連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)
*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。
<2034年①>
「2034年AIが大半の仕事を軽減化、あるいは奪う~AIが人間界へ本格進出~」
P・Politics(政治):行政もAIを産業活性化につなげる方向性。
E・Economy(経済):AI関連市場は2兆円を突破。
S・Society(社会):人間の労働の約半分が奪われる可能性がある。
T・Technology(技術):AIの実装が簡易化し、データさえ揃えば、AI化が即時可能となる。
AIが2034年までに、人間の労働の大半を奪う可能性がある。いままで考えられなかった領域も、AIが浸潤し、さらにシンギュラリティという技術的特異点を迎え、AIは人間以上の能力をもちうる。
そこで人間に重要なのは、繰り返されたように、機械ができない領域を突き詰めることだ。それは、AIと人間を結ぶ仕事だったり、人間を鼓舞したりする仕事に違いない。
・医者、AI、接触
医者とは不思議な職業だと私は思う。医師免許は一つしかなく、さまざまな医者は、外科とか内科とかを選ぶが、とくに個別資格はない。また、あくまで患者の症状にたいして、統計的な処置をする。しかし一般的に、患者は医者の処方は絶対的に正しい、あるいは、正しくてはならない、と考える。
そして、少なからぬプラシーボ効果があるため、同じことをいっても医者Aは病気に効くが、医者Bは効かない場合がある。
そこで、知人の医者に訊いてみた。もちろん技術が重要と前提のうえ、「まあ、相性もあるだろうけれど」いう。面白いのは、「ご老人たちには、触ってくれる医者が人気だね」と教えてくれたことだ。「触る?」「そう、体に触ってくれる医者。触ってほしいから来ているひともいるほど」。これはもちろんセクシャルな意味ではなく、安心をえるためという。
これをアトピーの知人にも話してみた。「わかる、わかる。俺なんか、腕を見せると、眺めるだけで処方する医者がいるんだよ。でもちゃんと触って診てくれたら、信頼できるね」。
なるほど。この触る、というのは一つの比喩と考えると非常に興味深い。医者も一定はロボットに代替されるといわれる。しかし――、それは物体的であっても、精神的であっても――、他者に触れることこそが生き残るヒントなのかもしれない。
・AIが約半分の仕事を人間から奪う
英国オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士が2014年に興味深い報告を発表した。10~20年後までに、英国における労働人口35%の仕事が人工知能やロボット等が代替する可能性が高いとした。なお2013年では47%、日本が49%だった。
数年の違いはあるものの、そこはこだわらない。おおむね、遅くても2034年くらいには、先進国で4~5割の仕事が代替されるというのだ(https://www.nri.com/jp/news/2015/151202_1.aspx)。
AI関連市場は、2030年に2兆円とも、90兆円ともいわれる。いくつかの調査データを見たが、これは何をAI関連ととらえるかによってまったく異なる。よって、あまり意味がない。ここでは、右肩上がりになっていると認識すれば大丈夫だろう。
経済産業省も平成29年の「新産業構造ビジョン」においてAI分野での遅れは国益を損なうとし、379ページに「AI」が245回も登場する(http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shin_sangyoukouzou/pdf/017_05_00.pdf)
・汎用AIと特定AI
個人的な話をすると、AIだか機械学習だかの言論があまりに極端すぎるような気がした。年配の経営者がいまだにスマホを使いこなせないのに、AIがすべてを代替するだろうか。もちろん淘汰されるひともいるかもしれないが、議論があまりにSFっぽくないだろうか。
本節では厳密に使い分けないものの、人工知能のなかに機械学習があり、そのなかにディープラーニングがある。そのもっとも大きな概念である人工知能(AI=artificial intelligent)だが、さすがに、AIがすべてを支配するのは、さすがにいいすぎだろう。しかし、同時に、やはりAIが大きな武器になるのは間違いがない。
そこで私は2017年に機械学習で使われるPythonというプログラミング言語を一から学習してみた。そして、実際にどこまで使えて、どこまで使えないかを検証しようと思い、自ら機械学習のソースコードを作ってみた。
まず、AIだが、大きく二つの定義がある。
<汎用AI>
鉄腕アトム、ターミネーターのイメージ
汎用人工知能とも呼ばれる。まるで人間、あるいは人間と同等以上の知能を発揮する
現実には実現困難だという学者もいる
ただ一般的には、この到来が信じられている
<特定AI>
分野に特化した機械学習の技術
データを集め、ロジック、アルゴリズムにしたがってアウトプットを出す
人間の介在や微調整が必要
現時点で実現済
世間的には<汎用AI>がイメージ先行している。ドラえもんレベルのロボット、あるいは「なんでもAIができるんでしょ」と思っているひともいる。ただ、実際には、後者の<特定AI>が実際だ。多くの過去データを集め、そこからさまざまな処理をさせる。AIなるものが勝手に未来を予想してくれるのではなく、あくまで多くのデータが必須だ。そこから地道にデータを分析する必要がある。
・AIの個人的な実装経験談
私の本業で恐縮だが、こういうテストをしてみた。①まず、取引先企業のランクづけだ。それまで、信用調査会社から、各企業のランク情報を入手していた。簡単にいうと、決算状態がどうで、従業員一人あたりの効率性がどうで、前年からの伸び率がどうで……といった情報をもとに1~10点までを採点する。その採点方法は公開されていない。そこで、機械学習で、過去のデータを読み込ませ、一企業のスコアを予想させた。結果、信用調査会社のスコアと等しかった。
②取引先から調達する製品があった。金属加工品をサンプルに、体積、削り長、表面処理等のデータと、それぞれの価格を与えた。いわゆる、仕様と、その実績価格と思ってもらいたい。そして、新規の調達品仕様を与え、価格を予想させた。すると、ズバリではなかったが、きわめて近い価格を予想できた。
機械学習では、データを与えると、そのうちのいくつかのデータで法則性を見つける。この決算状態だったらスコアは何点とか、この仕様だったら何円とか。そして、残りの違うデータで、その法則が正しいか確認を行う。前述の例でいえば、法則にあてはめると8点のところ、実際に8点なのかを確認し、その計算式の修正を行う。データが増えるほど、未知の数字を当てやすくなる。同時に人間がもっといいアルゴリズムがないかを試行錯誤しながら検討する。やや専門的にいえば、①は分類で、②は回帰となる。
これは基礎の基礎であり、先端の研究者がやっている高レベルのものではない。専門家は一笑に付すだろう。ただ、実践レベルの意味で、仕組みを知らずにAI脅威論を述べている文系人間よりも、機械学習の片鱗を理解した。
アンドレアス・C・ミュラー氏が『Pythonではじめる機械学習』でいっているように、<機械学習において最も重要なのは、扱っているデータを理解することと、解決しようとしている問題とデータの関係を理解することである。適当にアルゴリズムを選んでデータを投げ込む、というようなやり方ではうまくいかない>のだ。機械学習は、あくまでデータが元となり、さらに対象への造詣が必要だ。
<つづく>