連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2031年①>

「2031年 日本における宇宙産業市場規模の倍増へ」
宇宙産業は次なる成長産業へ。世界でさまざまな宇宙ビジネスが定着する

P・Politics(政治):宇宙基本計画により国も民間と手をつなぎながら、産業育成が活性化する。
E・Economy(経済):衛星関連ビジネスは市場規模が右肩上がりに拡大していく。
S・Society(社会):衛星測位など宇宙からの通信や、衛星画像分析によって、宇宙の存在が身近なものになっていく。
T・Technology(技術):宇宙空間への輸送、あるいは宇宙からの送電など、技術が真価していく。

世界で宇宙産業の市場規模は拡大している。日本も宇宙産業育成に乗り出した。スマートフォンで使用するGPS情報だけではなく、衛星からのデータはさまざまな用途で活用されはじめている。衛星からの情報を民間が自由に加工・分析できれば、考えもしなかった産業が誕生するだろう。

・働き方と女性社会進出

藤子・F・不二雄さんの短編に『3万3千平米』がある。ある主人公サラリーパーソンに、しつこく男性が近寄ってくる。そのサラリーパーソンは平凡な男で、土地などの資産を有していない。しかし、その男性は、主人公に土地を数億円で売却しろというのだ。

人違いかジョークと思った主人公は、男性から逃げ続ける。しかし、最後に武装した男性は、強制的な買い取りをすると、主人公の前に宝石類を提示する。これで土地を売却しろと迫るのだ。主人公は、狐につままれたまま、大豪邸を手に入れる。主人公が、思いつくのは、10年前に火星の土地権利証を1000円で買ったことだ。もちろん、ジョーク商品だった。まさかとは思うが、どこかの宇宙人が、これを熱心に買い取ってくれたのか――。

SFを「少し不思議」、と語る藤子さんらしい、不思議な面白さにあふれる傑作だ。藤子さんの宇宙を舞台にした短編は多いものの、まったくの一般人が巻き込まれる点で、ひじょうに印象に残る。

もともと、宇宙産業は1950年代までは米ソの宇宙開発からはじまり、国家間のプライドをかけた闘いだった。そののち冷戦が終了してから宇宙開発が低迷した。2000年代になると、インドや中国が宇宙開発分野に参入してきた。そして2010年代になると、アマゾンのジェフ・ベゾス氏や、テスラ・モーターズかつスペースXのイーロン・マスク氏などが、あいついで宇宙分野で注目を浴びるようになってきた。

ただ、日本ではさほど、その熱を感じられない。宇宙とは地上から100km超を指す。東京からは熱海くらいだが、イメージがつかない。一般人からは遠い世界のように思われている。ロケットなど、実用性が感じられないばかり、無用のように感じてしまう。しかし、実際には、スマホで地図アプリを見るときにも、衛星測位は使われている。また、気象情報測定にも不可欠だ。

・日本の動き

2015年の宇宙基本計画において、GDP600兆円を目指す過程で、宇宙産業の振興が掲げられた。2030年代の早い時期に、宇宙産業市場規模の倍増が目標だ。2016年には宇宙活動法、衛星リモセン法が成立し、国の独占事業だった衛星打ち上げを、民間業者に間口を広げた。

日本では、準天頂衛星「みちびき」は有名だが、2010年に初号機が打ち上げられたばかりだ。2018年に準天頂衛星システムが4機体制で稼働し、それによって24時間の衛星測位サービスが実現する。これまでもGPSの位置情報サービスは存在したものの、これによってセンチメートル単位での高精度が実現する。

ただ、GPSなどの利用などであれば有効活用できるいくつかの企業が思いつくが、他の衛星データを解析し、それをサービスとして展開する企業はまだ限定的だ。さきほど、日本と宇宙は遠い、といったが、世界では宇宙ビジネスはこれからの競争力の源泉とすら思われている。

・宇宙、衛星関連産業の伸び

各国の衛星関連市場規模は2600億ドルを超えており、右肩上がりの成長となっている。ベンチャー企業への投資が世界では激増している。いっぽうで日本は、国からの需要が9割を占め、民間需要が旺盛とはいえない。世界の企業ランキングでは、売上で1位は米国のロッキード・マーティン社から続くが、日本は19位にやっと三菱電機が入っているていどだ。


http://www.sia.org/wp-content/uploads/2017/07/SIA-SSIR-2017.pdf

宇宙ビジネスとして想定されるのは、意外なほど広い。たとえば、宇宙基本計画工程表では、このような分野をあげている。

●衛星測位
●宇宙輸送システム
●衛星通信
●宇宙状況把握
●衛星リモートセンシング
●海洋状況把握
●早期警戒機能等
●宇宙全体の抗たん性強化
●宇宙科学・探査、有人宇宙活動

それに、推進する国々からすると、重要な輸出品になる可能性がある。商業的、軍事的に、独自の衛星をもちたい新興国は多い。人工衛星そのものにくわえて、運用システムの販売も期待できる(実際に、日本もアフリカや南米に継続的に官民でのセールスを展開している)。

このなかで、次回、いくつかをピックアップしてみたい。

<つづく>

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