ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

決定版!サプライヤーマネジメント 9

~区別したサプライヤーへのアクション

前回は、区別したサプライヤーへのアクションとして、サプライヤーミーティングの開催について述べました。サプライヤーミーティングの3つの型である

1. 定期開催

2. 都度開催

3. 個別開催

の1.2について、その内容を述べました。今回は「3.個別開催」です。実は、このタイプの開催がバイヤーにとっては一番悩ましく感じられるはずです。

というのも、普段のバイヤーとサプライヤー担当者との商談・打ち合わせといったものは「個別」に開催されているわけです。その上で、なぜサプライヤーミーティングを「個別」にあえて開催する必要があるのか。このタイプでは、バイヤー企業側の購買力が、サプライヤー側の販売力と比較して、劣る場合を想定して開催します。私の尊敬するバイヤーの方の言葉を借りれば「買わせていただく」相手に対するアプローチです。日本では誤った「お客様は神様です」との認識に象徴されるとおり、一般的には買う側=バイヤー企業側の立場が強いとされています。そんな中で「買わせていただく」訳ですから、バイヤーとして、とても悩ましいサプライヤーを対象としたアクションになります。そして、その目的は「買わせていただく」に象徴される弱い立場でも、サプライヤーに対して一定の影響力を確保し、自社の都合をサプライヤーに聞き入れて貰うことです。

バイヤーが、サプライヤーにおこなう「自社の都合」とはどのような内容が想定されるでしょうか。QCDの頭文字である

Q:品質

C:コスト

D:納期

が典型的なものですね。しかし、最近では上記三項目に加えて、次のような内容をサプライヤーに対して要求しています。当然、サプライヤーの評価項目にも反映されています。様々な言い方が存在しますが、ここでは、

D:開発力

P:ポジショニング

として、話を進めます。

「買わせていただく」と表現するほど弱い立場で購買活動をおこなっているわけですから、QCDDPのいずれをバイヤー企業として評価しても、あまり良い結果ではないはずです。でもバイヤーは買わなければならないわけです。バイヤーとしても買わせていただくサプライヤーとは悩ましい存在です。このようなサプライヤーからの購入では、C:コストやD:納期など、サプライヤーの言いなりかもしれません。そんな相手と個別にミーティングを持つ必要があるのかどうか。私は「言いなり」の状態を打開する目的でも、ミーティングは持つべきと考えます。どのようなミーティングを想定するのでしょうか。これまで説明した項目にそって、典型的な例を見てみます。

開催頻度:できるだけ多く

開催時期:サプライヤーが了承して貰うタイミング

開催目的:バイヤー企業側のポジショニングのアップ

招集対象:招集しても良いが、バイヤー企業側から押しかける

開催内容:まず、相手=サプライヤーの話を聞く

ここで「言いなり」となっている部分をテーマにすることは得策ではありません。そもそも、なぜ「買わせていただく」のか。そのサプライヤーになんらかの優位性、もしくは希少性が存在するためです。他に変わりうるサプライヤーが存在しないからこそ、やむを得ず「買わせていただいている」のです。で、あるならば、C:コストやD:納期といった内容は、徹底的にサプライヤーの意向に沿っても良いのです。それよりも、このような状態になっているほんとうの理由である「優位性」や「希少性」の部分を、バイヤー企業として、より効率的に活用できるような諸策を講じるべきなのです。

このように優位性や、希少性を持つサプライヤーから供給を受けるモノやサービスは、バイヤー企業側の市場における優位性にも影響を与えるケースが多い事が想定されますね。製造業のケースでは、サプライヤーの新規開発に際して、購入側のニーズを、より多く反映してもらうことが必要です。市場での優位性確保を念頭に置いたアクションです。これには、調達・購買部門のみならず、バイヤー企業側の設計部門、生産技術部門、要すれば営業部門も含めたサプライヤーとの関係作りが必要です。サプライヤーの営業部門と、バイヤーとの「点」の接点ではなく、企業どうしの「面」の設定にするのです。その先導役を調達購買部門としておこなうわけです。「点」と「面」のイメージは、下図をご参照ください。

<クリックすると、拡大して別画面で表示されます>

価格・納期の設定は「言いなり」的要素が強い中で、企業同士の繋がりを「点」から「面」にする試みは、昔ながらの、サプライヤーから頭を下げられて当然といった認識のバイヤーには、とても難しい取り組みです。どちらかといえば、大人しく騒ぐことなく、言いなりを静かに継続したいというのが本音のはずです。そのままにして大きな影響の無いサプライヤーであれば、それもいいでしょう。しかし、調達・購買部門の「長年の懸案」的な困ったサプライヤーが存在するのであれば、やはりなんらかの対処が必要ですね。上図のとおり、関連部門を横断したサプライヤーとのリレーションを構築するまでには、一定の時間も必要です。しかし、こういったバイヤーの言いなりにならないサプライヤーにどのようにアプローチするかは、生き残るバイヤーには必須のスキルになります。

そして同時に、そのようなサプライヤーへ対応する一番の処方箋は、競合状態を創出するために、新たなサプライヤーの開拓を同時並行で進めることも必要です。この辺は、次回の「新規サプライヤー開拓」で述べることにします。

 <つづく>

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