調達・購買担当者の意識改革~パート20「コストドライバー分析」(坂口孝則)

・見積書をただただ値下げ交渉するだけではなく

解説:見積り価格を分析する手段として、「コストドライバー分析」と「コスト構造分析」があります。「コストドライバー分析」は、価格に決定的な要素(コストドライバー)を見つけて、それと価格との相関から適切な価格を導いてく分析のことです。コスト構造分析は、原価(コスト)要素を一つひとつ積み上げていくものです。材料費、労務コスト、設備加工費、金型費、経費・利益を計算して、それらを合算し同じく適切な価格を導きます。ここではまず「コストドライバー分析」を取り上げます。

意識改革のために:これは自著「調達・購買の教科書」でも書いた内容となります。コストドライバー分析を考えるとき、私は例としてロープの話をします。1メートルのロープ、2メートルのロープ、3メートルのロープを調達したことがあれば、たとえば、2.5メートルのロープの価格を類推できます。あるいは予想できるはずです。この場合は、「長さ」がコストドライバーになるからです。あるいは、重さ、面積、体積、時間……など、単一の要素で価格を推し量ることのできる調達品には、このコストドライバー分析が適しています。

そこで、今回もみなさまにエクセルファイルをお渡しします。
http://www.future-procurement.com/costdriver.xlsx

ごちゃごちゃしたファイルです。これをご覧いただくとお分かりのとおり、価格とコストドライバーの関係を見るものになっています。このファイルの説明をする前に、まずはコストドライバー分析の手順をお伝えします。その後に、コストドライバーを簡易化するものとして、当ファイルの説明に移ります。

・コストドライバー分析の手順

まずは、コストドライバー分析では
①コストドライバーを抽出
②グラフにプロットし、傾向線を引く
③差異を確認
といった手順になります。

これまでの調達品を調べて、価格とコストドライバーを抽出していきます。抽出するコストドライバーは、まずみなさんが「コストドライバーではないか」と思うものでかまいません。あとで、その正否については説明します。
そして、そのデータができたら、エクセル上でプロットしてみましょう。下の図はサンプルなので、横軸は「g」と思っていただいても「kg」と思っていただいても構いません。縦軸も同様に「円」でも「千円」でも、なんと思っていただいても大丈夫です。なんいせよ、それぞれのコストドライバー数値と価格の相関を取ります。

エクセルを使っているのであれば、そのエクセル図の点上から、「近似曲線の追加」→「線形近似」と選択していき、「グラフに数式を表示する」「グラフにR-2乗値を表示する」にチェックしてください。

すると、グラフに数式と、R2と表示された値が登場します。この数式の意味は、y(価格)は、x(コストドライバー)の6倍に22を足したものですよ、ということです。たとえば、コストドライバーの値が10の調達品を買うときには、10×6+22=82円程度が適切ということになります。

このチェックに、さきほどチェックした「グラフにR-2乗値を表示する」が使えます。これは、統計的な意味では、決定係数といって、相関を自乗したものです。厳密な解説ではないものの、相関とはこの二つのデータの親和性・この二つのデータを使うことの正しらしさを示します。そして、相関はマイナス1から、プラス1までの範囲をとります。それを自乗するわけだから、直感的にも、この決定係数が1に近いほど、「使える」コストドライバー分析となるのです。

相関が0.9くらいあれば、その自乗だから決定係数は0.8くらいになります。これくらい値が高ければ、コストドライバーとして使用可能です。

・コストドライバー分析シートについて

では次に、コストドライバー分析シートに移ります( http://www.future-procurement.com/costdriver.xlsx )。まず、「1.「製品情報入力」黄色箇所に分析する製品と、それぞれのコストドライバー要素を入力してください(できれば分析対象は20サンプル以上)」とありますように、黄色の箇所に入力してください。

そうしますと、「2.「コストドライバー線結果」が表示されます。パソコンの「F2」キーなどを押し、オレンジ箇所の入力範囲、ならびにグラフのデータ範囲を変更してください」とのとおり、結果がオレンジ箇所に出力されます。デフォルト(初期段階)ではデータを5つしか選択しておりませんので、選択しなおしてください。

そして、「3.決定係数が0.5以上になるようにコストドライバーを修正します」にあるとおり、芳しくない結果の場合は、コストドライバーを変更するなりして再トライしてみてください。

そうしますと、右下部にある「コストドライバー線から見たあるべき見積価格」に、それぞれのコストドライバーを式に当てはめた、あるべき「見積価格」が表示されます。

・価格予想についての注意点

では最後に一つだけ注意点を。それは、価格予想についてです。下の図をご覧ください。

ここに「内側」と「外側」という表現をしています。これは文字通り、データ範囲の「内側」と「外側」を表現したものです。

何が注意点か。それは内側については予想できるものの、外側についての予想はできるだけ避ける、ということです。わかりにくいですか? つまり、コストドライバーとして、2,3,5,6,8があり、それらコストドライバーと価格を分析していたとします。そのとき、たとえば、コストドライバーが4のとき、7のときの価格を予想するのは大丈夫です。しかし、コストドライバーが1や10のときの価格を予想するのは危険だという意味です。

直感的にいえば、分析範囲内のコストドライバー値であれば安全に予想できるものの、範囲外のコストドライバー値は、実績がないためわからないのです。もし、外側も予想したい場合は、傾向線ひくときに、データ数を増やしておくしかありません。ただ逆にいえば、データを備蓄することで、どんどん価格予想範囲が広がっていきます。

このようにコストドライバー分析をして、高いものを高いと理解しても支出改善は1円も進みません。あとは、異常値(異常コスト、異常価格)であれば、あとはサプライヤと交渉するなり、代替品を考えるなり……施策を重ねます。もちろん、すべての分析は完璧ではありませんから、あまりサプライヤに無理強いすることはできません。「仮説ではあるものの、特定製品の価格が高いのではないか」と低姿勢が基本です。しかしそれでも何の根拠もないコスト削減交渉よりは100倍マシでしょう。

コスト削減に絶対的な法則が無いなんてことは、調達・購買担当者であれば理解しているはずです。ただし、優秀な調達・購買担当者はたしかに存在します。その優秀さとは、おそらく、引き出しの多さでしょう。このコストドライバー分析もみなさんの一つの引き出し、一つの武器として活用いただければ幸いです。

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