ほんとうの調達・購買・資材理論(番外編)「コスト削減手法の潮流」について
このところ調達・購買に関する報告書を出す企業が多くなってきました。もちろん景気は上向きつつあるのかもしれませんが、経営合理化を求める動きは加速しています。経営合理化といっても、すぐにコストに反映できるのは調達費用です。そうなると、これまで以上に調達・購買部門が注目せざるをえません。
もちろん調達・購買部門が注目されているなど、10年も前から言われていたことではあります。が、とくに東京電力の事故以降、ムダなコストは流出させずの意識は高まってきたように肌感覚として思います。東京電力は経営合理化を徹底的に進めて、発生する(している)補償金の原資とせねばなりません。そういう状況は特別ではあります。が、東京電力だけではなく、電力各社も追随しています。
この動きは、当然、電力各社の各ティア・メーカー、各ティア・エンジニアリング企業、各ティア・建築/建設企業にも波及しています。要するに、調達品を下げねばならない電力会社からの圧力がかかっているわけです。そして、さらにティア2、ティア3と、その連鎖は続きます。
このことについて良し悪しはわかりません。コスト削減圧力がかかることは取引先にとっては望ましいことではないかもしれませんが、電力各社が経営合理化をはかることは無意味ではないはずです。
さて、話を戻します。「このところ調達・購買に関する報告書を出す企業が多くなってきました」と書きました。この時期は株主総会が開催され、本年度の経営計画について語る機会が多いのです。そこで、各社の内容を拝見しますと、「順位配分競争」なる単語が出てきます。ここでは、この単語を解説してみます。もちろん一部のひとには古臭くはあるのですが、他の方々には新鮮なコスト削減手法かもしれません。
そこで、解説する前に、コスト削減手法をおさらいしてみます。
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私はいくつかの書籍で書いたようにコスト削減手法を分類すると、極論では4つしかないと考えています。
・安いものを買う
・安いところから買う
・安くする
・買わない
の4つです。その内容は、上図にゆだねます。端的には、
・安いものを買う→技術的に安価なものにする
・安いところから買う→安価なサプライヤを探す
・安くする→折衝などで安価にする
・買わない→数量を抑える
です。そして、続けていうならば、よく使われるのは、次のようなものでしょう。
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別段、新しいものは存在しません。が、ここに記載した「順位配分競争方式」を解説する前に、「安くする」の「ターゲットプライス」だけ簡単に補足しておきます。
たとえば、バイヤーが原価計算をして100円であるものについて、100円をターゲットプライスとして提示するかについてはさまざまな意見があります。なぜならば、100円を目指せばいいと明確にはなるものの、100円以下の見積書を提出したサプライヤを選択しないとき「言い訳」が必要だからです。いつの時代も「いくらだったら買ってくれるんですか」なるサプライヤの発言は返信に困ります。
が、ここでいう「ターゲットプライス」は受注上限に使用するのがミソです。つまり、100円は目指すべきものではなく、最低限クリアしなければならない境界線と位置づけるのです。これで、100円を下回っていても、それは競争への参加表明にしかなりません。これならば言い訳も不要だと、最近は使われているテです。ご参考までに。
さて、話を「順位配分競争方式」に進めます。
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これは図を見てください。この方式の特徴は、「コスト安価」と「安定調達」両方を志向するものです。具体的には「1社だけに発注しますよ」と宣言するのではなく、むしろ「シェアを配分します」と宣言したうえでの競争なのです。ただし、もっとも安価なサプライヤにはシェアをかなり多めにするとして徹底的に競争はします。
例では、サプライヤAが見積書価格1億円ともっとも高く、発注シェアを70%とします。もちろんこの70%は,80%でもかまいません。ポイントはイニシアティブをつけることです。
さらに肝要なのは、おなじく例でいうと、
・サプライヤA:70%
・サプライヤB:5%
・サプライヤC:25%
でわけたうえで、「可能であれば合意のもと全社1億円で契約を締結し調達」するところです。もちろん、他社価格をそのまま提示するわけにはいきませんので、バイヤーは「目標価格」として提示する必要はあります。が、こうすることによって、三社のマルチソース(配分)が可能となります。
もちろん、これは現実にあてはめようとするとたやすくはありません。が、この手段は理屈としてはありえます。細かなところでは、5%しかシェアのないサプライヤはむしろ値上げを申請するのでは、とか、完全に代替できるものではないと難しいのではないか、とか、いろいろとあるでしょう。ただ、手法の一つとして、昨今よく目にする単語の解説でした。
とはいえ、代替可能な材について、3社分散調達が可能なメリットは大きいはずです。自社への応用を考えてみる価値はあるでしょう。これ以降も、流行語を折に触れて解説していきます。
(おわり)