ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●社内関連部門とのコラボレーション力 5~品質保証部門

QCD(品質の向上:Quality、低コストの実現:Cost performance、必要な時期に届ける:Delivery Date)の一角を担い、最初に表現される品質。品質保証部門は、自社製品の品質を確保し維持する重要な役割を担っています。コストに注目する調達購買部門とは、品質とコストを両立する重要な課題を共同で解決します。

●購入品の品質をどう確保するか

購入品の品質確保は、従来の受入検査を行って自社への流入を防ぐ管理から、サプライヤーの個々の生産工程で不具合品を後工程に流さない、そして不具合発生の可能性をあらかじめサプライヤーの設計企画段階で抑止する源流管理へと移ってきています。サプライヤーの源流管理を行うためには、サプライヤーの新規採用審査、継続審査の際に、品質管理体制を評価し、事前対策が重要です。

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取引を行っているサプライヤーには、品質保証部門と共同で監査します。年間を通じたスケジュールを設定して、サプライヤーを巡回する体制を構築しなければなりません。品質管理上の問題点を、監査によって明確にし、改善活動を進めます。

●購入品に求められる品質の見極め

では、購入品に対して、なんでもかんでも源流管理の徹底を求めるべきでしょうか。規格で定められた大量生産の標準的な購入品の一つを取り上げて、源流管理と称して、あらゆる購入品に対し、生産プロセスの妥当性や、個々のプロセスにおいて正しい手順で生産が実施されたかどうかの確認が妥当なのかどうか。

購入するものには、それぞれ必要な品質管理レベルがあります。企業によっては、購入品の使用用途によって、その重要度を定義し、品質管理基準へ展開している例もあります。この「重要度」とは、調達購買部門で決められるものではありません。機能面、耐久性、不具合があったり、故障した場合の全体への影響度だったりといった様々な要因で決定されます。

購入品の重要度を決定する仕組みが自社に無い場合で、顧客から購入品に高い品質管理を求められるケースを想定してみます。最初は、対象がすべてのサプライヤーからの購入品になります。しかし、現実的にはすべての購入品に高い管理レベルを求めるのは困難です。例えば、トレーサビリティの確保や、原材料、製造方法や設備の変更点管理を、すべての購入品に同じレベルで求めるのは無理があります。

もし、すべての購入品に高い管理レベルが必要であれば、管理レベルに見合ったコストが発生します。この部分を、調達購買部門から品質保証部門に、伝え、理解して貰わなければなりません。この点での両社の合意がない場合、双方の利害が真っ向から衝突し、その影響はサプライヤーへと及ぶ事態になるのです。

すべての購入品に、高い品質を求めるのは、簡単です。しかし一方で、管理に必要なコストをどのように処理するのか。なんでもかんでも高いレベルを求めるのは、一部に著しい過剰品質をもたらします。調達購買部門は、品質保証部門とのやり取りの中で、品質とコストのバランスを整合させてゆかねばなりません。当然、その中にはサプライヤーも含まれます。一方的に高い要求だけをサプライヤーに要求するのでなく、必要とする品質を3者で見極めます。これは、あるタイミングではとても手間を必要とする調整です。しかし、3者の間でコンセンサスをえられなければ、その影響は確実に購入品に出ます。そのような事態を避けるためにも、3者で議論を尽くし、あるべき妥当性を見いださなければなりません。

●受入検査の意義

源流管理の実践は、バイヤー企業側で行う受入検査の意義と、実施方法にも大きな影響を与えています。サプライヤーの品質管理内容及び体制の確認に労力を費やしているために、受入検査は簡素化もしくは、省略も多くなっています。品質とは、顧客の要求水準を確保する、そして確保した水準を維持が必要です。受入検査は、源流管理を徹底しているなかでも、サプライヤーの品質が維持を確認する重要な意義をもっています。源流管理が機能しているかどうかは、受入管理を実施して初めて確認できるのです。

●トラブル対応時に発揮するバイヤーのバランス感覚

品質トラブルが発生した場合は、一刻も早く原因を排除し、品質を取り戻さなければなりません。一方調達購買部門では、コスト削減が重要視されます。今、主流となっている品質面の源流管理は、サプライヤー側で管理する時間を増大させ、結果的に購入コストへ跳ね返るケースが多くなっています。購入時のコスト面だけを考えれば、マイナス要因となってしまいます。ここで改めて考えてみます。はたして、源流管理による管理時間の増大は、ほんとうにマイナス要因でしょうか。

品質面での大きなトラブルは、その規模によっては会社の経営を揺るがす可能性もあります。品質トラブルを起こさないために、必要なコストの発生はやむを得ません。一方、源流管理の実践による管理時間の増大は、コスト面での競争力を減退させる要因となる可能性を持っています。高い品質の確保・維持と、適正なコストは両立させるべきものです。しかし、同時に二律背反な要素を含んでいます。

品質とコストとは、同時に追求し成立させなければなりません。調達購買部門では、QCDすべてを兼ね備えたサプライヤーからの納入を目指します。もし、コストと品質に迷ったとき、バイヤーが発揮すべきはバランス感覚です。品質もコストも、双方適切に実現を模索できるのは、調達購買部門だけです。品質とコストのバランスは、調達購買部門が中心になって、関係部門に問題意識を投げかけて解決へと導く主導権を発揮しなければならないのです。

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<つづく>

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