ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・25のスキルと知識がバイヤーを変える

今回も引き続き、「調達・購買担当者として必要な25の知識・スキル領域」を使っていきたい。この25の知識・スキルを学べば、トップバイヤーの仲間入りとなる。この連載では、当25領域を一つずつ解説している(新規購読者の方々はバックナンバーを見ることができるまで、1ヶ月お待ちいただきたい)。

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今回は連載の9回目だ。今回は、「海外調達・輸入推進」のE「海外サプライヤとのコミュニケーション・法規」だ。今回で「海外調達・輸入推進」は完了する。海外調達実務から発展して、海外サプライヤといかに意思疎通を図るか、そしてどのような法規を知らねばならないか。仕上げとしてお読みいただきたい。

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・海外サプライヤとのGAP

日本人バイヤーが海外サプライヤと取引を開始しようとするとき、あるいは開始したあと、三つのGAPが存在する。

1.品質に関する考え方のGAP
2.使用言語のGAP
3.文化のGAP

これらは海外調達・輸入推進というよりも、海外企業とつきあうときの一般的な課題ともいえる。これらのGAP解消することが、日本人調達・購買担当者のこれからの仕事の一つと言っても良いはずだ。

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これらのGAPについて、何か特定の施策によって解決するわけではない。全方位的な改善を試みるしかない。

1.品質に関する考え方のGAP
これまで、日本のものづくりでは各工程での不具合防止が、中長期的にはものづくりの競争力向上につながると信じてきた。しかし、アジア諸国では、ときに最終検査でふるい落とせば良いよ、という発想になりがちだ。ただ、品質については日本流の考えを伝達することが必要になる(と少なくとも私はそう考えている)

2.使用言語のGAP
日本語は、「あうんの呼吸」を許容しやすい言語だ。たとえば、「よろしくお願いします」を他言語に訳することは難しい。「よろしくお取り計らいください」も外国文化からすると理解不能だろう。海外とのビジネスを展開する以上は、できるだけ明文化による定義を目指さねばならない。

3.文化のGAP
QCサークルを代表とするボトムアップの文化が日本にはある。また、各社員の役割責任をあまり明確に規定しないことが、日本企業の強みでもあった。ただし、海外企業では、強いトップダウンが文化を形作っているし、社員の業務についても「ジョブディスクリプション」と呼ばれる、各社員の役割責任を明確化したものが一般的だ。これも海外とのビジネスを展開する以上は、できるだけ先方文化との融合を目指さねばならない。

・「1.品質に関する考え方のGAP」について

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奇策はない。「海外サプライヤを巻き込んだ品質管理体制の強化」「取引開始前に品質向上目的を伝達」「日本流の品質向上プロセスの指導強化」と書いている通りの地道な活動が必要となる。

なかでも「取引開始前に品質向上目的を伝達」が重要であるように私には感じられる。なぜ、日本側がそれほど高い品質を求めているかわからない。これが海外サプライヤの正直な感想だからだ。一つの不良品は、多くの関係者を動かす。また、顧客からの信頼を失う原因となる。ゆえに、一見すると高コストであっても、品質の向上を図ることは中長期的なコスト安につながる。

……という内容を、自社の言葉、バイヤー自身の言葉で語らねばならない。納得感を醸成することこそが、海外サプライヤの品質を確保することになる。この事実はもっと強調されて良い。

納得感を醸成できなければ、このような会話が生じる。みなさんは、このようなサプライヤ(例では中国サプライヤ)になんと言うことができるだろうか。自社の言葉、バイヤー自身の言葉を考えなければいけない。

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・「2.使用言語のGAP」について

次に、言語のGAPについて考えていこう。ここではテクニカルな話をお伝えしたい。日本語の言語としての構造ではなく、実務的に「外国人と齟齬のないやり取りをするため」の手段を述べていきたい。

まず、伝わる文章を書くためには、自分の書いた文章を何度も読みなおして、曖昧性が残っていないかを確認することだ。図のなかに、あげているとおり、文章で述べたいことをあえて明確化する。「可能・不可能」「必要・不必要」などをハッキリさせる。

とくに日本人は、「about~」「more than」「less than」「soon」等の表現を使いがちだから、英文メールでは禁止するくらいが良い。

また、対話では「日本語英語」や「日本独自語」の使用は控えたい(なお、余談だが、以前の職場で通訳者に対して、「殺生やで」「堪忍してな」「しんどいですわ」という日本語表現を中国語訳させていたひとがいたけれど、ニュアンスは伝わっていたのだろうか)。加えて、通訳を利用するときも、対話の相手をしっかり見つめることは心がけたい。

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・「3.文化のGAP」について

文化GAPもたやすく解消することは難しい。しかし、不可能ではない。ここでも、大きくは三つのステップを経る。

1.「仕事のやり方」へのアプローチ
2.「仕事の考え方」へのアプローチ
3.「融和」へのアプローチ

説明は図に示した。ここで、この三つのステップに共通して重要なのは、(凡庸な言い方ではあるけれど)「言いたいこと、わかってほしいことは、伝わる」と信じることだ。

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自社の海外工場、あるいは先方の海外サプライヤで、退職者がいたときは貴重な機会となる。会社を移る前に、彼らの本音を聞き出すことができるからだ。<2.「仕事の考え方」へのアプローチ>と書いたものの、日本人以外の国民が、仕事にどのように取り組んでいるかを実感として得るのは難しい。そこで、退職者に去り際に、

