バイヤー現場論(牧野直哉)

14.契約を結ぶとき

調達・購買部門で発行する注文書は、その一件一件がすべて契約です。バイヤー企業と、サプライヤーの「当事者」の間で、法的な効果を発生させる約束を結ぶ行為です。この契約の定義から考えると、調達・購買部門で外部の企業と結ぶ「契約」には、実にさまざまな種類があります。ここでは、調達・購買部門における一般的な業務プロセスで頻出な契約について学びます。

①機密保持契約

企業は、みずからが持つ「ノウハウ」によって、競合企業よりも先んじるために事業活動をおこなっています。ノウハウに代表される企業内の情報は、企業内のリソースを活用して生みだされた財産です。そういった重要な企業内の情報を守るために、取引関係がなくとも、見積依頼書を送付する前には「機密保持契約」の締結が不可欠です。バイヤー企業の情報だけなく、顧客から入手した情報の、無用な拡散を防ぐ意味でも、取引の有無にかかわらず、社内の情報を社外の企業に出す場合は、相手先との機密保持契約を締結します。機密保持契約に必要となる内容は次の通りです。

(1)機密を保持する情報の範囲(製品名や事業名で特定)
(2)機密情報のバイヤー企業からサプライヤーへの提供方法
(3)再外注先にも同じ効力を持つ機密保持契約締結の義務
(4)機密情報を示す語句や表記方法の規定
(5)第三者への開示および、情報複製の禁止
(6)再外注先に開示する場合の管理義務の設定
(7)機密情報の使用先の規定
(8)機密情報(複製物を含む)返還の規定
(9)適用除外情報の規定
(10)本契約の有効期間および満了日の規定
(11)準拠法

②取引基本契約

取引基本契約は、次の二つの目的で契約内容を決定し、サプライヤーと締結します。

(1)バイヤー企業として、どんなサプライヤーにも順守して欲しい内容を網羅
(2)繰り返し購入する場合、購入都度に契約するのではなく、すべての購入に同じく締結する内容を網羅

多岐に渡る購入対象すべての購入条件を、取引基本契約で網羅するのは無理があります。取引基本契約の目的は、数多くのサプライヤーとの契約の画一化による対応の標準化です。取引をおこなうすべてのサプライヤーと締結できる内容が求められます。

取引基本契約の内容は、バイヤー企業の持つ「購買力」がそのまま反映されます。サプライヤーにとって取引内容が魅力的であれば、契約内容もバイヤー企業よりの設定が可能です。しかし、購買力に見合わないバイヤー企業寄りの契約内容は、その締結に多大な時間を要する上に、サプライヤーごとに個別の合意を持つ場合もあります。その頻度によっては、取引基本契約の本来の目的をなさない場合もあります。

取引基本契約の内容は、契約内容の妥当性を、バイヤー企業が持つ購買力と整合しなければなりません。あまりに一方的な条件を課さず、それでいて自社の取引上のリスクは減らさなければならないのです。自社のリスク回避と、締結による円滑な取引実行のバランスが取引基本契約には求められます。一般的には、取引基本契約書で、取引内容のすべての規定はできません。したがって、参照書類を合わせて整備して、取引上のリスクを軽減します。代表的な参照書類は、次の通りです。

1)品質保証内容に関する協定書
2)支払条件に関する合意書
3)納入条件に関する要領書

③有効な契約とは

調達・購買部門の日常業務で、契約書をゼロから作成する機会は、少ないかもしれません。しかし、日常的にさまざまな契約をおこなっているのは事実です。ここでは、契約を有効とするための最低限のポイントは三つあります。三つに関連してそれぞれ調達・購買の現場で使用しているツールもお伝えします。

(1)確定可能性(内容がある程度具体的に特定できること)
購入対象を特定する図面や仕様書が該当。したがって「××(案件名)すべて」といった、特定が困難だったり、双方で見解の相違が発生する条件は、契約無効となる可能性がある。
(2)実現可能性(契約締結時に実現可能な内容であること)
QCDその他、購入条件が該当。稼動日ベースで、リードタイムが10日必要な製品を、カレンダーベースの10日前に契約を結ぶのは、実現可能性の観点から契約無効とされる可能性があります。
(3)適法性(公序良俗と強制法規)
下請代金遅延等防止法(下請法と表記)が強制法規に該当するので、下請法に違反している条件を持つ契約は無効。

これら三つの有効な契約に必要となるポイントは、調達・購買部門で一般的なサプライヤーとの売買契約を締結する際、明確にしなければならないポイントばかりです。もし、なんらかの契約書を作成する場合は、最低限(1)~(3)のポイントは網羅しましょう。

<おわり>

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