ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●社内関連部門とのコラボレーション力 2~経理・財務部門

前号より始まった「社内関連部門とのコラボレーション力」。今回は、経理・財務部門について述べることにします。このシリーズでは、一般的な企業内各部門の機能や職責について、多く述べることはしません。各部門については、既にさまざまな文献が存在します。今回のテーマは、コラボレーションです。したがって、社内関連部門との関係の中で、調達購買部門としての業務を円滑に進めるための考え方を述べてゆくことにします。

◆予実管理への対処

予実管理とは、「予算」と「実績」を対比させ、それぞれの比較に留まることなく、その分析や改善のアクション、意志決定への反映まで含めた管理とすることが望まれています。企業によっては「予算管理」と、同じ意味で使われています。

調達購買部門にもっとも関係の深い予実管理は、コスト削減です。「削減」するためには、コスト削減をする前の基準となる購入金額が必要です。購入予定であった金額を「予算」として、その金額レベルで経理・財務部門が認識しているかがポイントです。

ここで重要な点は、読者の皆さんの勤務先が、どのようにして予算を決定しているかという仕組みを理解することです。仕組みを理解して、その仕組みに沿って、購入予定額を認識し、コスト削減へのスタート点とするのです。そして、調達購買部門として、独善的な予算設定をしてはなりません。サプライヤーから入手した見積金額対比で、交渉の結果で見積金額よりも低い金額での購入が実現できたとしましょう。例えば、こんな例です。

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過去に実績のない部品を買わなければなりません。仕様書と図面を元に見積依頼書を作成して、サプライヤーに見積依頼をおこない、見積書を入手しました。見積金額に対して、供給範囲と価格の確認をおこないました。結果、見積金額は、上記の通りとなりました。さて、ここでの当初見積金額と、仕様確認後の見積金額の100円の差額は、コスト削減でしょうか。

「当初」と「仕様確認後」との間に、どのようなバイヤーとしての取り組みがあったのかも、もちろん重要です。しかし、コスト削減として業績への貢献をするのであれば、「当初」を予算として経理・財務部門が認識していたかどうかで決まります。

基準となる「予算」は、前会計年度の購入実績であったり、受注可否の判断となった受注時の想定コストであったりと、企業の事業内容によってまちまちです。一つ確実に言えることは、実際に購入段階には、ほぼ予算は決まっているということです。近年の調達購買部門では、開発購買といった形で、購入検討の初期段階からの取り組みがおこなわれています。これは要求部門、製造業では技術部門との共同した業務を想定しています。私は、同時に経理・財務部門へも、予算の確認という形で、早期段階でのアプローチが必要なのです。

もう一つ、予実管理との観点で、経理・財務部門へのアプローチが必要となるケースがあります。それは、会計年度の期末が押し迫った段階での、購入予算の順守です。例えば、3月末に年度末決算の企業を想定します。3月末までに当該会計期の購入処理をすべて完了すれば良いのでなく、調達購買部門として、事前に見通しを提示しなければならないはずです。経理・財務部門に一度提示した購入見通し金額は、見通しと同じ、もしくは近似の金額で購入しなければなりません。調達購買部門の責任に拠らずに、購入金額が変わるケースもあるでしょう。そのような事態に陥らないために、サプライヤーの見積金額について、社内関連部門を含めた情報収集をおこない、購入金額の変動の掌握が必要です。この取り組みが実行されない場合に、どのような問題が発生するのでしょうか。

自社株式を公開している企業では、決算の見通しを発表しています。調達購買部門による購入費用の見通しも、株主の投資判断に影響する決算見通しのベースになるデータです。予定はあくまでも予定と開き直るのでなく、この仕事は経理・財務部門は、調達購買部門の後工程になります。もし、見通し数値と実績に差異が発生した場合には、その原因を調査して、理由と共に報告しなければなりません。そのような取り組みが、信頼関係のベースとなるのです。

◆サプライヤーへの支払いの仕組み

調達購買部門が業務を進めて購入した後、対価をサプライヤーに支払わなければなりません。ある期日をもって検収した場合、サプライヤーと合意した条件にもとづいて、支払いがおこなわれます。この支払いの元になる「条件」も、企業毎、サプライヤー毎にさまざまな条件設定が想定されます。多くの企業では経理システムの元で、パソコンの中で処理されてしまう業務でしょう。ここで押さえておくべきは、サプライヤーへの支払いを最短でおこなう場合に、どのような手続きが必要で、所要日数はどの程度かということです。日常的な支払い処理は、調達購買部門で意識せずともおこなわれます。しかし、急遽支払わなければならない場合を想定して、支払いに要する日数は掌握しておく必要があるのです。

<つづく>

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