・なぜこの会社を去るのか
・新たな職場はこの会社と比べて何が優っているのか
・今後のキャリア戦略は

などと聞いていくと、各国各様の事情がわかるだろう。ヒアリングによって、想像もしなかった実態について知ることができる。

個人的な話をすることをご容赦いただきたい。以前、私は自動車会社に勤めていた。そのとき、アメリカのパートナーが会社を辞すことになった。なぜ辞めるのか、と聞いた私に彼は「製薬会社の購買をすることになったからだ」と答えた。「もちろん、仕事自体が私にとってチャレンジでもある。ただし要はサラリーの問題です。時間的に余裕もあるから、生まれたばかりの息子と接する時間も増える。家族を幸せにすること以外の喜びはないのです。さよなら、またどこかで会いましょう」と。

彼はいまどこで何をしているのだろう。

・法規関連知識「金型図面の海外流出防止」について

さて、話しは法規関連知識に移る。法規というよりも、基本事項として「金型図面の海外流出防止」をあげておきたい。調達・購買担当者は、自分が調達している製品の金型メーカーを把握していないことが多い。Tier1メーカーで金型を生産していることは稀で、Tier2メーカーが担うことが多い。そうなると、調達・購買担当者は、金型メーカーと対面する機会がほとんどなく、結果として金型メーカーの知的情報を流出させがちになる。つまり、軽んじてしまうわけだ。

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実際に、日本金型工業会の資料によると、「金型メーカーの作成した金型図面や金型加工データが、金型メーカの意図しない形で金型ユーザに提出させられ、それを利用して海外で2号型以降を製造するケースがあった、と回答した企業が40%に上」るようだ。これは由々しき事態といわねばならない。

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実務的な観点から、起こりがちな事象は次のとおりだ。

1.購買担当者が金型図面を勝手に利用して海外サプライヤに見積を依頼するケース
2.設計担当者が金型図面を勝手に利用して海外サプライヤに見積を依頼するケース
3.購買担当者が、金型図面を用いて海外金型メーカーに見積を入手せよと、サプライヤにに依頼するケース

他にも考えられるだろう。ただ、ここでの主旨は、金型図面とは金型メーカーのノウハウや工業所有権のかたまりであるため、流出させてはならないことだ。経済産業省の通達にもあるとおり、それは技術流出にもつながる。

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調達・購買担当者、調達・購買部門として、社内に金型情報漏洩防止の徹底を講じて行く必要がある。

・関税法、外国為替及び外国貿易法・輸出貿易管理令について

次は関税法について説明する。関税法とは、関税定率法の上位法。輸入禁止品目等を定めているものだ。当法では<外国から輸入される貨物については、わが国の産業、経済、保険、衛生、公安及び風俗等に悪影響を及ぼすものがあり、これらの貨物について、わが国では、それぞれの国内法令によって「輸入の制限」を行っています>としている。

図で代表的なものをまとめておいた。もちろん、このようなものを海外調達しようとする調達・購買担当者はいないだろうけれど、あらためて認識しておきたい。

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この関税法に加えて、外国為替及び外国貿易法・輸出貿易管理令がある。これは大量破壊兵器等が輸出されないように規制されたものだ。輸出だからといって調達・購買担当者と無縁ではない。なぜならば、海外サプライヤに技術情報を与えることも内容によっては「役務の輸出行為」になるし、海外サプライヤが訪日したときに自社工場を見学してもらうことも内容や相手企業によっては「役務の輸出行為」になりうる。担当者個人にも罰則が適用されるため、注意しておきたい。

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電子政府の総合窓口「イーガブ」 http://law.e-gov.go.jp/ で外国貿易法・輸出貿易管理令を閲覧可能だ。規制品目を見ていただき、これに類する関連企業はひっかかる可能性がある。

*たとえば武器関連製品事業を有す企業の場合、調達・購買担当者が武器を調達していなかったとしても、その企業が得た情報を武器に転用する可能性がある。そのため、企業全体の事業領域を把握する必要がある。

また、武器・原子力の関連技術は輸出許可が必要なのはいうまでもない(「リスト規制」)。これに加え、ホワイト国以外の国であれば、武器・原子力の関連技術でなかったとしても、輸出許可・役務取引許可を取得する必要がある(「キャッチオール規制」)。

ホワイト国とは、日本にとって安全=白=ホワイトな国であり、多くの場合は外交的にも友好な国が多い。

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最後に紹介するのが経済産業省の「Know通達」というものだ。<何らかの理由で(事実かどうかはわからなかったとしても)、自社製品・役務等が武器・原子力等に用いられるとわかったときには、経済産業省に報告し、指示を仰がねばならない>としている。これは経済産業省「安全保障貿易管理」のHPにも明記されている。http://www.meti.go.jp/policy/anpo/index.html 

引用すると<「輸出貿易管理令第4条第1項第3号イに規定する核兵器等の同号イに規定する開発等若しくは輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令の別表に掲げる行為のために輸出貨物等が用いられることとなること等を輸出者等が知った場合の取扱いについて」の規定に基づき、次のとおり報告いたします>として報告を義務付けている。

今回は法規などややこしい話が多かった。ただ、これら海外調達の包括的知識を習得して、いよいよ実践だ。みなさんの前には海外の大きな世界が広がっている。

次回もお楽しみに。

 <つづく>

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