ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
緊急論考!値上げ対応 3
今回で三回目となる値上げ対応。前回は値上げの根拠になる外部要因をについてお伝えしました。ここ1ヶ月の新聞報道を振り返ってみても、原材料から食材、輸入製品で相次いで「値上げ」が伝えられています。調達購買部門にとって、受難の時代が到来しつつあります。
今回は、調達購買部門における一般的な値上げ対応について考えるところから始めます。
第一回目(有料会員の方は、バックナンバー88号をご参照ください、無料購読期間中の方は、少しお待ちください)で、少しだけ言及した内容です。サプライヤーからの値上げ要求への対応を、値上げを受け入れる/受け入れないとの、二者択一は、絶対に避けなければならないとしました。しかし、調達購買側、サプライヤーの営業側にも、そうせざるを得ない事情もあります。
皆さんのご勤務先の営業部門を考えてみましょう。果たして購入側の都合である原材料費の上昇を、素直に顧客へ申し入れてくれるでしょうか。調達購買部門からすれば、営業へ売価アップの依頼は、相当の覚悟を持っておこないます。しかし、最初の反応は非常にネガティブであるはずです。皆さんは、なぜこのような拒否反応が起きるのか、その原因についてお考えになりましたか。
日本は長らくデフレ経済に苦しんでいます。デフレによって、値段の下落が当たり前になり、売上を確保するためには値上げなど「以ての外」との意識が根底にあります。そして20年近くも続いたデフレによって、どうやったら値上げが実現できるのか、営業部門は、値上げの具体的な方法を持っていません。値上げが世間で問題化した歴史を紐解くと、1970年代の石油ショックまで遡らなくてはなりません。1980年代以降、大きく問題になった事象としては、一貫した円高基調が挙げられます。しかし、円高は調達購買部門にとって海外から購入する原材料価格の下落効果を持っています。したがって、現在の営業部門には、値上げを行なう方法論を持つ必要がなかったのです。
値上げを受け入れるかどうか。繰り返し受け入れる/受け入れないの二者択一は調達購買部門の値上げ対応として避けなければなりません。しかし、二者択一に陥ってしまう理由は、我々調達購買部門だけでなく、営業部門にも相応の理由が存在するのです。そして、これから具体的な値上げ対応のプロセスをお伝えしてゆきます。それは、調達購買部門が主体的に管理しないと、双方のノウハウ不足によって、結果二者択一になってしまうのです。具体的な一例として、インターネット上の、文例サイト活用して説明します。( http://proportal.jp/business/tuuti19.htm )
ご紹介のサイトでは「製品価格改定のご通知」との文例が掲載されています。注意書きには、「目的に応じた追加、変更が必要です」との但し書きがあります。さて、こういった文例によって作成された文書を受ける調達購買部門の皆さん。果たして添付の文書だけで、サプライヤーからの値上げ要求を受け入れられますか。「目的に応じた追加・変更が必要」との但し書きがあっても、多くのサプライヤーから寄せられる値上げ希望時の文書は、ご紹介のページに酷似しています。これは、値上げに関する顧客へのアプローチ方法を、サプライヤーが持ち合わせていないことを顕著に表す例です。
では、値上げには、どのように対処すべきでしょうか。それは、サプライヤーからの値上げ要求を受け取った調達購買部門が、値上げを受け入れる場合の社内承認プロセスを考えてみます。当然ながらバイヤー企業社内では、サプライヤーからの値上げ要求に対し、ネガティブな反応が予想されます。しかし、サプライヤーからの購入価格の値上げにともなって、バイヤー企業に及ぼす悪影響を最小限度に留めるためにも、まず値上げ要求に対して、その妥当性を正面から受け止めて、内容の妥当性を検討します。具体的には、次の5つのポイントは、サプライヤーからのヒアリングや、データの提示はもちろん、バイヤー企業側でも、独自の調査が必要です。
① 対象品目
これは、購入価格の値上げに影響する要素となる具体的な原材料名が該当します。先にお知らせした文面にあるような「原材料費の高騰」といった、一般的な事象だと、以下の②~⑤の確定が困難となります。これから詳細の妥当性を検証するためにも、サプライヤーのどんな購入要素が値上げに影響しているのかを特定します。
② 値上げ幅
サプライヤーの希望値かまいません。割合なのか、額なのか。原材料費に起因する値上げであれば、値上げ率にしろ、額にしろ、購入品目毎に異なっている場合が多いはずです。また一律××%というケースもあります。ここでは、どのような形式で提示されているかが、サプライヤーとの価格交渉に大きな意味を持ちます。
③ 値上げ理由
今の経済情勢を考えれば、原材料費の高騰や、円安といった理由が多いでしょう。これも影響度をバイヤー企業で検証するためには、重要なポイントになります。
④ 値上げ時期
値上げの申し入れに、値上げ時期の記載がある場合は、時期が設定された根拠について確認します。また、明確な記載がない場合は、必ず確認します。値上げ時期の確認には、1つ重要な意味があります。それは、原材料費の価格の変動が値上げの根拠の場合、原材料費の変動が購入する製品に反映されるまでの期間も考慮に入れなければなりません。例えば、値上げの反映は早く、値下がりの反映が遅れ気味となる事態は、避けなければなりません。そのためには、値上げの話をする場合に、市況の変化による値下がりのケースも条件設定を行なわなければなりません。
⑤ 値上げの数値的根拠
市況の影響によって、影響を受ける原材料を特定し、購入品のコストに含まれる割合×値上げ率=値上げ額になります。この式が成り立つための要素をサプライヤーに求めます。
以上の5つのポイントは、今後の値上げ要求への対処をおこなう上で重要です。サプライヤーからできるだけ情報を引き出して、優位な結果を引き出します。
<つづく>