ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

<7 利益を出すコストダウンと改善手法>

7.調達購買が主導するコスト削減 ~分散発注化

分散発注化は、複数のサプライヤを競わせて、競争心理を活用して、自社(バイヤー企業)側により良い条件を引き出す取り組みです。しかし、競争を効果的に活用するには、分散を実現する競合環境が整っているかどうかが非常に重要です。

分散発注について述べる前に、前回テーマの「集中」と今回テーマの「分散」、どちらが良いのかとの御質問にお答えします。前提条件として、自社(バイヤー企業)から発注する「サプライヤ」を「集中」させるか、それとも「分散」させるかについてです。この二つの手段の良しあしは、自社(バイヤー企業)における調達・購買戦略によって決定されます。購入アイテムを評価する際に使用するQCDとの切り口で分析します。

まずQ:品質。これは、集中でも分散でも、自社(バイヤー企業)の要求内容と、達成する内容に変化はありません。どんなサプライヤーから購入しても、自社(バイヤー企業)の要求内容を満足させなければなりません。ただ、分散発注の場合は、ばらつきによって品質レベルに差が生まれる可能性もあります。また、自社(バイヤー企業)からのサプライヤー監査にも、分散発注により多くの手間が必要です。安定した品質を継続するとの観点で、分散よりも集中=サプライヤーの絶対数がすくない状態にメリットがあります。

続いてC:コスト。これも、分散よりも、集中した方が、量産効果も期待できますし、自社(バイヤー企業)がサプライヤーを管理するコストも分散に比較して少なくすみます。安価なコストを目指すとの観点では、Q:品質と同じく、分散よりも集中=サプライヤーの絶対数がすくない状態にメリットがあります。

最後にD:納期。納期と表現しますと、D:Deliveryの意味を矮小(わいしょう)化しているかもしれません。集中と分散で悩む場合に直面する大きな課題が、緊急事態発生時の「Delivery」リスクです。自然災害や大きな事故が発生した場合、集中して発生しているサプライヤーに被害がおよび、供給が滞る可能性への懸念です。

確かに集中したサプライヤーに発注しますと、発注先が何らかの理由で供給をストップする事態に追い込まれた場合、自社(バイヤー企業)の事業活動には大きな影響をおよぼし、機会損失する可能性も高いでしょう。しかし、そういったリスクに対する回答が、複数社=分散購買かといえるのかどうか。このメルマガを一緒に執筆している、坂口さんとの共著である「大震災のとき!企業の調達・購買部門はこう動いた―これからのほんとうのリスクヘッジ (B&Tブックス)」には、大震災後の対応について、全国のバイヤーからヒアリングをおこなって、次のように書きました。

●シングルソースの思わぬ効用
シングルソースとしていたサプライヤーは、そもそも震災発生時、供給が滞るリスクが高いとされてきました。しかし震災被害によって供給力に大きな被害を受けなかった場合、一社しかない集中した状況によって、サプライヤー側に「復旧したらまず供給を再開する」といった意思決定を促す効果があったようです。このようなケースの実現には、二つの条件をクリアする必要があります。

一つ目は良好な取り引き関係を長期的に継続していること
二つ目は一社購買状態をサプライヤー側も強く認識していること

シングルソースとは、事業形成の一要素を一社に依存することです。通常はリスクと捉えられるこの依存関係が、ビジネスライクな関係よりも震災後に優先度を高まる要因となったわけです。

おこなったヒアリングの中でも、リスクヘッジ目的で2社以上に分散発注していたものの、想定通りには機能せず、かえって1社集中だったサプライヤーからの供給再開が早かったとの声がたくさん寄せられました。

こういった過去の実例から、サプライヤの集中と分散は、発注可能な複数のサプライヤーによる、競合の結果によって、発注先を集中させるのが有効です。その中で生じるリスク、例えば不測事態への供給継続対応は、集中して発注するサプライヤと一緒に解決策を模索して、対応すべきです。

そして集中化にもデメリットがあります。分散状態には、競争原理によって、競争相手よりもよりよい条件を出す力が働きます。これは調達・購買業務上のサプライヤーとの間に生じる「緊張感」です。集中化した状態では、この緊張感の維持が課題です。安定させるべきは、自社(バイヤー企業)にとってより良い購入条件で、黙っていても注文が貰(もら)えるといったサプライヤーの立場ではありません。これは、安定ではなく「安住(あんじゅう)」です。そのような安住をさせないためにも、分散購買にいつでも移行できる状態が、集中状態にも必要です。

☆「分散化」のポイント

「分散化」には、複数のサプライヤーの存在が不可欠です。最低二社以上の競争によって、もっとも好ましい条件を提示したサプライヤを発注先として選定します。「分散化」を効果的に活用するには、バイヤーが意志をもって、コントロールが可能な分散を実現させなければなりません。「分散化」が実現可能な環境整備には大きく分けて次の二つのケースが存在します。

(1)購入先候補が多数あるケース

ポイント:見積もり依頼に際して購入条件をわかりやすく作成してサプライヤに提示する

多くの仕事を受注したいサプライヤに対して平等に条件を提示します。また、過去に取り引き関係がなくても容易に理解できる見積もり依頼をおこなうことが大事です。過去に一緒に仕事をしていた蓄積を、新しいサプライヤーへの参入障壁化を防止するために、自社(バイヤー企業)の発注条件を暗黙知とせず、形式知にします。

これで一度に比較対象とできるサプライヤの数は増やせます。サプライヤの新規参入を積極的におこない、競合環境を効果的に維持します。サプライヤの新規参入では、最終的に発注を決定する前に、実際に購入条件を満足させるリソースかどうかを必ず確認することも、もうひとつの重要なポイントです。

(2)対応できるサプライヤが少ないケース

ポイント:競争する環境整備となる、複数の発注先候補サプライヤの確保に注力

分散化したくても、対応できるサプライヤが少数しか存在しないケースです。

製造業では、モジュール化とよばれるさまざまな要素をサプライヤ側で組み合わせたうえで、サプライヤへ納入を求めるケースが増えています。これは、多くの購入品を買う手間を含めてサプライヤへ依頼できるメリットがある反面、対応できるサプライヤの社数は少なくなる傾向があります。この場合は、まとまった発注する範囲を細分化(分散)して、発注可能なサプライヤを広げる検討もおこないます。

☆分散化の活用方法

あらかじめ競合見積もりを取得してサプライヤーを決定すれば、分散発注をしなくても、分散状態と同様の効果を生むのではないかとの御指摘もあるでしょう。筆者は、競合見積もりを有効に機能させる意味でも、集中発注が一定期間経過した後には、分散化もしくはサプライヤーの変更といった対応が必要と考えます。これは、競合見積もりを形骸(けいがい)化させない証明となります。

分散するためには、発注可能な複数サプライヤーとの関係を維持しなければなりません。もちろん、実際に発注しなくても、関係が継続できるサプライヤーもいるでしょう。しかし、良好なサプライヤーとの関係構築には、なにより「注文書」が効果的です。したがって、サプライヤーはできるだけ集中化を基本戦略としながらも、いつでも分散発注へと移行できる調達環境の整備がもっとも重要といえるのです。

(つづく)

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