ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)
・25のスキルと知識がバイヤーを変える
今回も前回に引き続き、調達・購買担当者に必要なスキルと知識を解説していきたい。もうおなじみとなった、「調達・購買担当者として必要な25の知識・スキル領域」である。
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この25個の調達・購買知識・スキルのうち(有料会員の方はバックナンバーをご参照ください)、今回は「サプライヤマネジメント」のAである「サプライヤ評価」を塗りつぶそう。
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今回で25個のうち、4つ目にいたった。
・そもそも「サプライヤマネマネジメント」とは
まず、「サプライヤマネジメント」を定義せねばならない。これはさまざまな定義が考えられる(牧野先生の定義もある)。ただ、ここで私はこのように述べてみたい。
1.サプライヤマネジメントとは:「公正なサプライヤ評価によるサプライヤ戦略に基づいて、 サプライヤを層別化し不公正に扱うこと」
2.サプライヤマネジメントによって得られるもの:「サプライヤ構造強化」「コスト削減等のQCDの向上」「調達・購買部門の社内プレゼンスの向上」
3.実効あるサプライヤマネジメントのためのキーワード:「継続的な公正なサプライヤ評価(製品のコスト・品質・納期状況)」「サプライヤ収益性、安全性評価」「サプライヤシェアのコントロール」「社内への徹底」
上記のように定義してみた。何よりも必要なのは、サプライヤを公平・公正に評価すること。そして、その評価通り、優れたところには発注量の増加を、劣ったところは発注減を目論む。あたりまえのことである。サプライヤマネジメントとは、あたりまえのことを、あたりまえにやりましょう、ということにすぎない。
取引実績のあるサプライヤ群を評価し、A~Dランクをつけていく。たとえば、Aランクはアライアンスパートナーとして選定するかもしれない。Dランクは発注停止対象だ。そのような能動的な「差別」をおこなう。
巷間知られている企業でいうと、ソニーは戦略的なサプライヤ集約を進めてきた。2003年には4700社あったサプライヤ数は、2010年にはじつに1200社になった。しかも、その後も、その集約先に緊張感を与え続けている(同社の本業低迷は残念だが)。報道が伝えるところによると、5000億円以上のコスト削減をもたらした。
評価とその結果からシェアを変動させること。その徹底が効果をもたらす。
・サプライヤ評価軸とは
そこで、さっそくだがサプライヤの評価軸を説明したい。まず、軸の設定は次のとおりだ。
1.品質
2.コスト
3.納期
4.技術・開発
5.経営
この5軸をそれぞれ100点満点で評価し、さらにこの5評価軸に重みをつけて、さらに総合100点満点で評価していく。
ここで、注意いただきたいのは、紹介する評価項目は一般的なものにすぎず、バイヤー企業ごとにアレンジせねばならないことだ。また、業界や品目によって評価すべき内容も異なるだろう。それを頭に置きつつ読んでいただきたい。
品質から順にみていこう。
1.品質
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まず左側に項目が書かれている。そして、その項目を三段階評価している。10点、5点、0点だ。そして、三段階評価がどのような基準によったかが書かれている。そして重み付けを行い、品質パートの100点をつけている(図ではダミーとしてすべて満点の値が貼り付いている)。
ここで、品質パートはお読みいただければわかるものばかりだ。そのなかで説明が必要なのは「納入品質」だろう。これは、納入されたうち、どの割合が不良品だったかを示すものだ。
10点は「10ppm未満」とある。これはどの程度なのだろうか。ppmとは百万分の一率だから、100万個の納入品のうち1個不良=1ppmとなる。したがって、10ppmとは、100万個の納入品のうち10個の不良だ。
(参考)シックスシグマという言葉を聞いたことがあるかもしれない。シックスシグマでは100万個のうち3.4個を目指す。よってシックスシグマを徹底する企業からすると、10ppmとは「甘い」評価軸と言えるかもしれない(何度も言うが、この指標はバイヤー企業各社によって異なる)。
2.コスト
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コストも100点満点で点数をつける。
ここで、「平均目標単価達成度」「コスト低減協力度」の違いについて説明しておこう。前者は新規製品開発における指標で、後者は毎期のコスト削減のことだ。ようは前者は、評価する期において、新規に採用した製品について、どれくらい目標原価よりも安価になったか。後者は、継続した調達品をどれくらい価格低減してくれたか、だ。
3.納期
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納期についても同様だ。ここで説明しておくべきは「納期遵守率」と「工程能力」だろう。
「納期遵守率」は、バイヤー企業が適正なリードタイムを設定している前提で、サプライヤがどの程度、その納期を守ってくれたかを評価するものだ。100件の注文につき95件が納期通りだったとすれば納期遵守率は95%となる。
後者の「工程能力」は製造業に属するひとたちだけ覚えておけばいい。「工程能力」=「Cp値」とは、工程能力を数量化し、工程能力の有無を判断する指標のことだ。極論をいうと、調達・購買担当者は、この数字の意味を知らなくて良い。サプライヤにヒアリングすればいいからだ。
結果だけいえば、下の図を見ればいい。合言葉は、Cp値が1.67以上あるかどうかである。
*具体的には「(上限規格)ー(下限規格)」を「6×生産実績のバラつきの標準偏差」で割る。
4.技術・開発
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当項目はまさにバイヤー企業によって異なるだろう。調達・購買部門は設計・開発部門と共同で評価軸を作成し、評価していく。
5.経営
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そしてサプライヤの経営状態評価だ。これがコストについで調達・購買部門が注力すべきところだろう。ここでは、財務の「安全性」、「収益性」、「成長性」、借入金等の「返済能力」を中心として評価している。
この経営評価については重要なので、来週のメールマガジンでじっくりと説明したい。
そして、これらの点数をまとめて総合点をつける。
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このサプライヤ評価表では、「品質」「コスト」を25%の重み付けとした。この重み付けにこそ、各企業の理念がもっとも色濃く反映される(べきだ)。品質が最重要であれば、重み付けは30%、あるいは40%となるであろう。あるいはコストが最重要かもしれない。
この重み付けは、企業理念とそこから派生する調達部門の思想による。何を大事にし、何を優先付けるのか。この重み付けによって、サプライヤ評価表が生きた、そして意思にあふれたものとなる。
サプライヤ評価とは、公平・公正でなければいけないといった。ただし、もちろん評価の重み付けには、各社の思想や姿勢が反映されているべきだ。
このように評価軸を設定したあとは、サプライヤを愚直に評価し続けることが大切だ。「使わざるを得ないから及第点をつけておこう」と現状にあわせてしまえば、とんだ茶番となる。公平な評価からしか、サプライヤの選択と集約・集中などありえない。
これ以降もサプライヤマネジメント手法を披瀝していきたい。
また、<クリックして大きい画像を表示してください>と書いているが、ブラウザや環境によっては大きくできないようだ。これまでの連載はまだしも、今回は大きくしないと意味がないので、直リンクを掲示しておこう。
ぜひ、次回以降も25のスキルと知識をご紹介したい。
<つづく>