【最終回】今どきのサプライヤー訪問を考える(牧野直哉)

今回で最終回です。先週まで、サプライヤーを訪問する前のアレンジと、実際に訪問してサプライヤーでどのような立ち振る舞いを行うのかについて述べてきました。今回は、サプライヤーを訪問した翌日以降のアクションについてです。

●工場訪問後のアクション

(1)適切なお礼の方法

工場訪問では、いつも会って話をする営業パーソン以外のさまざまな担当者や管理者と名刺交換を行ったはずです。この連載の冒頭に、工場訪問を行う意義の1つとして、サプライヤーの営業部門以外の担当者と行う名刺交換をあげました。名刺交換の意義を「直接連絡を取っていい」とすると、お礼の方法にも工夫が必要です。

いつも担当している営業パーソンにだけメールするのではなく、名刺交換した方すべてに、お礼の気持ちをメールで伝えます。ただし注意すべきは、バイヤー企業への納入に直接関係している人にこそ、丁重なお礼の気持ちを伝え、バイヤーとしての自分を売り込むべきです。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、あいさつするだけの工場の管理者は、一般的な感謝の意を示す内容でいいでしょう。しかし各部門の担当者は、自分の訪問に際して時間を割いてもらったお礼と共に、次の2点は必ず伝えます。

①非常に重要なサプライヤーであること
②中でも重要なセクションを担っていること

この2点は必ず相手に伝えましょう。お礼と共に、訪問時に聞いた内容、あるいはその担当者の発言や行動で感銘したエピソードを添えてメールを送れば、それだけその他大勢のバイヤーとあなたの差別化につながります。数多い顧客の訪問の中、できるだけあなた自身がサプライヤー担当者の印象に残るための取り組みです。

少しでも印象に残っていれば、後々連絡を取る場合に「あーあの人か」と連絡と記憶がつながって、初対面ではない分のメリットを享受できるはずです。

(2)工場訪問時残した「宿題」のフォロー

宿題のフォローは、訪問した翌日に連絡をするときは「昨日、こういった内容を双方で今後解決すると確認しました」といった内容で連絡します。打ち合わせ内容を何らかの形に残す目的です。

従来の契約内容を見直すとか、価格をプラスするにしろマイナスするにしろ変更する場合は、議事録を作成しますね。特にそういった内容がない場合はどうでしょう。工場を訪問した、そして現場を見学した・確認したといった事実だけがその日の成果ではありません。どんな話をして、今後の方向性を示唆するような発言や合意がなかったのかどうか。将来的なサプライヤーとのコミュニケーションに影響を与えるはずです。バイヤー企業に有利に働くかもしれないネタは記録に残すべきです。

具体的な宿題に関しては、どれくらいのタイムスケールで解決するつもりか、回答するつもりなのかを、まず期限を設定します。バイヤー企業を代表してサプライヤーを訪問し、発言を行っているはずです。サプライヤーの担当者から、バイヤーとして信頼を得るためには、「有言実行」の姿勢が欠かせません。せっかくサプライヤーを訪問した機会の発言、提示された問題に関して、必ず解決する意思を明確に示しましょう。

(3)次の訪問者に対してメッセージを残す

ここまで述べた内容について、簡潔に報告書をまとめます。例えば初めて訪問するサプライヤーであれば、事前の調査内容やバイヤー企業としての期待に対して、実際確認してみるとどうだったのかを、前提条件や想定条件に対して実際はどうだったのかといった形で、実際に見たこと聞いたことを形に残します。

企業によっては、出張報告として体裁が決められ、報告書の提出が義務になっている企業もあるでしょう。そう言った義務がない会社であったとしても、見たこと聞いたことについて事前の想定と同じだったのか、より良かった・期待以上だったのか、あるいは悪かった・期待以下だったのかについては明確に記載します。

この報告は、担当者が変わったとしても次に訪問する人へ、訪問先をチェックするポイントとその結果を明らかにしています。次に訪問するときに「あー前回はこうでしたね」とコメントが残せれば、サプライヤー側で経緯を理解している担当者はバイヤー企業がしっかり引き継ぎを行っていると認識するでしょう。

作成した報告書は、社内の関連部門に対してサプライヤーの現状を伝える意味でも活用価値の高い資料です。事前の想定や期待よりもサプライヤーのレベルが低かった場合、報告書を起点として今後の対応を社内の関連部門と検討できます。報告書で重要なポイントは次の3点です。サプライヤーを訪問した結果で、

①実績と同じ発注をこれからも継続したい
②発注を増加させたい
③発注を減少させたい

この①~③の根拠が、サプライヤー訪問で情報として入手できていれば、訪問に費やした時間の価値は十分にあります。現状維持であれば、訪問が終了してからも大きなアクションは必要ないかもしれません。発注を増加させるのも、そのチャンスを虎視眈々と待つとか、事態の推移を見守るといった姿勢で対応する場合もあるでしょう。1番の問題は、バイヤーが発注を減少させたい」と報告した場合です。

バイヤーとしては、ただ発注量を減少させるのではなく、代替え発注先を準備しなければ「発注量減少」が非常に無責任な発言になります。品質や納期管理の面で非常にリスクが高い場合、「発注量減少させたい」意思を前倒しで社内に周知してもいいでしょう。評価を下したからには、バイヤーとして調達購買部門として今後どうするのか、非常に重い課題を見いだした訪問であり、訪問後のアクションが問われます。

サプライヤー訪問、工場訪問、いずれの機会もサプライヤーに対する発注戦略を明確にして、その実践過程において訪問の意義を明確にしましょう。訪問後も確認内容を生かしてより自社の業績拡大につなげる戦略的な取り組みが必要です。ただ漠然と「相手を理解する」のではなく、なぜ相手を理解する必要があるのかについて明確にすると、その後の取り組みに対する意義を見いだししやすくなります。ぜひサプライヤーの訪問機会の効果最大化を目指してください。

(終わり)

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