ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●区別すること

最初に少し前回の復習をします。前回はサプライヤーの「評価」に関するお話でした。サプライヤーを評価する上で、重要なポイントを3つ挙げました。

(1) 定量化した判断基準を用いる
(2) 評価内容と、評価基準を、評価対象であるサプライヤーにも公開
(3) バイヤーとして評価する内容をサプライヤーみずから評価してもらう

そして、評価内容をサプライヤーと共有するメリットを三つあげました。

① 情報収集が容易に
② 問題点の抽出
③ サプライヤーとの合意

今回は、評価結果に基づいてサプライヤーを区別します。まず、そもそもなぜサプライヤーを区別しなければならないのでしょうか。

昨年、大手電機メーカーがリストラの一環として「取引先数の半減」を掲げました。それ以外でもリストラとして「取引先数の削減」に取り組む製造業の存在が報じられています。この取り組みの背景を考えてみます。

冒頭にご紹介した大手電機メーカーの実際の取り組みはこうなっています。

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このサプライヤーマネジメントのポイントは次の3点です。

1. 従来のサプライヤーを7つの評価軸(※)で、4つのカテゴリーに分類する

2. 自社の事業構築に欠かせない上位2つのカテゴリーを、従来サプライヤー数の約半数へと絞り込む

3. 上位2カテゴリーと、下位の2つは固定化せず、評価結果の定期的なレビューそしてカテゴリーの「入れ替え」を実施することで常に活性化をうながす

※7つの評価軸とは
① 取引の電子化進捗度合い
② 品質
③ コスト
④ 納期遵守率
⑤ サービス
⑥ 環境対応
⑦ 技術力
の7つ

この取り組みにいたった背景として、そもそも取引関係にあるサプライヤーの数が多すぎることがありました。バイヤーが安価なコストを追求する際に、一番訴求力の大きなボリュームの効力をバイヤーみずから放棄していたことになります。そして、グローバル化進展、新興国経済の勃興にともなう市場競争の激化によって、大手製造業といえどもより一層サプライヤーのリソースを活用にせまられているともいえます。それでは、どうすればサプライヤーのリソースをより広く、そして深く活用できるのでしょうか。それには、サプライヤーを「区別」して扱うこと、平等に扱わないことが必要になってきます。これを先のケースを用いて説明します。

先に提示したケースでは、自社のサプライヤーを4つにカテゴライズしました。上位に分類されたサプライヤーには、そのように分類され、これからも分類されつづけるためにいくつかの条件が必要です。

1. サプライヤーがバイヤー企業にとって事業運営に欠かせないリソースを持っていること

2. バイヤー企業とサプライヤー間で、必要に応じた情報共有をおこなっていること

3. バイヤー企業、サプライヤーの各セクション間及び担当者、マネジメントまで含めた密接なコミュニケーションによって、相互理解を実現させていること

これら条件について、それぞれ

(1) 過去

(2) 現在

(3) 将来

という三つの視点で見る必要があります。3つの中で、もっとも重要なポイントは(3)将来です。

日本の調達・購買におけるサプライヤーのカテゴライズとサプライヤーマネジメント実践の具体例としては、取引先協力会があります。取引先協力会に限りませんが、従来のサプライヤー評価は実績=過去に重きを置いてきました。取引協力会のメンバーになるかどうかも、過去の貢献度合いが判断基準の柱になっていました。この部分は、日本が抱える問題にも通じる、日本の調達・購買界におけるサプライヤーマネジメントの大きな問題点です。

実際にカテゴライズをおこなう場合、判断基準の一つとして過去の実績=バイヤー企業への貢献度合いから判断することは必要です。しかし絶対的な基準ではありません。実績だけでカテゴライズをおこなうことは不十分です。たとえば、自社で大きな事業の転換が想定される場合、同じサプライヤーとのビジネスが継続できるかどうかは未知数ですね。バイヤー企業側と同じように事業転換を図ってくれることもあるでしょう。しかし、従来取引のなかったサプライヤーに、新しい事業分野に必要なリソースを持つ企業があるかもしれないのです。

一方、自社の知らないところに有益なリソースを提供してくれるサプライヤーなど、これまた未知数です。将来を読み解くことは難しい、それにリスクも存在します。ただし、これはこれからの調達・購買部門と、そこで働くバイヤーにとっては取り組まなければならない課題です。すこし話を脱線させます。

実質的なサプライヤー選定、いわゆるソーシングを、要求部門であったり、製造業であれば設計・エンジニアリング部門であったりがおこなってしまうケースは、ありがちなケースですね。これをどのように捉えるかがポイントです。

納期遅延問題や、品質問題に対し、失敗から学び解決をリードするバイヤーは多く存在するでしょう。しかし、そもそも「なぜ、そのサプライヤーなのか」との疑問に対して、ソーシングをおこなったバイヤーとして過ち・間違いを認めることができるでしょうか。こうなってしまうのはズバリ、ソーシングへの実質的なバイヤーの関与度の低さが原因です。みずからサプライヤーを主体的に選定したわけではないから、過ちも認める必要がないというわけです。これにも、そうなる所以があります。

私が調達・購買部門で勤務する中で、悩ましく感じている事があります。それは、社内的にも社外的にも「失敗が許されづらい部門」であるとの点です。たとえば、売り買いの「売り」では、「千三つ」なんて言葉に代表されるとおり、営業の日常的な業務の中に「失敗」が織り込まれています。1000件売り込みをかけても、997件は実現しないことが許容されているわけです。では、売り買いの「買い」である我々調達・購買部門に、同じレベルでの失敗をすることは、なぜか許されませんよね。営業部門は3つの成功が「加点」されますが、調達・購買部門は997件の失敗が「減点」されてしまうのです。

バイヤーがサプライヤーマネジメントを実践する際に重要なポイントは、従来よりも「失敗する」ことをより前提にし、「失敗する」ことを許容しなければなりません。この辺は、次回以降、もう少し細かく見てゆきます。

<つづく>

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