ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

3-6 コンプライアンスを実践する力~法務知識

近年の遵法意識の高まりによって、企業活動による違法行為発生の影響は、経営を揺るがすほどのインパクトを持ちます。近年、調達購買部門にとっても業務を進める上で関係の深い法律は、経済のグローバル化の進展によっても自国以外の法律対応を含め増加傾向にあります。

☆調達購買に必要な法律知識

調達購買部門の業務は、次の5つの法規との関わりの中で仕事を進めます。

① 契約、債務不履行、売買契約、請負契約、みなし規定(民法、商法)
② 不公正な取引方法の防止(独占禁止法)
③ 不正競争防止(不正競争防止法)
④ 下請法(下請代金支払遅延等防止法)
⑤ 課税文書(印紙税法)

上記以外でも、明文化されていない社会規範や慣習、あるいは海外に販路を求めている場合は、販売国での法令遵守も含めて、さまざまなルールを守りながら業務を進めなければなりません。これら、調達購買業務に関連する法令遵守を怠れば、罰則は企業に科せられます。最近では、法令を守らなかった場合、企業名を公開し社会的な制裁=企業ブランドを傷つけるといった、影響が計り知れない場合もあります。

調達購買部門では、上記5つの基本的な法令の他に、顧客から遵守を要求された内容を守っている、あるいは問題ない旨を文書で宣言しなければならない場合があります。自社の事業では必要ないが、バイヤ企業の製品なりサービスを顧客に提供して発生する義務です。この場合に重要なポイントは、次の3点です。

一つ目は、法令の内容の正しい理解です。どのような具体的な規制が存在するのか。多くの場合、顧客から文書が一方的に送付されて、社内ではちょっとした騒ぎになります。対応すべきかどうか。そして、対応しなければならない場合の具体的なアクションを明確にします。そのためには、要求してきた顧客に営業部門を通じて、内容を確認すると同時に、自社でも法務部門や担当者に内容の確認をおこないます。具体的な対応方法を要求してきた顧客に質問しても良いでしょう。

二つ目は、対応する/しないの費用対効果の明確化です。対応する場合にコストが発生する場合があります。調達購買部門とサプライヤを含めて対応する場合に、どの程度の費用が発生するかをできるだけ早急に算出し、営業部門を通じて顧客に提示します。発生費用として提示する数値は、検証可能で妥当性のある数値でなければなりません。もちろん、現在の受注範囲として対応するとの判断もありです。しかし、新たな確認事項を多くのサプライヤへ依頼しなければならない場合などは、費用の回収も念頭に置いて考えなければなりません。

三つ目は、一つ目、二つ目を踏まえて、対応する/しないの企業としての意思決定です。もし、いい加減な対応で、十分な対応が行えずに後に法令違反が発覚した場合は、自社そして顧客にも多大な迷惑をかけます。近年話題となるケースでは、遵守していなかった場合のインパクトは甚大な可能性が高くなります。もし、遵守に必要な行動がとれない場合は、対応不可との回答も必要です。

もっとも避けなければならない状況は、顧客の要求事項を十分に理解しないままであやふやに対応し、結果的にリスクがバイヤ企業に残ってしまう事態です。もちろん、なんとかして対応できないかと方法を探すのも必要です。しかし、力仕事的に一時の高い負荷で乗り切れるかどうかを見極めないと、作業量ばかりが増加して、実効性のない結果が残ってしまいかねません。そんな事態は回避します。

☆下請代金遅延等防止法

調達購買部門とって最も関連性の深い法規は、下請代金遅延等防止法(通称下請法)です。バイヤ企業が発注企業(親事業者)として、受注企業(下請企業)に対する義務と、禁止行為を規定しています。

<親事業者に対する4つの義務>
(1) 書面の交付義務(第3条)
注文時には、発注の都度書面(発注書)を交付しなければならない
(2) 書類の作成・保存義務(第5条〉
上記(1)に規定された交付書面は、2年間保存しなければならない
(3) 下請代金の支払期日を定める義務(第2条の2)
下請代金は、原則として受領日から60日以内に支払わなければならない
(4) 遅延利息の支払義務(第4条の2)
支払い遅延が生じた場合は、受領後60日を経過した日から支払いをする日までの期間に発生する年率14.6%の利息をつけて支払わなければならない

これは、調達購買部門のみならず、企業全体に課される義務です。例えば、購入要求部門の口頭による発注で製品を受領し、注文書が交付されていない場合も親事業者としての義務を果たしておらず、下請法違反となります。下請法は、調達購買部門で順守はもちろん、社内各部門での順守状況の管理も調達購買部門の役割です。

この法律は、公正取引委員会が各地域で有料・無料様々な講習会を毎年開催しています。私は、みずからも含めて、調達購買部門の人間を毎年講習会に参加させています。下請法、特に親事業者に課せられた上記4つの義務を果たすためには、全社的な対応が必要です。全社的に正しく対処するためには、まず調達購買部門が下請法を正しく認識して、社内へ周知する機能を持つべきと考えているためです。

☆新たな法務への対応

企業は利益の追求のみならず、社会的責任(CSR)をまっとうが求められています。上述の法令順守のみならず、地域社会への貢献や、特に環境保護を目的とした持続可能な生産活動を求められています。有害物質を製品に使わない、市場へ流通させない、廃棄ゼロ目的としたグリーン調達の実践や、地球温暖化を防ぐために、自社のみならずサプライヤの企業活動全般を網羅した二酸化炭素排出量の管理といった法整備が進んでいます。企業によっては、法務関連の組織が整備されている場合もあります。そのような部門への協力を仰ぎつつ、まずバイヤとして関連法規を順守し、日常業務においてもサプライヤとのフェアな競争による公正な取引を実践しましょう。

<つづく>

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