連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2028年②>

「2028年 世界人口80億人を突破」
そして水が新たな資源となり、ビジネスとなる

P・Politics(政治):国家は食料を自国民に与えることから、自国民に水を飲ませることに関心が移っていく。
E・Economy(経済):世界で水を扱うビジネスが勃興する。
S・Society(社会):人口は80億人を突破すると同時に、水資源が貴重になってくる。
T・Technology(技術):水精製機器の小型化。

2028年ごろには世界人口が80億人を突破する。そのとき、食料に代わって、事態が深刻化するのは水だ。現在でも将来でも、世界人口の大半が安全な水にアクセスできないといわれている。
水の精製、濾過技術。また、漏水を防ぐもの、あるいは節約商品など、ビジネスの観点からはさまざまな展開が考えられる。

・日本人の気づかない水という資源

たとえば、たとえば2008年の映画『007慰めの報酬』では、ジェームス・ボンドが対決する組織は原油ではなく水を利権として世界を制覇しようとしていた。しかし、水といわれても日本ではピンとこないかもしれない。

水資源の豊かな日本にいると、水ビジネスの隆興について、あまり実感をもてないからだ。水があまりに安全に、そして大量にある私たちにとって、その貴重さすら再認識することはない。

しかし、現在、世界で8億4400万人のひとたちが安全な水にアクセスできない(https://water.org/our-impact/water-crisis/)。さらに、23億人が下水設備を使えない状況にある。毎日、世界各地で女性や女児が2億6600万時間を、水を運ぶ時間に費やしている。

90秒に一人の子どもが水の細菌によって死亡している。そして死亡にいたらずとも、健康被害から経済的な損失が生じており、それは、2600億ドルにもなる。さらには水の確保にかかっていた時間を有効活用できれば、教育の面や生産性向上にも寄与していくだろう。

地球の水97%は塩分濃度が高すぎる。2%は極地にある。水の入手に困っているのは世界の農村部だ。どうすれば彼らに安全な水へのアクセスを可能とするか。

わかりやすいのは、お金はかかるが、安全な水をつくるプラントをつくることだ。カタールでは、三菱商事が海水淡水化の大型設備を導入し、電力と水をともにつくるプラント事業を開始した。

くわえて、水関連プロジェクトに全世界から寄付を募る道もある。のちにスターバックスが買収することになったエトスウォーターは、もともと水不足で困窮する国を見たことからはじまったボトル水メーカーだ。スターバックスの店頭でそのペットボトルを買えば、安全な水を提供するための寄付ができる。

また、大掛かりなプラントではなく、手軽に水を精製する装置ができないか。これは実際にSlingshotという企業がビデオを公開しているので観てもらうと早い(http://www.slingshotdoc.com/)。洗濯機のような機械で、飲水を作り出す。
また、これはすでにアマゾンでも購入できるように、浄水フィルターのLIFESAVERがある。これは、泥水も飲水に変えるものだ。前述のSlingshotに手が届かない地域などは、重宝するかもしれない。

・サプライチェーンの水使用量に注目せざるをえない時代

水ビジネスに注目したいのは、水そのものを作るだけにとどまらないからだ。

企業活動のプロセスにおいて、限られた資源である水を、これからいかに抑えるかが注目されるようになってきた。それは自国内製造分にとどまらない。というのも、日本の工場だけで使用水量が少ないといっても、海外取引先の使用量が多かったら意味がないからだ。

とくに水資源の乏しい国で大量の水を使っていれば、他への影響が避けられない。生産プロセスが大幅に変わらなければ、どこの取引先から調達してもおなじと思うかもしれない。ただ、たとえば、水資源の乏しい国から調達するよりも、豊かな国から調達したほうが、取引先が同じ量の水を使用していたとしてもまだマシだ。もちろん、調達地を変更すると同時に節水に努めればいい。サプライチェーン上の節水に、積極的に取り組めば、企業イメージが向上する。

数年前のレポートではあるものの、「ピークウォーター:日本企業のサプライチェーンに潜むリスク」(2012年KPMGあずさサスティナビリティ)(http://www.kpmg.com/Jp/ja/knowledge/article/research-report/Documents/peak-water-20120403_j.pdf )というきわめて面白い報告書がある。同報告書では、日経225銘柄の企業が、どれほど水を使用しているかを調査している。興味深いのは、自社使用だけではなく、取引先の使用量までも推計している点だ。

