連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)

戦略を25のマトリクスにわけて説明しています。

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今回は業務量調査について考えます。

・業務の分解

私たちは調達業務を変える必要があります。少なくともそう感じています。しかしながら調達業務はなかなか変えることができません。なぜでしょうか。

それは現状把握が不足しているからです。そこで、まずは現状を現状のまま見るために自分たちがどのような仕事に何時間(何秒・何分)ぐらい費やしているのか、そして、費やしている時間が付加価値を生んでいるかを見極める必要があります。

しかし、これはかなり絶望的な結果をもたらすものです。というのも、自分たちが一日をかけて費やしている仕事が、まったく付加価値のないものだと思ったら、それはかなりのショックです。

ただ、このプロセスを抜きに新たな業務を考えることはできないのです。そして新たな組織設計を作ることもできないのです。したがって、まずは、ありのままに調達・購買業務の分析・分解が必要です。

これはあくまでも一例だと見てください。ある調達担当者の業務を分解したものです。下の図です。

たとえばこの例では、外注工事を注文している担当者の業務です。この分析の際、「仕様書提示」から「支払」までさまざまなプロセスで業務が分解できました。しかし、問題なのはここで止まってしまうことです。

重要なのは分析をこれ以上進め、さらに行動レベルに分解していくことです。

この事例では「見積依頼」を行動レベルに分解してみました(本来は、「見積依頼」だけではなく、すべての分解を行います)。「見積依頼先入力」あるいは記載というところから始まって、「取引先への電話確認連絡」という業務まで見極めることができました。

そして、この後に、実際に作業者の隣に誰かが調査のために立って、それぞれにどれくらいの時間がかかっているのか調べます。細分化するだけではなく具体的な時間を調べるべきです。

そして、この場合では、一件あたりの時間が出るので、一日合計件数を掛け算すれば、一日の時間が計算できます。そして、週、月、年間あたり時間も求めることができます。

さらに、この業務分解で「業務標準時間」をも設定できます。この業務時間調査を、ベテラン担当者でやるのです。同一業務を新人の方と比較すれば、目指すべき業務時間もわかります。さらに、ベテランの時間を基準とすれば、理屈上、組織に何人が必要かを試算できます。今では1人の担当者がやっていることも、理論上は0.5人(工)ていどで良いとわかるかもしれません。

もちろん、単純な積み上げでは、実態と相当な乖離を生じます。それは、業務の途中でいくつかのトラブルや、あるいは緊急に入った仕事をこなすからです。したがってメイン業務×1.3倍くらいが平均時間だといったバッファーを設定します(これは仮置きでかまいません)。

重要なのは、次の分類です。業務内容を3分類にしてください。3分類というのは、付加価値を生むのかどうかでわけます。

・「VA(Value Added)」:付加価値を生む業務。「見積依頼先選定」「過去類似品の発注実績の調査・入力」「折衝」等
・「BVA(Business Value Added)」:付加価値は生まないもののビジネス上、必要な業務。「見積依頼書印刷」「見積依頼書FAX」「検収原票印刷」「SAP入力処理」等
・「NVA(Non Value Added)」:付加価値を生まず本来は必要ない業務。「請求票の修正作業」「見積書・仕様書の差し戻し」等

こうやってグラフ化すると、いかに「VA」すなわち付加価値を生む業務が少ないかわかり愕然とすることでしょう。

この3分類の基準はどう設定すれば良いのでしょうか。すなわち、3分類の微妙なライン(線引き)です。わかりやすい方法をお伝えします。それは、「適当で良いのでとりあえず決めてしまう」ことです。どこまでがVAでBVAかといった神学論争をやっても仕方がありません。とりあえずは決めてしまうのです。

問題はこれから新しい業務へ移行することが肝要です。この調査段階で深い分類は無意味です(このような場合は、単にBVAとNVAが多いと認めたくないために、なんでもVAといいたがる精神構造にこそ問題があります)。

業務時間についても現状把握をしっかりしましょう。現状把握をして付加価値業務が少ないとわかればそれだけで大きなインパクトがあります。

<つづく>

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