バイヤー現場論(牧野直哉)
13.注文書を発行するとき
サプライヤーの選定が終了したら、注文書を作成して、サプライヤーに発行します。このプロセスは、社内の承認権限の問題や、発行までのプロセスが、各社によって大きく異なる部分でもあります。また、注文書を発行して終了ではなく、このプロセスは、注文書によって示されるバイヤー企業の意志が、サプライヤにしっかり届いているのか、サプライヤーが注文内容を理解したかどうか確認する方法を学びます。
①注文内容の明確化
注文書を発行する場合、大前提として、バイヤー企業視点で注文書の内容から不明確さを徹底的に排除します。見積書を受領したとき、そして見積依頼書の作成するときに、時間や手間をかけてさまざまな確認をおこなってきたはずです。その内容を注文書、あるいは注文内容を示す仕様書や図面にすべて表現できているかどうかを確認します。
しかし、こんなケースも想定されるでしょう。注文内容にはまだ確定していない部分がある、内容を構成する一部の材料か部品が長納期品であり、手配期限が迫っている。現在検討中の内容がどのような結果に至っても、長納期品は必要となる、こういった場合です。この場合、どう対応すれば良いでしょうか。
長納期品のみ注文書を発行する方法が、もっとも注文範囲がすっきり確定する方法です。しかし一部の内容が不確定のまま、手配するケースも存在するはずです。本来あってはならない手配ですが、実務的には十分想定内です。こういった注文書発行に必要な前作業が不十分の場合は、不確定な点を明確にして、注文書を発行します。注文書の内容で、どこが決まっていないのかを明確にします。このように書くと、決まっていない部分があるのに、注文書発行に必要な価格が決められるのかとの疑念が湧きます。そしてサプライイヤーからこう言われます。「未確定部分がどのような結果に至っても、価格は同じです」。こういった発言は、注文書の発行を早めたいバイヤーには、ありがたい発言です。しかし、手放しでそういった言葉をうのみにするのではなく、どういった結論が想定されるのか。どういった点で確定できないのかを、理解した上で注文書を発行します。また、いつまでに決定するのか。決定にはバイヤー企業内の作業だけで良いのか、それともサプライヤーのサポートが必要なのか。こういった点も含めて確認し、最終的な注文内容の確定までのプロセス管理をおこないます。未確定部分をそのままにして、後に納期的なトラブルを発生させないためにも、最終的かつ正しい内容の注文書発行まで、各日にフォローします。
②注文書の発行に必要な社内条件を確認する
注文書の内容が明確になったら、実際に発行プロセスへと移行します。注文書の発行は、企業ごとにルールが設定されているはずです。企業における購入は、個人の購入とは異なり、購入決定に必要となる意志決定が分散されています。
購入要求部門の依頼は、ただしく管理者によって承認されているか。購入額によっては、上位役職者の承認を得ているかどうかの確認も必要です。また、調達・購買部門内でも、注文書発行権限が、注文金額によって設定されているはずです。発行する注文内容によって、正しい手順で進められているかを確認します。調達・購買部門では、自分たちが欲しいモノを自由に購入できません。購入に際したルールは、調達・購買部門が率先して順守します。
③社内ルールで注文書が発行できないとき
サプライヤーには注文書を発行したい、あるいは注文する意志を表明したいにもかかわらず、社内関連部門の手続きが完了せずに、注文書が発行できない事態もあるでしょう。こういった場合に備えて、サプライヤーへの内示する方法も、あらかじめ設定しておきます。
内示とは、非公式な通知で、もともとは人事異動で使用される言葉です。なぜ、内示がおこなわれるのか。これは、異動者の準備をうながすといった意味があります。こういった意味や使い方から派生して、バイヤー企業がサプライヤーに対して、発注する意志を伝える手段として活用します。具体的な方法論は、意志を示す購入対象によります。いずれの場合も、サプライヤーの準備が目的です。
(1)量産品を繰り返し購入する場合の「内示」
この場合は、繰り返し購入する量産品の先行手配をうながし、サプライヤー側での生産計画の立案と、その結果である円滑な納入を期待します。納期到来前の一定期間で、正式な注文とし、購入を停止する場合はも、在庫が残らないようにバイヤー企業も購入量を調整して、内示によるサプライヤーへの影響力を保ちます。
(2)購入品を構成する一部が長納期品である場合の「内示」
これは②の場合の、もう一つの対応策です。何らかの要素によって、注文書が発行できない場合に、特定のサプライヤーへ発注する意志を示すための「内示」です。見積書を作成するための検討をおこなって、製作には詳細技術検討が必要な場合に、サプライヤーでの作業を進めるきっかけにも活用できます。
いずれのケースでも「内示」した後、サプライヤー側で何らかの費用が発生したにもかかわらず、最終的に注文書が発行できなかった場合、トラブルとなる可能性があります。内示も、注文書発行に準ずるバイヤー企業の意思表示になります。内示発行に際しては、サプライヤーだけでなく、バイヤー企業の社内関連部門、特に購入要求部門の了解は必ず必要です。購入要求部門に代表される社内関連部門から、内示の発行要請をうけるケースもあるでしょう。その場合は、内示発行の根拠と、万が一内示したサプライヤーに注文書が発行できなかった場合の、内示した後にサプライヤー側で発生した費用処理についても確認します。
(つづく)