バラエティーに富んだ質問への対処法(坂口孝則&牧野直哉)

坂口:セミナー講師として登壇するようになってから しばらくたちます。プロとしてやる前からミニ講義のような仕事をやっていたから、10年くらいやっている計算になります。ライブで話す講義ですから、 一部の受講生が求めているのは、講師であるわれわれへ質問です。

よくある質問であれば、あらかじめ答えることができます。しかしながら質問によっては講師の想像をはるかに超えたものがやってきます。私が1番びっくりしたのが、資料の体裁について。色使いを質問されたことです。そもそもそのような質問は、他の受講生にとって価値のないものですし、何を答えてもかまわなかったかもしれません。ただ調達だとか購買のセミナーなのに面白い人もいるなあと思ってしまいました。これまで困った質問ってどういうものがありましたか。

牧野:私が今までセミナー講師をしてきた中で最も困った質問は、初めて大手のセミナー会社でセミナーをしたときの質問です。そのセミナーは、午前中2時間、午後4時間のプログラムでした。午前中1時間ぐらいが終わった頃でしょうか、「こちらもいろいろ都合があるので結論、教えてもらえませんか」という質問を受けました。

私は6時間受けてもらって全体が完成するようなプランを作っていたので、午前中に、この質問の内容はかなり困った記憶があります。ただ、同じ質問を例えば残り10分でされたら、きついなあとも思いました(笑)。

あと、質問をしてくださって全然構わないんですけれども、 たくさん質問を受けて感じるのは… あらかじめ言いますが、何を質問してくださってもいいんです。しかし、あえて申し上げるとすれば、皆さん唯一無二の答えを求めすぎかなと思います。

セミナーは受講生のバックグラウンドを知らない状態で企画します。そういった前提から考えると、 ある程度内容は汎用的なものにならざるを得ません。 しかし、皆さん自社にとって最適な答えを求められます。例えば、集中購買はどんなときに行えば良いですか。集中購買から、分散購買に移行するタイミングはいつですか、といった具合です。確かに、そんな質問したくなるのは分かります。でも、正直言えば、それを決めるのがバイヤーだと思うんですよね。

1回の質問は長くても話を聞くのは2~3分です。その中で、個別の案件に関して答えを見いだすのはものすごく難しい。セミナーの内容から、できれば1回は自分で考えてほしいと思うのが私の正直な気持ちです。

坂口:ありがちな質問に、 特定のサプライヤーが独占しているが、どうやって何すればいいかと言った質問があります。まじめに答えようと思えば、なぜ特性になっているのかの背景や製品の特性、ならびにその会社の内部におけるサプライヤー評価などさまざまなことを聞かなければなりません。そして、独占がいいケースだってあり得るのです。 しかし、何か答えなければいけない。

真面目に応えようと思うと「わかりません」が最も紳士的な答えです。ただしそれでは講師として余りにも価値がないと考えられるケースもあります。ではどうすればいいのでしょうか。私はこのように答えるようにしています。

それは、ご質問者の背景が分からないと断った上で、違う会社の例で答えるといったものです。そして最後に個別の事情がわからないのでこの通りできるかは分からないが、現時点での情報では、その例が役に立つのではないか。 もしこれ以上の答えは御社の事情を把握しコンサルティングのような形で御協力できるかもしれません、と答えるものです。

私が尊敬する岡本史郎先生、先生の回答はすばらしいほど見事なものでした。 それはまず質問を質問で返すと言ったものです。そして、多くの場合は質問者の質問が実は表面的なものに過ぎず、根源的な悩みを抱えているということにまで結びつけるのです。 先ほどの私の例で言えば、まず岡本先生であれば、社内規定はどうなっているのかを聞くでしょう。そうすればどんな会社でも多くの場合、 社内規定で調達部門がサプライヤーを決めることになっているはずです。とすれば決める主体が決められないというのは矛盾しているわけです。ならば社内の規則がそもそも守られていないのではないか。その他サプライヤー決定のみならず仕事のプロセスに根源的な誤びゅうがあるのではないか。そうやって背後を応えるというノウハウは必要なのかもしれません。

