ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)
・25のスキルと知識が調達・購買を変える
今回も調達・購買の5×5マトリクスを使い、調達・購買スキルや知識を紹介していこう。この連載をお読みの方はおわかりのとおり、私は調達・購買人員に必要なスキルや知識は25に集約されると考えており、その解説を行なっている。
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今回は、「生産・ものづくり・工場の見方」のD「TPMの生産指標」だ。
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TPMとは「total productive maintenance」の略で、「総合生産保全」と訳されることもある。生産活動全般を対象にして、生産を阻害する要因を見つけ、分析し、その発生の未然防止を目指すものだ。このTPMは本来、従業員・生産設備・企業全般の体質改善を目標とするものではあるものの、ここでは工場の生産性指標に特化して説明していく。
結論から提示すると、次の表を見てほしい。
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ここでは暦時間をベースとし
・操業時間=暦時間-休日
・負荷時間=操業時間-計画休止
・稼働時間=負荷時間-停止
・正味稼働時間=稼働時間-チョコ停(ささいな停止時間)
・価値稼働時間=正味稼働時間-不良
となる。
よく使われる稼働率とは、人によってさまざまな定義があるかもしれない。ただし、TPMでは明確に「設備稼働率」を稼働時間÷操業時間と定義している。また、設備総合効率は、価値稼働時間÷負荷時間だ。価値稼働時間とは、計算式を見ていただいておわかりのとおり、良品を生産しているコアの時間を指している。したがって、設備総合効率とは、設備が動きうる時間(操業時間)のうち、どれだけ価値を創出しているか、お金になる仕事をしているかを計算するものだ。
これらの単語の定義を覚えていただければ、工場現場で飛び交う意味も理解できるだろう。
加えて、用途によるものの、考えうる他の指標もあげておこう。
・操業度:稼働可能時間÷(365日×24時間)
・時間稼働率:稼働時間÷負荷時間
・設備パフォーマンス:価値稼働時間÷負荷時間
・時間あたり生産量:生産量÷稼働時間
・1回あたり段取り時間:月間段取り時間合計÷月間段取り回数
これらを総合的にチェックし、工場の優劣を判断していく。
・編成効率とバランスロス
くわえて、定量的な指標という意味で、編成効率とバランスロスをあげておく。
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編成効率とは、生産ライン上で、各作業者の配置が正しく行われているかを見るものだ。上図では、サンプルとして、同一ラインに5名の作業者がおり、かつ目標のサイクルタイムが8秒であるとした。
そこで、作業者のサイクルタイムを見てほしい。実際の工場では、これほどばらついてはいないだろううが、5.8秒~7.5秒とかなりの幅がある。ここで使えるのが編成効率というもので、計算式は
・編成効率=各作業者の作業時間÷(作業者人数×目標サイクルタイム)
となる。
この分子である、「各作業者の作業時間」には、作業者のサイクルタイムの合計をいれてほしい。分母は設定された時間の合計になりますから、それによって、どれだけ適切な配置かどうかを計算する。
もちろん、各作業者が目標サイクルタイムをフルに使用していれば、この編成効率は100%だ。つまり、まったくのムダがなく、かつどの作業者も目標サイクルタイムをちょうど守っていることになる。
サンプルでは、バラつきがあったので、編成効率の結果として表れる。編成効率は84.75%だった。
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同時に、バランスがとれていないところが「バランスロス」だ。これは1から編成効率を減じたもので、どれだけの時間がムダになっているかを表現している。このバランスロス値が大きいほど、これら一連のライン作業を見直すべきだ。
「生産・ものづくり・工場の見方」のB「サプライヤ工程把握」と重複するので簡単に述べると、バランスロスが大きな場合は、作業者を一人減らす、または目標サイクルタイム自体を短縮する必要がある。すると、生産性の高いラインになる。
・各工程の作業バランス
最後に工場全体を俯瞰し、各工程の効率を見る方法について説明する。さきほどの編成効率やバランスロスは、同一ラインでの指標だった。それを工場全体に拡大して考え、各工程の負荷を見てみよう。
まず、縦軸に時間、横軸に工場のそれぞれの工程を列記します。
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もちろん製品によっては1工程目だけで完結するかもしれない。あるいは、2工程目と3工程目の二つを使うかもしれない。それは製品の種類によって異なる。ここでは、各工程が、一日のうちどの品目を生産しているのか、そしてそれぞれどれくらいの時間を費やしているのかを調査する。そして、調査後に、テトリスのブロックのように並べてみる。
こんな感じだ。
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すると、5工程目は一日フルに生産していることがわかる。逆に4工程目は、空き時間が多いようで、一日の半分は何もしない状態が続いている。ここに、工場が定める操業基準時間を引いてみよう。
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すると、この工場の各工程の効率性と、検討すべき項目がわかる。
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当然、操業基準時間に達していない工程は、機会損失を生んでいる。この場合は、1・2・4工程目だ。新たな生産品を設定してあげないと、空き時間ぶんは売上もないし、減価償却費という見えないコストが垂れ流されている。もしかすると、この工程自体を止めてしまって、外部に委託したほうが安上がりかもしれない。
逆に、5工程目は前述のとおりフル生産を続けている。操業基準時間と照らすと、負荷オーバーであり、納期遅延等の恐れがある。また、設定時間を超えているので、品質などの劣化の可能性もあるかもしれない。この領域は、1・2・4工程目とは違う意味で、キャパシティーを超えているので外注の検討をせねばならない。
この作業時間分析は付加価値分析とも呼び、どの工程が活躍して工場に付加価値をもたらしているか、そしてどの工程に問題があるかを見るものだ。当然、時期や年度によって異なる。ただし、繰り返すと工場はコストの雨が振り続けている。この雨にいかに濡れないようにしていくか、調達・購買担当者は意識せねばならない。
サプライヤ工場のコストは、見積りに直結する。もちろん、工場のコストが改善したからといって、すぐさま見積りが安くなるかはわからない。ただ、中長期的にはコスト体質にすぐれた工場から生み出される製品コストは、必ず安くなる。少なくともそう信じることで、工場を見学する調達・購買担当者に、これまでと違った意識が芽生えると私は思う。
定量的な指標で、まずはサプライヤのデータを把握すること。そして、それをなんとか改善に結びつけようとすること。ここに調達・購買業務の肝要がある。
<つづく>