決定版!調達購買視点での交渉論(牧野直哉)

<調達購買部門における交渉の基本>

シチュエーション別 交渉準備と注意ポイント

今回から、これまでに述べた、交渉実践のためのノウハウを活用した、8つのシチュエーション別の交渉対応方法を御紹介します。ここで、読者の皆様への提案です。「こういった状況ではどうするのか」といった具体的なケースをくだされば、具体的な会社名等を出さずに、このメルマガ上で公開する前提で、交渉戦略立案を先着3名のみお手伝いします。makinonaoya@future-procurement.com(@を半角に変えてください)までメールをください。登場する企業(仮名でOK)や、取り引き状況の詳細を御連絡ください。

(1)スポット(1回限り)の交渉

①想定シチュエーション

組み立てメーカA社は、構成部品Bを、サプライヤC社と長期契約を締結し、A社の標準仕様としてC社製品を組み込んで販売していました。ところが重要顧客であるD社から、今回案件に限ってのみ、E社の製品を使用した製品を納入して欲しいと打診を受け、A社は了承しE社の製品を使用して生産することになりました。A社はE社から初めて製品を購入することになりました。

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この状況を分析すると、次のポイントが読みとれます。

・A社はE社をよく知らない
・企業概要や、戦略・方針、QCDレベル、価格競争力といった内容が理解できていない状態
・客先からの要求(強制?条件?)

こういった営業的に客先からの要求を受け入れざるをえない状況は、選択肢が限定されてしまうために調達・購買部門は不利な交渉を強いられる可能性が高くなります。上の図にもあるとおり、せっかく標準化を進め自社(バイヤー企業)として最適化が図られていた中での顧客要求への対応です。こういった状況の下では、次の通り短期と中長期に分けた対応を検討します。

【短期的対応】

・従来購入していなかったE社を評価し、交渉準備を進める

こういった条件で、かつE社と交渉を要する場合、E社の状況を理解せずにおこなう交渉は、大きなリスクがともないます。したがって、新規サプライヤーの開拓時と同じ手順で、E社に関する情報を収集し、自社(バイヤー企業)にとってのE社の強み/弱みを理解します。

・D社の要求を受け入れる際の条件を確認し、E社への交渉可能性を探る

今回のケースは、せっかく標準化されている製品のサプライチェーンを崩し、別のサプライチェーンを意味します。また、顧客からの指定は、調達・購買部門におけるもっとも大きな力である発注先選定時に発揮する力(ちから)を活用できません。調達・購買部門がこういった状況を拒否できない場合は、なぜこのような顧客からの提示条件を受け入れるに至ったか、その背景を確認します。このケースでは、サプライヤーを1社新規に採用するのと同じ手間と費用が発生します。費用対効果の確認は、調達・購買部門から営業部門にできるはずですね。費用対効果だけでなく、顧客D社とE社の関係も確認します。資本や業務提携といった関係があれば、A社の採用すべき手段は限定され、特に調達・購買部門ではE社の取り扱いに苦慮する事態も考えられます。

もし、E社採用が顧客であるD社の要求であれば、発生する費用をD社に負担させられないかを営業部門に申し入れる、こういった選択肢も調達・購買部門にあると、忘れずにおいてください。選定される大前提での価格交渉は、ほぼ自社(バイヤー企業)の要求が受け入れられないとの最悪の事態を想定しておこないます。

・E社は「誰の身方」かを、コミュニケーションを通じて判断する

E社から購入しなければならなくなった時点で、調達・購買部門ではE社とコンタクトし、コミュニケーションを開始します。さて、E社は、どんなスタンスでA社に対応するのでしょうか。A社の顧客であるD社の衣を借り、強気なスタンスで攻めてくるのか。それとも、A社を顧客として扱うのか。

こういったケースでは、交渉する相手をサプライヤに限定せずに検討します。社内の営業部門の決定を覆すのでなく、背景の確認です。E社採用の理由・根拠の明確化が、E社との交渉にも大きな影響をおよぼします。その上で、サプライヤだけでなく、社内営業部門や、その先の顧客まで視野に入れて、A社の最適な対応を模索します。

【中長期的対応】

・C社製品の対抗馬として、E社製品の採用可能性を模索する
・顧客ニーズの度合から、A社のラインナップへの影響を判断する

短期的対応内容によっては、上記二点の中長期対応の可能性もあります。短期的対応が、自社(バイヤー企業)A社にとって、著しく不利でなかった場合は、顧客の指定を逆手にとって、自社にメリットがある場合は、C社の競合メーカーとしてE社を取り扱います。

(つづく)

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