今どきのサプライヤー訪問を考える(牧野直哉)

前回は、工場訪問をサプライヤーへ申し入れる方法論をお伝えしました。よほどかたくなな理由がない限り、スケジュール調整の上、日程が決定するはずです。もし「工場は見せない」といった反応があった場合、理由を質問します。工場を改修していたり、自分たちの発注内容に関係する部分のみでよいと言ってみたりして、工場訪問を実現にこぎ着けます。もし、そういった譲歩をおこなってなお、工場の訪問が断られる場合、別に根源的な理由があるはずです。そして根源的な理由は、将来的なビジネスにもマイナス影響である可能性が高くなります。したがって、工場訪問依頼の断りは、将来的な取引関係に大きな影響をおよぼすと伝え、新たなサプライヤーの採用を視野に入れたアクションへとつなげなければなりません。

今回は、サプライヤーから受け入れる旨の回答があった前提で話を進めます。

(2)サプライヤーの工場を訪問前に学ぶ
サプライヤーの工場を訪問し、バイヤーとして何らかの爪痕を残すには、事前の準備が極めて重要です。そして準備は、できるだけサプライヤーに悟られずにおこないます。これは、相手に普通のバイヤーがやってくると思わせるためです。一般的にバイヤーは、サプライヤーの工場を知らないから訪問するのです。もちろん、すべてを事前に掌握するのは難しいでしょう。しかし、事前準備にはあまりある資料が、バイヤー企業内にも、広く公開されている情報にもあるはずです。

①取引先調査票
これは一読でかまいません。重要なのは作成日です。記載内容と実態に違いがあれば、修正します。

②直近の納期順守率データ
できれば、2つのデータを準備します。1つめは、過去半年の納期順守率データ。2つめは過去3年間のやはり納期順守率データです。まず、過去3年のデータを見て、改善傾向か、悪化傾向か、それとも維持されているかを確認します。バイヤー企業の要求内容と対比して劣っている状態であれば、訪問前「事前質問の送付」といった形で指摘しましょう。当日に何らかの説明をお願いするのです。

もう1つは、過去半年間に順守できなかった納期があれば、その原因と対策について質問します。内容によっては、原因がバイヤー企業側にあるかもしれません。その場合は、質問内容について事前に社内確認をおこないます。バイヤー企業側に問題があった場合は、サプライヤーにおわびを申し上げる絶好の機会でもあります。

③直近の良品率データ
準備するデータも、活用法も②と同じです。②、③で重要なのは、バイヤーとしてサプライヤーの基本的な成果には目を光らせていますよとサプライヤーへの印象づけです。この2つをおこなうだけでも、表敬訪問以上の価値を見いだせるはずです。

サプライヤーから、原因や再発防止の説明があれば、その内容を経過報告する、もし、バイヤー企業側に落ち度があれば、社内の対応について説明して、バイヤーとしての信頼感獲得のきっかけになるはずです。

④会社案内(冊子かWebページ)
この資料には、大きく3つチェックポイントがあります。1つは、冊子でもインターネットのホームページでも、取引先調査票との整合確認です。2つめは、サプライヤーのリソースの確認。人員構成はどうなっているのか。購入品の生産に必要なリソースの持続可能性は担保されているか。特定の従業員しか対応できない工程があって、年齢が高く、後継者もいない場合は、それ自体も問題です。しかし、もっと大きな問題は、そういった状態を放置している経営者の姿勢です。

またリソースでは、サプライヤーの資産である設備も確認します。例えば、サプライヤーの会社案内にある設備一覧から、バイヤー企業の発注品の生産に必要な設備を抜き出して、稼働状況やメンテナンス状況を確認します。「メンテナンス状況」とは、設備周囲の整理整頓と清掃状況に加えて「この設備のメンテはどうしているんですか?」と質問すればOKです。

また事前に調査して、名前を見てもイメージできない設備があれば、インターネットの検索で、どんな設備なのかは理解しておきます。設備の説明を読み、画像や動画を参照すれば、事前にイメージが可能です。

⑤Googleマップのコピー
これは工場全体をA4白黒で印刷すればOKです。どんなレイアウトなのかをメモするには、便利です。工場建屋を上からみた写真があれば、レイアウトの実感も増すはずです。

⑥サプライヤー名、社長名のネット検索
規模の小さな企業ほど、検索をしてもヒットする可能性が低くなります。しかし、規模の小さな企業であっても、その地域では「地元の名士」である可能性もあります。地域のイベントに貢献している場合、サプライヤー訪問時に「(イベント名)にも貢献されているのですね。と、話をしてみましょう。イベントの内容ではなく、そういった情報も入手しているバイヤーなんだ、と相手に印象づけるのです。

ここまでの準備を、2~3時間を費やしておこないます。データの準備は、もともと社内にあれば時間はかかりません。重要なのは、短い時間であっても、資料を準備する点です。そうすれば、サプライヤー訪問の往路で、資料の確認が可能です。

(3)発生費用の見積と効果の想定
(2)の準備と並行して、交通手段を確保し、発生費用を掌握します。今は、インターネットで手軽に検索できるので便利ですね。そして予約が必要な場合は、おこないます。繁忙期でなくとも、混雑は時間帯、曜日、日程で存在します。直前になって慌てないためにも予定が決まったら、すぐに手配します。

この段階で、費用対効果の見極めは難しいでしょう。しかし、費用発生額を掌握しておけば、元を取らねばとモチベーションが高まりませんか?

(つづく)

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