまなすべきことや対策を助言するプランナーが求められるし、実際に活躍している。
どう死にたいか希望しても、それが通るかはわからない。しかし、自分の意思として残す価値はあるだろう。延命措置とは、治らないとわかりつつも、延命だけを目的とする。それを行ってほしいだろうか。すくなくとも家族としては、目の前に横たわる意識のない本人が、どのような意向をもっていたかは支えになるだろう。
・配偶者=ペットの場合
ところで人間の終活ともに、ペットはどうなるだろうか。高齢化が進むと、世話の必要な犬よりも、世話の少ない猫が好まれる。しかし、家族となった猫といっても、飼い主がいなくなってしまえば生きられない。たとえば、近類者はペットの名前くらいは知っているだろうが、餌の好みや回数など知っているだろうか。実際には殺処分されるケースが多いものの、死後に元飼い主と引き取り手と結ぶサービスが必要だ。
さらに心配ならば、自身の死後にペットが不遇にならないように、ペット向けの遺産(のようなもの)を積み上げる方法がある。その後に、世話人が代行し飼育を継続する方法だ。もっともペットは話せないから、その資金が適正に使われているか告発できない。よって、世話人を監視することも必要だろう。
・終活レーティング
これは終活に限った話ではないが、個人のソーシャルレーティングが使われるだろう。レーティングとは、格付けのこと。その個人がひごろどのような生活態度だったのか、他者が点数付けする仕組みだ。
話がそれるものの、中国では急速にキャッシュレス化・電子マネー化が進んだ。その結果、どこかでこれまでの支払状況から個々人の信用スコアが算出されるようになった。ある店で悪いことをすると、違う店ではそのひとはもう購入ができない。結果、店側も、そして個人もふるまいを正すようになった。
たとえば、これまで家賃の支払い遅延などしたことがないひとは、スコアがあがり、高齢になっても賃貸物件を優先的にありつけるかもしれない。また、他者とのコレクティブハウスにも、素行がよければ入居できるかもしれない。ペットも、スコアの高かったひとが愛情にあふれて育てられたなら、引き取り手もいるかもしれない。
ソーシャルレーティングは過去から逃れられない、という意味でもあるけれど、大半の善良な国民にとっては問題なく、むしろ有益な取り組みになるだろう。
・多様化する死、多様化する葬儀
冒頭で、SNSが現代の墓になっていると書いた。現代人にとって、田舎にある墓と、クラウドにある墓とどちらが故人を偲ぶのに有効だろうか。
もちろん半分は冗談だが、実際に、家族が墓を管理できなくなって墓を閉じるケースがある。そのため、海洋散骨が増えてきた。散骨は、あまりむやむやたらにやると、その海上地域とのトラブルにつながりかねない。慎重さと倫理が求められる。ただ、それでもなお、墓に入るよりも海に帰ったほうがいいと、散骨を希望するひとは増えている。実際に、海上散骨を請け負う業者は急成長しているほどだ。
それは散骨にとどまらない。通常の通夜や告別式でもそうだろう。私の予想では、これまでの概念にとらわれない「送られ方」を期待するひとが増え、それに伴い新サービスが誕生するだろう。たとえば、なぜ棺はあのようなデザインだけなのだろう。ポップでアーティスティックなものがあっていい。あるいは、葬儀の様子を、Facebookで中継してもらったほうがいいのではないか。また、お経も、どういう意味かわからず聴くよりも、逐一字幕化して、現代語訳を載せたほうが、はるかに意味があるのではないか。いやむしろ、お経を読んでくれるロボットがいないだろうか。
もはやそれは宗教の常識範囲を超えているのかもしれない。しかし、日本の仏教自体が、本流からすると世俗的すぎると批判をあびてきた。高齢化社会日本、死者数比率最大日本は、これからあらたな死を作り出していくだろう。
<つづく>