将来を予見する力を持つ!(坂口孝則)
ボーナスの時期がやってきました。しかも、多くの企業の支給額は激減だそうです。多くの会社員が、嘆きながらそれを手にしているのでしょう。そして、これまたほとんどの人が「まあ、それでもボーナスが出るだけ、まだマシだよな」と言いながら夜の居酒屋で焼酎を飲んでいるはずです。
それを別に批判したいわけではありません。その気持ちは、よくわかります。ただ、日本がこのような不況になるなど「予想できなかった」というのは、「違う」と思うのです。
現在、マイホームやマンションの支払いが滞り、手放してしまう家族がたくさんいるそうです。不動産、あるいは家やマンションは、必ずソンをする資産といえます。不動産屋や業者のマージンが売価に含まれている限り、買った瞬間に資産価値が3割減る、などということが必ず起きるわけです。
これまで日本では「家や土地は資産だ」と言われてきました。「本当かよ」です。どう考えても、ローンを支払う時点で価値がどうなっているか不明なものなど安定した資産とはいえないでしょう。これまで日本人は安定志向だと言われてきました。しかし、現在かなりの家庭が家や土地の支払いで汲々としており、かつかなりの資産価値が減ってしまっています。つまり、日本はイメージとは異なり、国民全体が壮大なギャンブルをしていたというわけでした。
土地の値段は国家の人口に比例せざるを得ず、もし劇的に上がることがあるとしたらバブルでしかない、というのは通常に新聞や本を読めば理解できることです。違いますかね? なお、不動産信託であるREIT(リートと読みます)を買えば、実際の不動産を買うよりもリスクが減るはずですが、そのREITですらも破綻が相次いでいる状況は、何を教えてくれるでしょうか。それらの推論は、別に難しい話ではありません。繰り返し、本を読み、世論ではなく、常識にのっとり自分で考えればわかることです。違うでしょうか。
日本の不景気は予想できたのか。もちろん、リーマンショックから始まる今回の不況を正確に予想できるとまではいいません。しかし、アメリカのサブプライムローンは常軌を逸しており、それがソフトランディングできない、ということくらいは直感的に理解できたでしょう。だって、年収300万円の人が、5000万円の家を買っては売却していたのですよ。正気の沙汰とは思えません。
さらに、日本と中国がアメリカ国債を買い続け、ドル高を演出しているということがわかっていれば、円高は避けられず、日本の輸出産業が近い日に壊滅的な状況になることはわかったはずです。これも、違うでしょうか?
私は市場の正しさをある程度信じている人間です。通常の為替レートでは円高になってしまうところを、意図的に円安にしていた。もちろん、適切な市場介入というのはありえるでしょうけれど、それは恒常的に続けるべきものではない。それをひたすら円安成立のためにアメリカ国際を買い続けていたのですから、これが正常なはずはありません。
しかし、当時の世論は、「円高になれば国は滅ぶ」という論調がほとんどでした。円高、という自国通貨が評価されている状況を嘆くのはあきらかに倒錯でしょう。ただ、ここでも「円高が悪はほんとうか」という視点さえ持っていれば、違う考えになったはずです。
何度もいいますが、これは特別な情報を必要としません。公開情報から、これまで高校や大学で学んだ理論を使い、そして本で反証しながら考えるだけです。私はかつて雑誌で「1ドル70~80円が適正では?」と書いたことがあります。それに賛同してくれれば、日本の給与所得者ならば自己の年収が減ることが予想でき、それに備えることができたはずです。具体的な手法は、身をもって示しているつもりなので、繰り返しません(偉そうでごめんなさい)。ただ、このような状況が「予想できない」ことではなく、数年前から対応策を練ることができたはずだ、ということを言いたいのです。
ちなみに、かつて「ウィキノミクス」という書籍を読んだときに、ある種の戦慄を覚えました。あっ、このままだと日本の製造業、サービス業は潰れてしまう。そう思いました。もちろん、それがまだ現実化しているとはいいません。しかし、旧来構造を温存した企業が苦境に陥っていることは事実です。また、このような本を読んで考えておけば、さほど間違えることはないでしょう。
今年で言えば、「フリー」でしょうか。この本も衝撃的な本です。すべてが無料化していく世界にあって、あらたな収益モデル(すなわちこれは、給与所得者からするとどうやって年収を確保するか、です)をいかに構築するかを真剣に考えねばなりません。
ただ、ここでやや安逸とはしていられない状況があります。ほとんどの人は本を読まないからです。本ほど安いメディアはない、と繰り返し言っているものの、それに賛同し実際に実行してくれる人はほとんどいません。
重要と思える本を買っても、年間20万円ほどですよ。2000円の本だとしても100冊は買えます。ですが、銀行に住宅ローンの利子を2000万円ほど支払うのは無自覚にできるのに、その20万円を支払う人は驚くほど少ない。これが現実です。おそらくこれを読んでくれている人は、そちら側の人間ではない、と私は思います。そう期待したい。
将来を予想する、とは難しいことではありません。ちょっとの知識をもとに、ちょっとした思惟を重ねるだけで良いのです。
ほら、世界には可能性が広がっています。