連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)

25回にわたる連載です。調達・購買戦略の肝要を順に説明しています。

・個別原価分析

次にコスト構造分析を考えてみます。ここで重要なのは、見積り力です。前回もお話したとおり「ざくっと」製品のコストを予想する力のことです。大方針をまず掲げておきますと、製品の販売価格は原材料コストの3倍以上と思って良いでしょう。なぜ「以上」かというと、もちろん営業の立場からすると高めに販売した方が良いからです。

これは生産個数を完全に無視しています。当然ながら、多めに作ったらコストが下がりますし、少ない場合は段取り費用がかかってしまいます。しかし製造物を作る場合は、概ね材料費の3倍という指針で良いでしょう。

では次に、私がお勧めしているのが、みなさんが接しているサプライヤーの中で、上場企業があれば、その上場企業の決算書を見てみることです。具体的には有価証券報告書で、「製造原価明細書」を調べてください。そうすると概ねその業界の原価構造が分かります。

当然ながら大企業と中小企業の原価明細は違うはずです。しかしながら、ここではザクッとした見積もり力を獲得する目的です。例えばプレス部品各社の有価証券報告書を見てみましょう。

・売上高を100とすると、
・製造原価が80となっています

さらに内訳を見ると、

・材料費が50
・労務費20
・経費10となっています。

この会社の場合は、材料費が、先ほど申し上げた原材料費だけではなく、調達費と外注費を加算しています。したがって材料費の3倍は当てはまりません。ただ、材料費のうち、原材料費が30くらいとすれば(調達費と外注費が20)、そんなにおかしくはありません(30×3≒100)。ここでの趣旨はざっくりとした原価構造把握することです。

表記は「売上高」となっていますが、これを「価格」と置き換えれば、100円の価格に

・材料費50円
・労務費20円
・経費10円

が生じており、差額の20円が粗利益(売上総利益)というわけです。

見積書を査定する以前の段階として、どの価格要素でもいいのでつかんでおけば、全体の価格を類推できるというわけです。

・工場コストと利益の関係

ところで、さきほど、「・売上高を100とすると、・製造原価が80となっています」と書き、「差額の20円が粗利益(売上総利益)」とも書きました。一例では20%の粗利益でした。

ということは、製造原価は工場のコストですよね。だから、製造原価をベースに考えると80×1.25=100円ですから、25%の利益が加算されていることになります。ご注意ください。価格からすると20%が粗利益ですが、製造原価からするとその25%が粗利益ということです。

この業界平均を知っておく価値はあるでしょう。現在2015年のデータが最新で、代表的な業界は次のようになっています。

うむ……。見づらいですね。拡大できますのでご容赦ください。

全産業は工場原価が80%までは行っていません。75%台です。でも、けっこう高いですね。そして25%ほどの粗利益は残るのですが、販管費をひかなければなりません。販管費とは「販売費および一般管理費」が正式名称であり、営業マンの費用、間接部門の費用だと考えてください。それらをひいていて最後には利益が4%弱しか残らないのですね。

また自動車業界を見てみましょう、自動車業界は好調が伝えられていますが、利益で見ると5%強と、さほどすごいものではありません。むしろ陸運業の6%が目立っています。つまりこれを見ると、物を運ぶ人たちの需要が高まり利益を残しているわけです。

全産業をエクセルでまとめました。

http://www.future-procurement.com/rieki2015.xlsx

セキュリティの関係でダウンロードできない場合は、ご家庭からダウンロードなさってください。

調達・購買担当者は、おおむねの価格と、おおむねの利益を把握する必要があります。俯瞰したデータから把握しておきましょう。

 <つづく>

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