「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 1(牧野直哉)

今回から新の連載を開始します。「持続可能な調達」を最低限正しく理解するがテーマです。この題名に込められた考え方をまずご説明します。

「持続可能な調達(ISO20400:2017)」とは、2017年4月にリリースされたISOのガイダンス規格です。この規格は「ISO26000 Guidance on social responsibility (邦題:社会的責任に関する手引)」の調達版の位置づけです。一般的に企業には、さまざまな役割と責任を持ったセクションが存在します。その中で、なぜ調達だけに持続可能なガイダンス規格が設定されたのでしょうか。

事業を運営する際、一般的に企業では社内の資源と社会の資源の双方を使います。従来のISO26000は、社内の経営資源に対する社会的責任に関するガイダンス規格でした。企業活動がグローバル化し、サプライチェーンが全世界に拡大する中、企業が社会的責任の全うをマネジメントするには、社内のリソースだけを対象にするのは不十分なのです。社外から調達するリソースも同じように社会的責任をまっとうして、持続可能性を追求する必要性が高まったのです。

今回の連載では、持続可能な調達に関する最新のトレンドを踏まえた内容でお伝えします。特に次の点に関して重点的に解説を加え、調達・購買の実務者に現場で役立つ知識やノウハウの確立を意識します。

1.新しい考え方であること

ISO26000は2010年、ISO24000は2017年が初回リリースです。体系化された考え方としては、社会的責任も持続的な調達も比較的新しい考え方です。しかしその内容は、例えばOECDが制定した「多国籍企業行動指針(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/housin.html)」は、1976年に初めて策定されました。これまでに世界経済の発展や企業行動の変化などの実情にあわせ5回改訂され、最新版は2011年に改訂されました。

こういった事実から考えれば「新しい考え方」といっても、そのエッセンスは企業によって違いはあるものの、すでに日常的な業務の中に織り込まれているケースも存在します。したがって、何もかもが新しい考え方なのではなく、すでに企業内で実践している内容と、実践できていない内容への分類がまず重要になります。対応できてないポイントについて、新たに取り組めばよいのです。

2.さまざまな規格や方法論があること

「持続可能な調達」「企業の社会的責任」といったキーワードに関連する規格は、非常に数多く存在します。今回の連載で取り扱う規格は15にもなります。これは、サプライチェーンのグローバル化と密接に関係しています。自社の工場には目が届いても、サプライヤーの工場までは目が届かない。海外のサプライヤーであればなおさら管理が難しくなります。

そして企業活動の性格上、購入コストや、納期、納入時の品質といった内容が優先され、サプライヤーで労務管理が正しく行われているかどうかは、二の次の話でした。こういった状況に問題意識をもったさまざまな団体や機関によって、規格や方法論が考え出された結果、規格や考え方が乱立しているように見えるのです。自社のサプライチェーンが社会的に責任を全うできる状態にあるのかどうか、新たに取り組もうとすると、いったいどれを基準にすれば良いか分からなくなっているのです。

3.どの規格や方法論にも共通するエッセンスを抽出すること

どんな規格や方法論であっても、企業の社会的責任や持続可能な調達の観点では、ほぼ内容は似通っています。そして、これまでISO9000やISO14000といった認証規格を取得している場合、ISO26000や20400をベースにするのが、言葉の定義や考え方に親和性があります。したがって今回の連載では、名前の通りISO20400をベースにしながら、他の企画や方法論に対して言及するといったスタイルをとって進めます。

4.頻出のキーワードを解説すること

これは前項とも関係しますが、新しい考え方のため、従来から使用している言葉でも、従来とは少し異なる定義で使われている言葉が存在します。持続可能な調達を理解するために必要なキーワードは、必ず言葉の定義の解説を加えて、読者の皆さまの理解をサポートします。

5.持続的な調達が「失われた例」を示すこと

そもそも企業の社会的責任といった考え方も、何か事件や問題が発生し、その影響が従来の想定範囲外に企業に及んで、経営に大きな影響を与えた結果、そもそもの事件や問題を発生させないための管理の必要性が訴えられた結果で生まれました。例えば、「持続的な調達」の原則には、次のような項目があります。

・説明責任
・透明性
・倫理的な行動
・完全かつ公平な機会
・ステークホルダーの利害の尊重
・法の支配及び国際行動規範の尊重
・人権の尊重
・革新的な解決案
・ニーズへの焦点
・統合
・全費用の分析
・継続的改善

それぞれの項目について、実際に企業経営に影響を与えた事例を示しながら、自社だったらどうなのだろうか?といった思考を導きやすい内容にします。

6.調達・購買部門で実践すべき最低限のアクションを織り交ぜること

前項で示した「持続的な調達」の原則をベースに、では調達購買部門で実務に何を落とし込むべきかを示します。企業の社会的責任といったテーマで話をすると、どうしてもスローガンの提示、理想論の展開のみに終始してしまいます。調達・購買部門では、サプライヤーとのコミュニケーションや、サプライヤー管理で、実践すべき内容があります。そういった内容から「最低限ここだけはやりましょう」の部分を抽出してお伝えします。

(つづく)

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