決定版!調達購買視点での交渉論(牧野直哉)

<調達購買部門における交渉の基本>

④主交渉者の設定(複数出席の場合)

企業の調達・購買部門で働く、多くの読者の皆様は、サプライヤーとの交渉に自社の複数のメンバーと出席するケースも多いと思います。今回は、自ら担当するサプライヤーとの交渉に、自分以外のメンバーが同席する場合、どのような準備をもって交渉に臨むかを確認します。
ポイントは二つあります。一つは、交渉の席上で、いったい誰が主に話をするかです。複数のメンバーが出席する交渉では、サプライヤー側も複数の出席を想定します。一般的には、職位の一番高い出席者が主に話をします。この場合、サプライヤーを、そして交渉の全容を知る担当者として、どのような準備をおこなうべきでしょうか。

まず、交渉に至る経緯を文書にまとめて、出席する全員に配布・周知します。その上で、担当者としての交渉の見通しも合わせて報告します。これは、担当者よりも大きな権限を持つ上位者が、交渉の席上で合意した場合、それが自社(バイヤー企業)としての意志決定となる場合を想定した対応です。担当者として持っている情報は、すべて提示・共有した上での意志決定をサポートします。

もう一つは、主に話をする人以外の出席者にも、すべての情報を提示し、共有です。出席者すべてが同じ認識の元に、交渉相手であるサプライヤーに、一体感をもって対峙(たいじ)します。

そして、複数のメンバーが同席し、上位役職者がいるにもかかわらず、担当者が主に話をする場合です。これも、交渉に関する一切の情報を同席するメンバーに周知して、理解を求めます。重要な交渉であれば、事前に交渉内容の説明をおこなう場を設けるのも一案です。

複数メンバーが出席する交渉では、交渉内容の認識がメンバー間で統一されているかどうかが重要です。交渉は、発言の一つひとつが、交渉結果に影響をおよぼします。交渉内容を事前周知せず、理解の浅いままで出席し、思いつきの発言が交渉内容に大きな影響を与えます。担当者として、自ら想定した結論とは違う方向へ交渉が進んでしまった。そんな経験を一度でもお持ちのかたは、意外に多いのではないでしょうか。

想定外の発言が、交渉内容に大きな影響をおよぼすのは、自社(バイヤー企業)だけでなく、サプライヤー側も同じです。したがって、交渉の席上でサプライヤー側から複数出席する場合は、誰が主交渉者なのかを見極めると同時に、他の交渉出席者の、交渉内容の理解度合いを確認するのも重要な手法です。もし、交渉内容への理解がない、もしくは浅い場合、自社(バイヤー企業)側に有利な発言を引きだす狙いを持って、より多くの発言を求めてみます。

自社(バイヤー企業)側から複数出席する場合は、全員の理解をコントロールし、同一とするのが最低限の準備です。自社(バイヤー企業)からの想定外の不利な発言を抑止して、これは、自社(バイヤー企業)の身内を確実に身方にします。交渉の席上では、複数出席者間の意志の乱れは弱みになります。逆に、意志統一は強みとなります。

⑤ゴールの設定

自分一人の交渉であっても、複数が出席する交渉であっても、到達するゴールは明確に設定しなければなりません。過去の交渉経緯を踏まえ、到達可能なゴールの設定をおこないます。当然、ゴールに幅を持たせてもOKです。「交渉は、やってみなければわからない」との理由で、ゴールを設定しないのは、ただの「成り行き任せ」になります。

「交渉」をおこなう際に、実行者として持つべき意識は、勝負にこだわるというより、プロセスのコントロールです。プロセス全体をコントロールして、自社(バイヤー企業)に好ましい結論へと導きます。交渉のプロセスでは、時に不利な状況にも追い込まれるでしょう。しかし、ゴールが明確で、不利な度合いが、自社(バイヤー企業)にとって著しい場合は、その場での交渉を保留として、結論を先送りする選択も可能となります。こういった選択には、明確なゴールの設定とともに、冷静な交渉状況の判断も必要です。

交渉の「ゴール」に必要な要素は、次の3点です。

(1)購入条件(価格、品質、仕様充足度合い等)
(2)交渉結果の受け入れ可否
(3)交渉合意後のスケジュール

⑥交渉後の振り返り(反省)

交渉をおこなったら、交渉の席上で交渉相手との次なるアクションを確認すると同時に、交渉プロセス全体をコントロールするとの観点から、次の四つのポイントで、必ず自分でもふり返って、問題点と再発防止の取り組みをおこない、来るべき次なる交渉に備えます。

(1)ゴールの到達度合い確認

これまで述べたとおり、事前に設定した、具体的なゴールの到達度合いを確認します。どの部分が、どれくらい未達成なのかをクリアーにします。未達成を直視するのは、バイヤーだけでなく人にはもっとも難しい取り組みです。しかし、自社(バイヤー企業)を代表しておこなった交渉ですから、パーソナリティ以外の要素も多分に相まって現状があります。ここは、第三者的に冷静な分析をおこないます。

(2)交渉のクローズ/オープン判断

ゴールの到達度合いによって、引き続き交渉するのか、それとも交渉を終える(クローズするのか)を決定します。交渉も費用対効果を踏まえて、これ以上継続しても事態の改善が見こめないといった判断も必要です。不本意な結果で、何も得られない交渉であったかといえば違います。将来的な交渉に、不本意な結果へと至った理由を分析して、次回違った結果を求めれば良いのです。

(3)ゴール未達の場合の原因究明と対策立案

なぜ、ゴールできなかったのか。ゴールできない原因は、自社(バイヤー企業)にあるのか、それともサプライヤーにあるのか。原因を明確にして、自社(バイヤー企業)の取り組みを明らかにして、実行します。サプライヤーに原因がある場合も想定されますが、その場合でもサプライヤーだけ改善するのでなく、自社の主張を改めて文書で申し入れるといった自社(バイヤー企業)のアクションを決めます。

(4)今後のスケジュール決定

これからも交渉を継続する場合は、次なる打ち手の準備に要する時間を踏まえて、次回交渉までの具体的なアクションを計画します。時間的な猶予がある場合は、時の経過を有効に活用した策を検討します。交渉当事者双方に冷静さが必要な場合は、時の経過が効果的です。

(つづく)

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