牧野:独占サプライヤーの例は、私もよく御質問を頂きます。 そして「当社調べ」の域を出ませんが、 半分以上の質問者がサプライヤーに怒りを感じてるんですね。 ですから、その場合は「そうですよね~」と、合意してうなずいてあげることで、質問者は一定の満足を得ているのかな、と思います。 ただ私はそれだけではいけないと思っていて、できるだけ質問には誠実に答えるようにしています。 そのあかしに、セミナーが終わった後も、メールで質問を受け付けています。

独占サプライヤーの質問は、かなり長文のメールを頂くこともあります。怒っている相手に「怒るな」と言うのは火に油を注ぐことになりますので、 かなり遠回しに問題点を指摘するのですが、なかなか御返事をいただけません(笑)。あと、質問というかかなりクレームに近いお話をいただくことがあります。セミナーの内容を、ここまでやってられないとか、どうやったら業務時間中にこういう事ができるのですか、という質問です。ただそういう質問を下さる方は、やってみようという意思があると判断して、自分の知識やノウハウを総動員して答えます。どうやったら限られた時間の中で実現できるのかを伝えるのも重要なことだなと感じています。 せっかく伝えたことがやっていただけない、 参加してくださったかたの支払った料金も時間も無駄にすることですので、 どうやったら一つでもいいから実際やってもらえるか考えています。

坂口:先日驚いたのが「この観点が漏れているのではないか」と指摘されたことです。これは大変奇妙な質問のように思えました。というのも、それを知っているのであればなぜ再び聞きたいのかが私にはわからないのです。セミナーというのは知らないことを聞く場所ですから、知っていることを再確認しても余り価値はないと思っているんです。ただし、それはどちらかと言うと講師に対して、自分はこれだけ知っているというアピールだったのかもしれません。その場合は、もちろんさまざまな手法や知識やノウハウがありますから、このセミナーで全てを網羅することはできない、というに止めるほかありませんでした。

あと面白い質問が、統計のセミナーの際にありました。今日の講義で統計のことが極めてよくわかった。しかしながら、統計手法を使って上司に説明しようとすると、上司は統計のことが分かっていないから説明することができない。どうすればいいだろうかというものでした。

セミナーの内容とはちょっと離れた質問ですね。と私は言うしかありませんでした。なぜならばスペイン語を習った受講生が、上司は中国語しかわからないのでスペイン語でどう説明していいかわからない、と言われてもスペイン語講師は何とも言いようがないからです。

またこういうこともありました、先生が教えてもらった理想的なフォーマットはよくわかりました。しかしながらこれは現在のサプライヤーのレベルでは難しいというものです。しかしながらこの御質問もサプライヤーの実態をわかっていない私には答えようがありません。セミナーで聞いたことをそのままやる必要はありません。だから応用可能な所から取り組んでほしいと私などは思います。

牧野:私は、セミナーの冒頭で、このセミナーの時間あるいは質問のやり取りを通じて、私を活用して皆さまの業務の改善を行ってくださいとお願いをしています。よくセミナーの事務局から講師の紹介を受けるときも牧野先生といった形で紹介されますが、余り先生、先生と思わずにこいつをどうやって利用するか、この人の言ってることをどうやって自分たちの業務に活用すればいいのかという姿勢が私は一番重要かなと思っています。

ですからどんな質問がくるか?は何回セミナーをやっても怖い。 でも、質問によって、 新しいセミナーが企画されて、 新しい問題意識が生まれもします。だから、私にとって質問というのはかけがえのないものだと感じています。一方で、セミナーの終了後の時間、あるいはセミナー中の時間だけで、受講者の答えを求める質問にドンピシャの答えを出すのは本当に難しいなあと思っています。できれば、セミナーの内容を踏まえて、自分だったらどうするのか自分たちだったらどうするのかを考えてほしいと思っています。

 <了>

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