それによると、日経225銘柄企業の使用量は190億立方メートルだが、取引先は600億立方メートルにいたるという。つまり水使用量の76%は、取引先が使用していることになる。ということは、前述のとおり自社管理だけではほとんど効果はなく、取引先への節水教育がこれから必要になっていく。

とくに工業製品のセグメントでいえば、取引先の使用量が9割を占めているから、ここの量削減なしには進まない。

たとえばコカ・コーラは新興国への展開に積極的であると知られている。同社はやはり水にたいする取り組みも先鋭的だった。いちはやくNGOと連携しサプライチェーン全体の水使用量削減に努めている。ネスレやペプシコなどの食品関連メーカーも同種の取り組みをおこなっている。

日本メーカーも、ソニーが主要取引先と節水目標をもち、必要におうじて節水支援を行っていく(日経新聞朝刊2016年1月13日)。排水や雨水の利用を推進することで、自社工場では使用量が6割も減った実績がある。

その他、キリンは茶葉生産取引先に水質管理認証資格を取得させることで、適切利用を促す。横浜ゴムも海外取引先に節水指南をおこない、調査結果を取引先選定に活用する。

もともと日本は節水うんぬん以前の話として、漏水率がきわめて低い。先進国のなかでもトップクラスで東京都ではわずか3%しかない。料金徴収率も99.9%となっており、日本の産業と生活を支えている(http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2012pdf/20120904103.pdf)。この技術は輸出できるはずで、日本が世界に貢献できる余地がある。

・悪のビジネス商人がねらう水資源

書籍『地球を「売り物」にする人たち』(ダイヤモンド社)は、やや陰謀論的なきらいがあるものの、地球温暖化をビジネスに利用する動向を紹介していて面白い。温暖化によって氷が解けるのは、その下の原油利権を狙うひとたちにとっては好機ですらある。また保険屋はそこに商機を見出し、雪製造機メーカーは売り込み先を莫大な利益を稼ぎながら販売先を拡大している。

そのなかでもページをかなり割いて書かれているのは、水ビジネスの実態についてだ。二酸化炭素の排出と、地球温暖化がどれだけ関係性をもっているか。専門家ではない私は断言を避ける。ただ、気温と水温の上昇は、海からの蒸発を増やすのは間違いがない。気温の上昇ゆえに湿気が凝結できず、そして水の需要は増える。

「気候変動関連投資家にとって、水は明白な投資対象だった。二酸化炭素の排出は目に見えない。気温は抽象概念でしかない。だが、水が解け、貯水池が空になり、波が押し寄せ、豪雨が降り注ぐというのは、具体的ではっきり捉えられる」(同書157ページ)。また、世界の人口は増え続けるのに、水の供給が細っていくことは、需給のギャップを生み出す。今後40年ていどで、世界人口の50%が水に困るといわれている。皮肉にも”ビジネスチャンス”なのだ。

「世界の水の消費量は1日1人当たり50リットルから100リットルです。ですから不足人口を考えて、それを25億倍してみてください! それだけ必要になるのです。潜在的市場は、と訊くのなら、それがその潜在的市場なの」(同書119ページ)というコメントが印象的だ。なるほど、ヘッジファンドのマネージャーであるマイケル・バーリが注目しただけはある。

・日本の水道技術

日本人は「水と安全はタダだと思っている」と自虐的に語る。しかし、意外と日本は、タダと自虐した水を大切に使ってきた。電気と同じく、水の漏水はどこでも問題だ。配管の途中、マンションでの給水など、いたるところで漏れている。

電気は、その問題をスマートグリッドで解決しようとしている。スマートグリッドとは、送電網をデジタルで制御し、漏電の探知等を行うものだ。それと同じく、水でもあらゆる管に取り付けることで水量を測定しようとしている。

ただ、そもそも必要なのは、そもそも漏れないインフラづくりや、メンテなどの管理体制を構築することだろう。日本の場合はインフラがしっかりしているし、限られた資源をうまく、そして効率的に使う、という手法自体を輸出できる。実際に東京都水道局はミャンマーにたいして水道のノウハウを伝授している。

前述のように悪の商人たちは、地球温暖化に乗じてビジネスを拡大していくかもしれない。ただ、水資源の減少に呻吟する世界で、実は日本の活路はこんなところにあるのかもしれない。

<つづく>

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