コメンテーターなる仕事論(坂口孝則)

はじめて私がテレビに出演すると決まったとき。当時は30歳で、出演者のなかでもっとも若かったと記憶します。台本通りに読めばいいと勘違いしていると、「なんでも訊かれたら答えてください」と指示がありました。マジかよ。MCは秒単位でアイコンタクトしてきます。誰かが話しているときに、次に振るひとを探すのです。あたって答えられなければ次回からは呼ばれません。はじめのころは悪戦苦闘で何を答えたか覚えていません。

先輩諸氏に教えを請い三つを得ました。まず「①振られたら2秒以内に答えろ」。アタマに「はい、それはですね」といえば2秒です。そのあいだにコメントを考えます。そして「②関東は15秒、関西は30秒以内にまとめろ」。だらだらとコメントする時間はありません。話しはじめるとカメラ横のADさんが指でカウントしますからその時間以内にまとます。これは訓練が必要ですし、なによりOJTで習得するしかありません。「③それでも間違ってデタラメなことをいってしまったら、最後に『~という説があります』といえ」。

苦笑した③を使わずになんとか毎回こなしました。すると何の間違いか、そのうち情報番組やワイドショーのコメンテーターを務めはじめました。殺人事件から芸能人・動物ネタまで専門外まで対応せねばなりません。かつ視聴者にわかりやすく語らねばなりません。

そこで私はわかりやすい速度を模索しました。テレビのメイン視聴者は主婦です。シニアもたくさんいます。私は有名コメンテーターの動画を集めて、動画を切り貼りしながら、そのひとだけが話している10分を書き写しました。それを割り算し、15秒あたり(関東基準)何字なのかを測定したのですね。これを私はコメンテーター指数と名づけました。

普通に語ると15秒あたり120字になります。これを基準としていただくと、池上彰さんは106字で、丁寧な達人の技を見ます。安定感のある齋藤孝さんは109字です。テリー伊藤さんは111字でした。テレビ慣れしているなあ。私が中学から愛読している宮崎哲弥さんは87字。私の共著者である飯田泰之さんの解説は聞きやすいなと思っていたところ99字でした。ところで私は計測すると130字だったので、まだまだのようです。

こうやって何人も分析していくと、単に早口なだけではなく、コメントの一文と一文の間隔が短い場合は文字数=情報量が増えます。知人でもあり番組をご一緒する荻上チキさんは146字でダントツでした。もちろん文字数が多くても、「トーキングブルース」の古舘伊知郎さんのように滑舌が良ければ悪印象はなく、むしろ好印象すら与えます。私は調べつつ学びつつ途上にいます。

ところで、コメンテーターをしていて習得した技があります。それは、いきなり何かを訊かれたら、無理やり現代の流行とくっつけて、大げさな問題にでっちあげることです。たとえば、少年がウンコを踏んだ、という事件でコメントを求められたとします。すると、「ほんとうにヒトゴトではありませんよね。歩いているとき、スマホばかり見ているとウンコ踏みリスクが高まり、これは現代人がもっとも注目すべき課題ですよ」といえばそれっぽいでしょう。すくなくとも、そういえば大丈夫という説があります。

<了>

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい