調達・購買担当者の意識改革ステップ・パート5「サプライヤ戦略」その1(坂口孝則)

・サプライヤ戦略とは

解説:サプライヤ戦略とは、公平公正なサプライヤ評価結果をもとに、不公平にサプライヤを扱うことです。サプライヤ評価結果が優れていれば、アライアンス・戦略パートナーと位置づけ、発注量を増やしていきます。さらに、両社でサプライヤの弱点を減らし、強みをより伸ばしていきます。いっぽう、評価結果にすぐれないサプライヤは、取引量を削減し、日々のパフォーマンスを向上していかねばならないと、インセンティブを与えていきます

。また、優秀評価のサプライヤとは資本提携を図る、逆に低評価で経営難サプライヤには資本支援を行うなどの方策も考慮します。サプライヤ戦略は、端的にいえば「いかに使うか」「いかに改善させるか」「いかに安定させるか」の三つです。

・サプライヤ戦略に意味はあるのか

意識改革のために:これまでサプライヤ戦略書なるものを作ったことがあります。最初はびっくりしました。「サプライヤ戦略書」の意味がわからないのです。「このサプライヤをどうしていくかを記載しなさい」と上司は言っていました。しかし、「サプライヤをどうするって、そもそもその意味は何でしょうか?」と訊いても、はっきりした内容を教えてくれるひとはいませんでした。

これは笑い話ではありません。多くの調達・購買部門で、多くの調達・購買部員が、「なんとなく」サプライヤ戦略書を作成し、そして上司も「なんとなく」サプライヤ戦略書を承認しているのです。これでいったい何の役に立つのでしょうか。はい、その通り、ほとんど役に立っていません。「とりあえず作ったけれど、それが何の役に立つのか」はわからないままです。

そこで、ここでは明確に述べてみたいと思います。まず、サプライヤ戦略書とは、そもそも調達戦略書からできあがるものです。調達戦略とは、89号(2013年5月13日号)で対象のえぐり出しを述べておきました。バックナンバーをご覧ください。89号では支出分析から、どの範囲に調達戦略を構築するかガイドラインを示しておきました。次に、その調達戦略作成に入ります。ここができていないからサプライヤ戦略書の意味がないのです。

まず、私の考える調達戦略書を掲げます。

http://goo.gl/h4ZKI

ご覧ください。ただし、PDFのみの提供となります。その点はご容赦ください。これをはじめとした私のエクセル版資料(これに価値があるのですが)は私のセミナーでお渡ししています( http://www.future-procurement.com/semi/adov.html )。

ここで重要なポイントは、左上の箇所「1.戦略ポジション」です。なぜなら、ここが固まっていない戦略は無意味だからです。このポジションとは何でしょうか。すなわち、自社の調達理念を具現化するための、目標です。QCD向上が目標ならば、ここでの指標はQCDとなります。次に、ポジションの数値的意味です。「現在」「戦略目標」とあります。ここの、1とか2とか3とかの意味を説明します。

<クリックすると図を大きくできます>

ここで、ポジション1とは、「あるべき姿」にすら至っていない場合です。そして、ポジション2とは「ありたい姿」に至っていない場合です。「あるべき姿」とは、当然この程度のレベルにあってしかるべきポイントです。たとえば、部内のコスト削減目標が、毎期最低3%、努力目標5%だったとします。そのとき、ある調達品のコスト削減率が2.5%だったときには、ポジション1となります。もし、4%ならばポジション2というわけです。

おなじく品質も指標があるはずです(なければいけません)。たとえば納入不良品発生率が最低でも5ppm以下、努力目標が3ppm以下だとします。これらの数字には意味がありません。一例です。そんなとき、6ppmならばポジション1、2ppmならばポジション3です。

なぜ、( http://goo.gl/h4ZKI )の表の左上が重要かというと、「現状がどうで、この戦略を通じて、何を目指すのか」がわからないと、それは戦略の体をなさないからです。目標設定のない、行き先のわからない戦略は無意味だからです。そして、担当者は上司と、このポジションを合意しておかねばなりません。あとは、そのための手段にすぎないからです。

よく、調達戦略書を作る際に「市場分析が必要なのか」とか「SWOT分析や、5forces分析が必要なのか」とか「業界シェアは調べるべきか」とか「他社情報をどれほど集めるべきか」とか質問するひとがいます。しかし、それは質問の順序が逆なのです。そうではなく、目標とすべきポジションを実現させる手がかりになるのだとしたら、それらの情報を集めるべきなのです。手段が目的化してはいけません。漠然と調達戦略書を作るのではなく、明確な目標と意思を持たねばならないのです。

情報のための情報ではありません。戦術のための戦術でもありません。実は、この「調達戦略書に目標と目的を持ち込む」ことが、ほとんどの企業で欠けている視点です。

ここまでお読みになった方はお分かりのとおり、この戦略ポジションの項目はQCDに限ることはありません。もしみなさんの企業がQCDだけではなく、調達を通じてD(納期)とかC(コンプライアンス)とかE(環境)とかを向上させる理念をお持ちであれば、その項目を同じくポジション分析し、進むべき地点を明らかにすれば良いのです。

そして、調達戦略書を書き上げたとき、この単純な質問に答えられなければなりません。「ところで、この戦略書どおりにやったら、目標とするポジションは獲得できるのか」と。これはかなり骨太なテーマなので、次回以降に続きます。

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