独立コンサルタントとの対談(坂口孝則)

このメールマガジン読者の特徴を三つ上げろ、といわれたら、「調達関係者であること」「読書家なこと」「多少なりとも現状に不満を抱いていること」です。違いますでしょうか。その三点目に関わるのですが、最近サラリーマンを辞めて独立するひとが多いようです。自分のウデを信じて、自身で食っていこう、というわけですね。現在、独立といえば「学習塾」「飲食店」「コンビニフランチャイズ」が大半を占めます。しかし、これまた予想では、このメールマガジンの読者が独立となると「コンサルタント」「士業」「ITサービス」ではないでしょうか。

そこで、独立コンサルタント(つまり個人の独立をサポートするコンサルタント~こんな職業が成り立つのですね)をインタビューする機会がありましたので、ご本人の許可を得て公開したいと思います。イニシャルはMさんなので、S(坂口)とあわせてご認識ください。

S:今回は独立して成功するひと、成功しないひと、みたいなテーマでお話できればと思っています。

M:うん、まず、私は独立したいっていうひとには、止めるようにしているんですよ。

S:いきなり面白いですね。止めたら仕事にならないですよね。

M:私の仕事は事務所探しとか、登記、資金調達、そしてビジネスプランを一緒にねったり……とさまざまなんですね。正直、すごく面倒くさい。やることを考えると気が重くなっちゃって、やっぱり会社員のままがいいっていうんですよ。

S:だから中途半端なひとの仕事は引き受けないという意味……

M:それもありますしね。「止めろ」っていって、ほんとうに止めちゃうひとは、ダメなんですよ。「止めろ」っていっても、「やります」というひとしか成功しないだろうし。それでも失敗するひとばかりなんだから。

S:なるほど……。

M:でも坂口さんみたいなひとはまだ珍しいんです。30代でしょ? 多くは40代とか50代かなあ。定年後のひともたくさんいますよ。購買系で独立するってのは、他には知らないなあ。だいたいが、意地悪な質問すると、しぼんじゃうんです。「あなたには何ができますか?」「それは他人がお金を払ってくれることですか?」「それを続けることはできますか?」

S:うわあ。俺も答えられません(笑)

M:世の中三つなんですね。「技術」「価格」「コンテンツ」です。すごい技術を持っていてITアプリ作れるなんてひといないわけでしょ、事務系社員で。となると、みんな価格にいっちゃう。他のコンサルタントより安いとか、他の士業より安いとか……。それしかない。やっぱりコンテンツがあって、その人にしかできない技能がなければ難しいんですよ。

S:私にしかできないこと……って難しいですよね。

M:坂口さんは、文章を書けるでしょ。それなりの知識もある(坂口・苦笑)。組み合わせでいいんですよ。文章書けるひとはたくさんいる、でも、かつ話せて、先端の知識をもってこれるひとは坂口さんしかいない、みたいな。でも、結局はお客がお金を払うかなんですよね。

S:私はよく「サラリーマンの歴史は200年しかない、でも人類の歴史は200万年ある」といっています。その200年で、雇用主から自動的に給料をもらう状況に慣れすぎているのかもしれませんね。ほんとうは、それらのお金はすべてお客からもたらされているわけで。

M:一つの目安は、こうなんです。独立しようとするひとが事業計画たてますよね。そんなのうまくいきっこない。だから、その事業計画を5で割るんです。1000万円の初年度売上だったら、200万円です。坂口さんは「野比家の借金」で「3で割れ」と書いていたけれど、もっと厳しい。初年度200万円にしかならなくても、やる気あるのか、ということです。

S:俺にはありません(笑)

M:坂口さんは、そこそこやっているでしょ。でも、坂口さんが読者に独立幻想を話すのはマズいと思う。

S:いや、私、独立が「甘い」なんて言ってないですよ。

M:なんというか、あなただからやれていることであってさ。昔、浅田彰さんというひとが、いまの学校や会社というシステムから逃げろっていったわけね。実際、浅田さんは自由気ままに暮らしていた。でも、それは浅田さんレベルの頭脳と誰も追いつけない知識があったからできたわけでしょ。世の中の本も、そのまま受け取るのは危険だと思う。

S:独立コンサルタントとして、もっと明るい話ししてくださいよ(笑)

M:給与水準が下がり続けています。400万円もらっていたら、低いどころか、日本の平均値です。おそらく、これからも給与水準は下がるはずです。日本でお金持ちになるのって、4パターンなんですよ。「土地を相続したひと」「アーティスト」「会社経営で成功したひと」「専門家」。で、サラリーマン出身のひとができるのは、最後の二つなんですね。だから、希望という意味では独立も悪くはないかもしれません。

S:そんなに甘くはないけれど、という……。

M:行政書士が面白いです。行政書士はどうも、5割くらいが所得ゼロなんですね。だから資格があれば食えるわけではない。でも、ちゃんとしたビジネスモデルと営業力を持っているひとは成功していますよ。だから、もしかすると、独立とかサラリーマンにかかわらず、成功するひとはどの分野でも成功するってことかもしれません。

S:その他に明るい話は?

M:あとは、独立していると自由になります。さっき言ったことと矛盾するかもしれないですが、独立したひとの500万円は、サラリーマンの1000万円くらいにあたるんじゃないでしょうか。つまり、半額になっても、精神的余裕度がまったく違う。それに、毎日、旅行に行ける。昼間から飲んでもいい。

S:逆に、岡田斗司夫さんは、フリー倍の法則といって、サラリーマン時代の倍を稼がないと心配だ、とおっしゃっています。

M:もちろん、人によりますよ。でも、どうでしょうか。サラリーマン時代と同額であっても、サラリーマンに戻るひとはいませんよね。その意味ではいい。あるひとは「不満を選ぶか、不安を選ぶか」といっていましたね。会社員は不満、独立したら不安、という意味です。

S:独立したいひとにアドバイスありますか?

M:85という数字を覚えておいてください。1000万円の年収を得たかったら、毎月85万円を稼がなければいけません。1億円だったら、850万円です。その意味で、まず85万円で考えます。すると、二十日ほど働くとすれば、一日4万円ですよね。それを稼げるかが問題です。そのためには、誰から、どうやって、お金をもらうのか、が重要です。別に一週間単位でもいいんですが稼げるかどうか。さらに士業とかコンサルタントだったら、別の計算をします。働く日数の1/4がPRの時間、1/4が学習の時間、1/4が資料作成とか雑務の時間です。とすれば、実際に稼げるのは残り1/4しかないんですよ。それだけで食っていけるモデルを考えてから独立することです。

S:でも、Mさんは、一緒になってビジネスモデルを考えるという……

M:もちろんやります。でも、完全にゼロの状態からは難しい。基本的には自分自身で考えるべきものだからです。

S:では、もっと明るめのアドバイスを。

M:それでもやりたかったらやってみましょう、ということです。これを読んでいるひとも、坂口さんだとか、誰々だとか、そのひとたちを目指してはいけませんね。その人は、その人だから。違うモデルでやっていく。それで、ちゃんと頭を下げて営業先をまわって、小さな仕事からとっていくことです。

S:俺は頭を下げる営業しませんが(笑)

M:だから、あなたはあなたであって、みなさんはみなさんだから(笑)

<2013年4月某日 表参道にて>

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