バイヤの「超」基本業務(牧野直哉)

「超」基本業務の今回は「見積依頼」の4回目です。この記事では、読者の皆さんが日常的に、既に確立されたルーチンの中でおこなわれている業務=基礎的業務を、

1.より「確実化」する
2.より高度な業務を進めるための「足がかり」を確固な状態にする

の2点を目的にします。

●見積依頼~RFQとRFPの2回目

前回は、購入ルート/商流によるRFPとRFQの使い分けをお伝えしました。今回は発注する範囲からRFPとRFQの適用法を考えてみます。次の画像をご覧ください。

<クリックすると、別画面で表示されます>

上記は、同じ製品を購入する場合でもサプライヤの持つ「リソース」の種類によって異なる「発注範囲」を矢印で4種類イメージしました。Case1の場合は設計段階から出荷輸送までのすべてをサプライヤがおこないます。一方、Case4では、製品に必要な加工や組立といった部分のみ、限られた範囲をサプライヤに発注します。Case1とCase4では、発注内容が異なっています。これは、発注する製品に関するサプライヤの持つノウハウの違いを意味します。Case1は、設計段階から対応が可能です。したがって、バイヤ企業は「機能」と「制約条件」を提示すれば、欲しい製品を入手できます。一方、Case4は、Case1と比較して不足する発注範囲を、バイヤ企業側でおこなう、あるいは他のサプライヤに別に発注しなければなりません。手間という観点では、Case1が手間がかからず、購入価格ではより付加価値の小さいCase4が有利となります。

この2つのケースでは、Case1はRFPでバイヤ企業であれこれ検討するよりもサプライヤに提案を求めます。一方Case4では、RFQで具体的に事細かな発注範囲をバイヤ企業で指定します。どちらが良いとか悪いではなく、サプライヤの対応可能範囲とバイヤ企業の都合(希望)で最適な発注範囲を求めます。

●見積依頼と価格交渉の深い関連

見積依頼が持つもっとも重要なポイントは、価格交渉との深い関係です。次の図をご参照ください。

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価格交渉をどのタイミングでおこなうのか。価格交渉に重きを置くバイヤほど、見積を受領してからが交渉本番と考えています。バイヤ企業に提示された見積金額とは、見積依頼内容の数値化・金額化です。したがって見積依頼内容によって、見積金額に影響をおよぼす、あるいはコントロールも可能なはずです。見積依頼の時点で、後々のプロセスで到来する価格交渉の前哨戦をおこなう、いうなれば交渉をおこなうポイントの前倒もできるわけです。具体的は、3つのアクションです。

(1)不確定要素をなくす、あるいは極力少なくする

短納期対応や設計期間の短縮は、見積依頼の確定にも大きな影響をおよぼしています。購入仕様書や、図面が未完成な状態で、サプライヤから見積入手を強いられたご経験をお持ちの方も多いことでしょう。しかし、不完全な購入仕様書や図面による見積依頼は、見積を提示するサプライヤには大きなリスクが伴います。バイヤ企業と同じくサプライヤでもあらかじめ予見できるリスクはヘッジします。不確定要素の多い見積依頼に含まれたリスクは、見積金額に如実に反映されます。

購入要求部門(バイヤ企業)の都合で、なかなか購入仕様書や図面が完成できない事態も想定できます。そのような場合は「不確定部分の明確化」をサプライヤとの間でおこないます。不確定な点は、どのような想定の元で見積金額を算出したのかを明確にします。私の経験でも不確定要素はサプライヤ側のコストに悪影響をおよぼす前提=余裕を持ったコストでの金額積算が多くなります。したがって、見積依頼の段階だからといって、サプライヤの標準的な条件で、と安易に決めずに、どのような条件下で見積をおこなうのかを明確にします。不確定要因をそのままにせず、わからない部分を、範囲や項目として明確にします。

(2)サプライヤと同じく「見積」をやってみる

サプライヤに渡した見積依頼書でバイヤも見積してみます。まったく初めて購入するアイテムでなければ、過去の実績や類似品から類推して、ある程度の価格を算出できるはずです。ポイントは算出作業の中で「困った」部分です。「困った」原因は価格算出根拠の不明確さです。理想では見積依頼書が完成してから見積書をサプライヤへ提示する間のタイミングでバイヤが見積作業をおこない、「困った」部分を、見積提示後でなく依頼時に「御社ではどのような基準で見積するのか」と質問してしまいます。

このアクションで期待する効果は、サプライヤに「このバイヤにいい加減な見積は出せない」との印象づけです。算出する価格はさほど重要ではありません。どのようなプロセスで価格を算出したのか。こういった取り組みは、バイヤのおこなう見積算出プロセスと、サプライヤのおこなうそれには、大きな違いがあるでしょう。しかし、この違いを修正して精度を増してゆけば、バイヤ見積でかなり正確な数値の算出が可能です。

(3)バイヤ企業の予算や発注予定価格を提示する

この取り組みには、いろいろなご意見があるでしょう。私も可能な限りにおいて、事前に予算や発注予定価格の提示はおこないません。しかし、このタイミングで数字の提示は、まさに交渉の始まりと位置づけられます。ポイントは、サプライヤ側のモチベーションをそがず(=過度に安くなく)に、ぼろ儲けもさせない数字の提示が可能かどうか。これは(2)のプロセスの後工程とも位置づけられます。

(つづく)

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