コストテーブル論5 (牧野直哉)

前回までは、簡単なコストテーブルの作成と作成後に注意すべきポイントについて述べました。何度も申し上げますが、このメールマガジンをお読みの皆さまは、ほぼ100%表計算ソフトをお使いですよね。だったら、コストテーブルの作成は極めて簡単です。もしお作りになっていなかったら、すぐにでも手元の見積書や注文書を元に作ってみましょう。コストテーブルを簡単にためらいなく作成する方法論を体得すれば、作成後に展開すべき発展的なアクションが、より現実味を帯びてきます。今回から、作成したコストテーブルはそのままにせず、活用可能な状態を維持するための「コストテーブルの活用法」について、調達・購買業務で頻出な3つの活用法の解説を加えてゆきます。

●競合環境整備

まず、皆さまにお考えいただきたい問題があります。官公庁で行われる「入札」と、私たちが業務で取り組む「競合」の間には、どのような違いがあるでしょうか。

基本的に両者とも、複数の入札者/サプライヤーがお互いに競争して、発注側により良い購入条件を競わせる取り組みです。入札の場合、サプライヤー側を同じ土俵で競わせ同じスタートラインから始めて「公平・公正」を確保し、発注側にとって有利な購入条件を引き出します。公共調達の場合、発注の原資が税金なので、特定のサプライヤーに有利に働かない環境設定が重要です。

一方競合です。入札と同じくサプライヤーが競争した結果で有利な結果の採用が目的です。しかし民間企業における発注先選定ですから、競合の結果で得られる成果は、自社事業への貢献です。広く社会に公平・公正を確保し示す必要性はありません。

もちろん、バイヤー個人に選定・発注の結果で生まれるメリットの還元など、あってはならない事態です。しかし、自社へのメリットを求めるのであれば、一見公正や公平を装って、競争を演出する取り組みが、調達・購買部門やバイヤーに欠かせません。それでは、コストテーブルによる分析結果を、どのように競合環境整備に活用するのでしょうか。

・サプライヤーの違いをコスト面から理解

同類の製品を作っていても、サプライヤーごとにもっているリソースは異なります。それは、ソフトとハードの両面に及びます。具体的には、原価計算方法や適正利益の考え方といった経営する上で必要となる考え方。将来、企業としてどのように成長を実現するのかといった戦略。また、工場設備や調達力といった違いも、購入するモノやサービスに影響を及ぼします。

そういった違いは、コストテーブルに反映される場合があります。以下のグラフは、サプライヤー3社から購入しているある製品のコストテーブルを、サプライヤーごとに分割し再作成した例です。1つ加えると、コストテーブルをエクセルに代表される表計算ソフトで作成する意義は、こういった目的に応じた加工や再作成が容易に行える点です。


<クリックすると別画面で表示します>

購入履歴全体を一覧するとばらつきが多い印象です。しかし、サプライヤーごとに表示すると、購入実績の集中度合いも異なっており、サプライヤーの優位性によって生じる特徴によって発注を行っている可能性がうかがえます。こういったサプライヤーもつ違いを明らかにするのも、コストテーブル分析の成果です。

・サプライヤーの得手不得手はないか?

「サプライヤーの違い」とは、サプライヤーごとに異なる得手不得手です。これは、バイヤーの知識として、どんなバイヤーでも理解しているはずです。しかし、得手不得手や特徴を、わかりやすく説明するのは意外に難しいですね。でも、コストテーブルの分析結果によって…とすれば、わかりやすく表現できるのです。

・得意不得意を理解して競合する/しないを決定

サプライヤーの立場で考えてみます。得手不得手を理解すれば、見積依頼する案件によって、どのサプライヤーが発注先として最適なのかが、競合せずに見積書を見なくてもある程度想像できるはずです。その見通しが実現される可能性が高ければ、あえて競合しない=事務処理の軽減といった選択も可能です。

そしてこんな状況も想像できます。現在の市場環境からは想像しにくいかもしれません。需要が不足している局面では、サプライヤーの営業パーソンが「仕事ありませんか?」なんて言ってくる場面がありますよね。バイヤーの皆さんは忙しいでしょうから、そういった訪問は面倒くさいと思っていませんか?捉えようによっては、新たな基軸を打ち出すチャンスです。

そんなときこそコストテーブルをサプライヤーへ見せて、こんな風に話をしたらいかがでしょうか?

「御社の競合先は、この部分(容量とか大きさとか重さとかキーファクター)が得意なんだよね。この部分の競争力が弱いんだけど、なにか理由ある?」

このように伝えても、なにも変わらないかもしれません。しかし、相手が本当に困っていたら、コストテーブルと投げかけがサプライヤー側で新たな対応のきっかけになるのです。

・競合の源泉は「変化」

調達・購買が行う「競合」とは、これまでの実績や経験と、それに基づいたバイヤー企業とサプライヤーの認識に「変化」を来す取り組みです。基本的にすべての企業は競争環境にありますが、できれば競争はしたくないのが本音です。その上で、他人の仕事は欲しい、でも自分の仕事は守りたいと思っているのが一般的な営業パーソンです。維持したいと考えている部分ではなく、自分のテリトリーを維持して、現状を変えたいと思う心をつつくために、コストテーブルの分析結果を活用します。サプライヤーにとって「苦手」部分を克服するきっかけを提供するのです。

(つづく)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい