ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●サプライヤーマネジメント4
~将来必要になるサプライヤーを、どのように「区別」して扱うのか
前回最後に次のような内容を述べました。
「バイヤーがサプライヤーマネジメントを実践する際に重要なポイントは、従来よりも「失敗する」ことをより前提にし、「失敗する」ことを許容しなければなりません。」
とはいえ、闇雲に進めることはできません。サプライヤーマネジメントに「将来」との視点を入れるためには、ある見通しにもとづいて、必要になるかもしれないサプライヤーをあらかじめ選定しなければなりません。ここには2つのハードルが存在します。最初のハードルは「ある見通し」です。
読者の皆様のご勤務先でも、一定の周期で中長期の経営計画を策定されるはずです。以前、このメルマガのテーマにした「購買戦略の作り方」では「戦略の階層」という考え方を示しました。中長期の経営計画においても、次の図の通り、同じ階層が存在します。
<クリックすると別画面で表示されます>
「購買戦略の作り方」でも述べましたが、戦略や計画といった「将来」を考える場合、調達・購買部門では、独自に創造性を発揮することはできません。上記の図からみれば、
1. 全社・事業レベルの主旨にもとづいて
2. 技術・販売・生産計画から影響うけて
計画を策定しなければなりません。簡潔にいえば、将来的に必要となるサプライヤーを選定する際の考慮すべき要素が増えます。具体的には、
(1) 社内的なリソースの有無
(2) 研究開発投資計画
(3) 人員計画
が挙げられます。計画実現の為に必要なリソースは社内に存在するか。不足する技術的なリソースを補うための研究開発投資をおこなっているか。それら計画に見合う人員計画を立てているかどうか。それらの計画になにかしらの「不足」がある場合に、外部から調達して確保することを初めて考えることになるわけです。
前回のメルマガで私が提示したポイントを次の表にまとめました。
<クリックすると別画面で表示されます>
従来のサプライヤーマネジメンを、過去もしくは現時点でのビジネスの結果、報奨的にサプライヤーを区別して扱うこととしました。それは、社内的な購入の依頼による結果にもとづくものです。もちろん、報奨的な部分も必要です。現時点でのビジネスによって得られた利益をサプライヤーが再投資することで、将来のビジネスに役立つモノやサービスの供給ができる可能性もあります。しかし、サプライヤーマネジメントというバイヤーにとって極めて重要な仕事を、
・過去と現時点のビジネスの結果として
・報奨の為だけに
おこなうことが得策とはいえません。ここで、上記の表の説明をします。
過去と現在において、情報の共有であったり、相互で信頼関係を構築したりすることは、その根拠となるバイヤー企業からの発注が歴然と存在する/していたことになります。したがい歴然と存在する発注先の中から、自社の事業運営に欠かせないサプライヤーを選定すればよかったのです。ここでのポイントは、別に調達・購買部門でなくとも、現在の取引の状況をみれば簡単に「区別する」サプライヤーを選定することができることです。そのサプライヤーには、どんな得意分野があるから発注先として選定しているといった調達・購買部門として掌握していることを知らずとも「区別」できてしまうのです。この状態で、自社のサプライヤーの将来像を描かないことが、多くの調達・購買部門が抱える根源的な問題です。
先に提示した「計画の階層」を示した「機能計画」をご覧ください。それぞれの計画を、一般的な部門名で表現すると、次の通りになります。
技術計画:設計・技術部門
販売計画:営業部門
生産計画:製造・現業部門
そして各部門の中長期計画を想像してみます。どの計画にも「画に描いた餅」かもしれませんが、将来を描いているはずです。調達・購買部門だって、当たり前におなじ事をすることが必要なのです。そのためには、現在のサプライヤーを俯瞰して、技術・販売・生産の将来像を踏まえ、未来のサプライヤーがどうあるべきかを考えることが不可欠なのです。
ここで、少し私の経験をお話します。あるサプライヤーについてです。
そのサプライヤー、A社の従業員は二人。社長(男性)と、その奥様です。当時の私の勤務先の、あらゆる部門に出入りしていました。私自身も何度か一緒に仕事をしていました。
ある日、かなり高額な製品を短納期で購入しなければならなくなりました。供給してくれるメーカーとは取引の実績がありません。したがい、大企業にありがちな「口座」も持っていませんでした。そしてある部門の担当者からこんなアドバイスを貰います。
「将来的に継続して発注する可能性も未知数だから、とりあえずA社経由でやったら?もう、仕様も固まっているし、顧客も承認しているから、いまさら品質確認とか……」
ちょっと時間的な制約もあったので、私もA社で良いかと考え初めていました。そしてA社との取引状況を見て愕然とします。実質社長一人がかかりきりとは言え、年商は億のレベルでした。そして発注内容の詳細を確認すると、どれもが、私が直面したケースと同じく、なんらかの制約によって正式な口座開設をおこなわなかったことがうかがえる品目ばかりです。中には、そんな状態のまま、量産ステージで購入されている品目もあったのです。
なんでこのようになっているのか。私は関係者からヒアリングをおこないました。すると、
・現在進行形の発注に傾斜して仕事をする調達・購買部門
・まだどうなるかどうかわからない、いちいち口座を開くほどの購入ではないといって調達・購買部門に話を持ち込むことなくA社へ依頼する関連部門
という二つの姿がありました。
この話は、いわゆるどこの会社にも存在する「便利屋」的なサプライヤーに関するものです。その「便利屋」からの購入価格が妥当なレベルかどうかも問題です。しかし、私はA社へ発注された品目の中に、将来的に重要となるであろう品目やサプライヤーの存在を感じました。確かに将来のサプライヤーを見いだすことは難しい、それは認めます。でも、まったくヒントが無いかと言えば、様々な情報が社内には流通していて、調達・購買部門が知らないだけなんてことがあるのではないか、私は実感したのです。