サプライヤが倒産したときのために(坂口孝則)
*これまで「サプライヤが倒産したときのための法律講座」を書いておりましたが、「もっと教えてほしい」というご要望を受け、図表付きで説明します。
まず、前提ですが、「誰もが生産可能な品目しか作っていない」し、「金型なども譲渡していない」し、「倒産してくれてもかまわない」ようなサプライヤは今回の対象からは外します。それの場合は、倒産したらどうしようと考えることすらないでしょう。
標準品を調達する場合とは違い、材料や金型(あるいは設備)などを渡しているサプライヤの場合、倒産がとくに問題となります。
<クリックすると大きくできます>
まず、サプライヤが倒産したときにやるべきことは、もちろん注文残を調べたり、今後の影響を調べたりすることです。ただ、それ以外にも二つです。上記のとおり、「何をサプライヤに渡しているか確認」そして「渡すの意味の確認」となります。実務的には、材料や金型(あるいは設備)などを取り返さねばなりません。
<クリックすると大きくできます>
ここで、普段は見ることのない、自社とサプライヤとの取引基本契約書(名称はさまざまです)を見てみましょう。そこに、材料や金型(あるいは設備)の所有権について、どう書かれていますか。ここでは金型の契約書例をとりあげました。重要なポイントは、「金型の(譲渡)とは、金型の所有権を移転し、下請事業者の所有物となった金型を使用する」というところと、「金型の(貸与)とは、金型の所有権を留保したまま、金型の利用を許すもので、下請事業者に保管義務がある」というところです。
そこで、さらに問題なのは、「金型の(譲渡)とは、金型の所有権を移転し、下請事業者の所有物となった金型を使用する」となっているケースです。これは材料でも、所有権を移している場合が問題となるのです。
なぜ、問題かというと、文字どおり、所有権があっちにあるからです。倒産したと聞いて、「ブツを引き上げにいくぞ!」といっても、所有権があちらにある以上は手がつけられません。
<クリックすると大きくできます>
所有権とは、「特定のものを自由に使用・収益・処分することのできる権利」です。「えええええ!!だって材料のお金や、金型のお金をまだ支払ってもらっていないよ」というあなた。あきらめましょう。あきらめきれなければ、そういう契約ではなく、(やや考えにくいものの)対価の支払いをもって所有権を移す、あるいは所有権をこちらに有するようにしておきましょう。
しかし、返還請求ができないわけでもありません。契約は自由意思をもった二者(社)間で行われますから、「引きあげるぞ!」と合意させる「承諾書」があれば良いのです。手書きでもよいので、それを持参して、サインをしてもらいましょう。
これは脱法行為ではありません。法律では、こう考えます。あなたの会社が材料を支給したとしますよね。そのときに、数週間後に倒産すると知っていたら支給しますか。しませんよね。そういうときに、あまりに不条理です。だから、法律では、先取特権なる権利を認めています。
<クリックすると大きくできます>
これも、図表にあるとおり、「動産(商品)を売った者は、その商品の代価と利息について、その商品から、他の債権者に優先して弁済を受けることができるという担保権」です。この説明文のなかの、「動産(商品)を売った者」とは、「材料等をサプライヤに支給した(販売した)バイヤー企業」と読み替えてください。そうすると、だいぶスッキリしますよね。「具体的にはその商品の差押を指す」ことです。
さらに、法律は、「仕返し」も認めています。これを「商事留置権」といいます。
<クリックすると大きくできます>
これは、「お金を支払ってもらえない代わり」に、「自分たちもお金を支払わないぞ」という権利です。すでにそのサプライヤから、ブツを納品してもらっているケースでは、自分たちの対価支払を留保し、そのブツを留置する代わりに、「支払ってほしければ、それよりも自分たちの義務をまっとうせよ」と依頼する権利です。
ただし、ブツを返却してしまったり、支払ってしまったあとでは、どうしようもありません。そこだけはご注意ください。
しかし、これらの処理はあくまでも、事故の清掃でしかありません。このように倒産が起きない、起こさない、ことが重要なのは間違いありません。とはいえ、万が一に備え、興味をもつひとの多い分野について説明しました。調達担当者も、このていどはご存知でしたら幸いです。
(了)